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第10章「沈黙の祭り」
第10章「沈黙の祭り」その9
しおりを挟む何でこんな回りくどい言い方をしたんだろうな。
「じゃあ、僕はここで」
「羽塚くん」
歯切れのいい呼び声だ。
彼女の葛藤はもう消え去ったのではないだろうか?
もう彼女を苦しめる母親はいない。
クラスにおいても、優位な居場所を作った。
かつて感じた、僕とは少し違う世界に生まれた人間とはもうほど遠い。
しっかりこの世にいる、顔立ちが整った口の悪い美少女だ。
平木はいつか西山のように一軍に入るのだろうか?
そうなれば僕の右隣の彼女は、休み時間どこに行くんだろうな?
勝手な空想だけが僕の頭で遊んでいる。
「また明日」
「うん、また明日」
暗闇に消えていく彼女の背中がたくましくて美しく見えた。
ハァ、.................疲れた。
「ただいま」
すっかり日も落ちて、
くたびれたサラリーマンたちが家路を歩いていた頃に家に着いた。
靴を脱いで、リビングに入ると、母と妹がいた。
「おかえり。最近、帰ってくるのが遅いけど、どうしたの?」
母は僕の夕飯の皿にあるサランラップを外しながら、そう言った。
心配よりは怒りと戸惑いが混じったような顔だ。
「まさか、祐にぃ、夜遊びにはまったとか?」
妹は携帯を触りながら、本音にもないことを言っている。
正直、言い返すのも面倒だったので、洗面所で手を洗ってご飯を食べ始めた。
牛肉と豚肉が混じっているであろうハンバーグはまだ温かく、それでいておいしかった。
手前で食器を洗いながら、あきれた顔で言った。
「まあ、青春しているなら、それでよし」
「ああ」
母の言葉はうざったるく、でも温かく感じた。
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