153 / 172
第10章「沈黙の祭り」
第10章「沈黙の祭り」その16
しおりを挟む「俺でいいのか…?」
「うん!フェアンじゃなきゃだめなんだ!」
そう言ったアリンの目はもう泣いてなどなく決意に満ち溢れ光り輝いていた。
「わかった。一緒に行こう。どこまでも一緒だ!」
2人は微笑み合いどちらからともなく優しくキスをした。
アリンが気持ちを伝えてくれた。もう俺だけ秘密にしておくわけにはいかない。
初めは可愛いアリンに嫌われたくない、もう少し一緒にいたいという気持ちだけだった。でもそれが共に過ごすようになり、幸せな事も辛い事も分かち合う中で一生そばにいたいと思うようになった。
ーー伝えよう。自分がルシュテン王国の王子だということを。
そして、この日に共に生きてくれるようアリンへの永遠の愛を誓おう。
ーーー
「う~…蒸し暑いね、まだ6月になったばかりなのに…」
ノスティアからデリアへ向かう道のりは山道を通る。6月と言う事もあり道中は木々が生い茂り湿気で汗が体に張り付いた。アリンを俺の前に座らせて馬で移動しているが、猫獣人は人間よりも体温が高いからかアリンは見るからに辛そうで休ませならなければいけないのは一目瞭然だった。
「アリン、一度休もう。」
「ごめんね、僕、他の猫獣人より暑いの弱いみたいで…」
「気にしなくていいさ。まだ時間はあるから休みなさい。ほら水を飲んで…。」
木陰にアリンを下ろしあらかじめ用意しておいた水筒をアリンに渡した。そして自分のカバンからタオルを取り出すとアリンへ告げた。
「アリン、タオルを川で絞ってくるから少し待っててくれるか?冷やした方がいいから…」
「えっ…そこまでしなくていいよ!」
「ダメだ!少し冷やそう、な?」
「う、うん…ありがとう!」
照れるアリンの頭を優しく撫でると近くの小川に向かった。
「ここでいいか…」
サラサラと流れる川にタオルを浸しぎゅっと硬く絞る。そのままタオルを近くの岩に置くとアリンが自分を見ていないかを確認し、ポケットに手を入れた。
ーー1週間ではこれしか用意できなかったが…。
フェアンの掌には木でできた小箱があり中にはシルバーの細いリングが入っていた。
なんの変哲もないただのシルバーリングだが、宝石屋などないノスティアでは、買えるのはこれが限界だった。しかし裏側には永遠の愛を表す『etarnal love』の文字が彫ってあり、それはフェアンが店主にお願いし自分で刻印したものだった。
小箱をもう一度ポケットに大事にしまうと、タオル片手にアリンの元へ走った。
急いで戻るとそよそよと優しい風が流れる中アリンは気持ちよさそうに木にもたれかかり眠っていた。
「アリン…?冷たいタオルだよ。」
「ん…?気持ちいい…。…あれ、僕眠っちゃってた?」
「暑かったからな、疲れたんだろう。もう大丈夫か?」
「うん…!後少しだし大丈夫!」
水分をとって少し眠ったおかげか顔色が良くなったアリンの額をタオルで拭いた。
その後アリン自分の前に座らせ馬の手綱を持つと目的の場所まで向かった。
しばらく歩くと、どうやらアリンの様子がおかしい。肩が小刻みに震え、血の気が引いているように見えた。
「フェアン…。こ、この場所なんだ…。」
ただの森のように見えるが、よく見るとその場所だけには木が生えておらずそこで何があったのかは容易に想像がついた。
アリンは5年前の光景が忘れられないのだろう。ただでさえ白い顔が真っ白になり涙が止めどなく溢れている。
「アリン…大丈夫か?」
「ぐずっ…ふっ……だ、大丈夫。フェアン、馬から…降ろして?」
「わかった。」
馬から降ろすとアリンはよたよたと事故のあった場所に座り込み叫ぶように泣いた。
「おと、さん…おかあさ…ん!ごめん、ごめんね。今まで来れなくて…。痛かったよね、怖かったよねっ…。ずっと来れなくてごめんね…」
まるで幼い子供のように泣くアリンの姿は見ている方も心を痛めた。
「うん!フェアンじゃなきゃだめなんだ!」
そう言ったアリンの目はもう泣いてなどなく決意に満ち溢れ光り輝いていた。
「わかった。一緒に行こう。どこまでも一緒だ!」
2人は微笑み合いどちらからともなく優しくキスをした。
アリンが気持ちを伝えてくれた。もう俺だけ秘密にしておくわけにはいかない。
初めは可愛いアリンに嫌われたくない、もう少し一緒にいたいという気持ちだけだった。でもそれが共に過ごすようになり、幸せな事も辛い事も分かち合う中で一生そばにいたいと思うようになった。
ーー伝えよう。自分がルシュテン王国の王子だということを。
そして、この日に共に生きてくれるようアリンへの永遠の愛を誓おう。
ーーー
「う~…蒸し暑いね、まだ6月になったばかりなのに…」
ノスティアからデリアへ向かう道のりは山道を通る。6月と言う事もあり道中は木々が生い茂り湿気で汗が体に張り付いた。アリンを俺の前に座らせて馬で移動しているが、猫獣人は人間よりも体温が高いからかアリンは見るからに辛そうで休ませならなければいけないのは一目瞭然だった。
「アリン、一度休もう。」
「ごめんね、僕、他の猫獣人より暑いの弱いみたいで…」
「気にしなくていいさ。まだ時間はあるから休みなさい。ほら水を飲んで…。」
木陰にアリンを下ろしあらかじめ用意しておいた水筒をアリンに渡した。そして自分のカバンからタオルを取り出すとアリンへ告げた。
「アリン、タオルを川で絞ってくるから少し待っててくれるか?冷やした方がいいから…」
「えっ…そこまでしなくていいよ!」
「ダメだ!少し冷やそう、な?」
「う、うん…ありがとう!」
照れるアリンの頭を優しく撫でると近くの小川に向かった。
「ここでいいか…」
サラサラと流れる川にタオルを浸しぎゅっと硬く絞る。そのままタオルを近くの岩に置くとアリンが自分を見ていないかを確認し、ポケットに手を入れた。
ーー1週間ではこれしか用意できなかったが…。
フェアンの掌には木でできた小箱があり中にはシルバーの細いリングが入っていた。
なんの変哲もないただのシルバーリングだが、宝石屋などないノスティアでは、買えるのはこれが限界だった。しかし裏側には永遠の愛を表す『etarnal love』の文字が彫ってあり、それはフェアンが店主にお願いし自分で刻印したものだった。
小箱をもう一度ポケットに大事にしまうと、タオル片手にアリンの元へ走った。
急いで戻るとそよそよと優しい風が流れる中アリンは気持ちよさそうに木にもたれかかり眠っていた。
「アリン…?冷たいタオルだよ。」
「ん…?気持ちいい…。…あれ、僕眠っちゃってた?」
「暑かったからな、疲れたんだろう。もう大丈夫か?」
「うん…!後少しだし大丈夫!」
水分をとって少し眠ったおかげか顔色が良くなったアリンの額をタオルで拭いた。
その後アリン自分の前に座らせ馬の手綱を持つと目的の場所まで向かった。
しばらく歩くと、どうやらアリンの様子がおかしい。肩が小刻みに震え、血の気が引いているように見えた。
「フェアン…。こ、この場所なんだ…。」
ただの森のように見えるが、よく見るとその場所だけには木が生えておらずそこで何があったのかは容易に想像がついた。
アリンは5年前の光景が忘れられないのだろう。ただでさえ白い顔が真っ白になり涙が止めどなく溢れている。
「アリン…大丈夫か?」
「ぐずっ…ふっ……だ、大丈夫。フェアン、馬から…降ろして?」
「わかった。」
馬から降ろすとアリンはよたよたと事故のあった場所に座り込み叫ぶように泣いた。
「おと、さん…おかあさ…ん!ごめん、ごめんね。今まで来れなくて…。痛かったよね、怖かったよねっ…。ずっと来れなくてごめんね…」
まるで幼い子供のように泣くアリンの姿は見ている方も心を痛めた。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
十年目の結婚記念日
あさの紅茶
ライト文芸
結婚して十年目。
特別なことはなにもしない。
だけどふと思い立った妻は手紙をしたためることに……。
妻と夫の愛する気持ち。
短編です。
**********
このお話は他のサイトにも掲載しています
僕の主治医さん
鏡野ゆう
ライト文芸
研修医の北川雛子先生が担当することになったのは、救急車で運び込まれた南山裕章さんという若き外務官僚さんでした。研修医さんと救急車で運ばれてきた患者さんとの恋の小話とちょっと不思議なあひるちゃんのお話。
【本編】+【アヒル事件簿】【事件です!】
※小説家になろう、カクヨムでも公開中※
北野坂パレット
うにおいくら
ライト文芸
舞台は神戸・異人館の街北野町。この物語はほっこり仕様になっております。
青春の真っただ中の子供達と青春の残像の中でうごめいている大人たちの物語です。
『高校生になった記念にどうだ?』という酒豪の母・雪乃の訳のわからん理由によって、両親の離婚により生き別れになっていた父・一平に生まれて初めて会う事になったピアノ好きの高校生亮平。
気が付いたら高校生になっていた……というような何も考えずにのほほんと生きてきた亮平が、父親やその周りの大人たちに感化されて成長していく物語。
ある日父親が若い頃は『ピアニストを目指していた』という事を知った亮平は『何故その夢を父親が諦めたのか?』という理由を知ろうとする。
それは亮平にも係わる藤崎家の因縁が原因だった。 それを知った亮平は自らもピアニストを目指すことを決意するが、流石に16年間も無駄飯を食ってきた高校生だけあって考えがヌルイ。脇がアマイ。なかなか前に進めない。
幼馴染の冴子や宏美などに振り回されながら、自分の道を模索する高校生活が始まる。 ピアノ・ヴァイオリン・チェロ・オーケストラそしてスコッチウィスキーや酒がやたらと出てくる小説でもある。主人公がヌルイだけあってなかなか音楽の話までたどり着けないが、8話あたりからそれなりに出てくる模様。若干ファンタージ要素もある模様だが、だからと言って異世界に転生したりすることは間違ってもないと思われる。

ご飯を食べて異世界に行こう
compo
ライト文芸
会社が潰れた…
僅かばかりの退職金を貰ったけど、独身寮を追い出される事になった僕は、貯金と失業手当を片手に新たな旅に出る事にしよう。
僕には生まれつき、物理的にあり得ない異能を身につけている。
異能を持って、旅する先は…。
「異世界」じゃないよ。
日本だよ。日本には変わりないよ。

公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
恋愛
公爵家の末娘として生まれた幼いティアナ。
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。
ただ、愛されたいと願った。
そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。
◆恋愛要素は前半はありませんが、後半になるにつれて発展していきますのでご了承ください。

飛び立つことはできないから、
緑川 つきあかり
ライト文芸
青年の不変なき日常に終わりを告げるように、数多の人々が行き交う廊下で一人の生徒を目にした。
それは煌びやかな天の輪っかを頭に載せて、儚くも美しい女子に息をするのさえ忘れてしまう。
まるで天使のような姿をした少女との出逢いが、青年の人生を思わぬ形で変えていくことになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる