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第10章「沈黙の祭り」
第10章「沈黙の祭り」その3
しおりを挟む「先生には言っておくから、早く絵の具持っていけば?」
この間の不機嫌な文田と打って変わって、今日は優しさの塊だ。
何か良いことでもあったのだろうか?
僕は昨日、諏訪先生がチューブ絵の具を取りだしていた引き出しから、
赤色のチューブ絵の具をポケットに入れた。
「ありがとう、文田」
「ん」
と、軽い返事をしながら、絵を描いている。
今なら言えるかもしれない、あの時の謝罪を。
「あと、それと、この間はごめんな。変なこと聞いちゃって」
文田は思い当たる節がないのか、筆を留めて、僕の顔を怪訝そうな顔で見て、
「変なことって?」
と聞いてきた。
「いや、何で昔から保健室に通っているかって」
僕が言ってから数秒後、ようやく思い出したようで、
「ああ、あの時は生理来てたから、イライラしての」
そう言って、恥いる様子も見せず、また筆を進めている。
今時の女子高生は生理のことをこんな堂堂と男子に言うものなのか。
「ああ、そうだったの」
「いつか、話したくなったら、話してあげる」
今話したくないのに、いつか話したくなる時が来るのか不思議で仕方がないが。
「ほら、教室、早く戻らなくていいの?」
「そうだった。ありがとう、文田」
そう言って、心が躍りながら、僕は美術室を勢いよく飛び出した。
一度、拒絶された人から優しくされるのは、こんなにも気持ちいいものなのか。
文田は言ってくれた。
やってみなきゃ、わからないって。
でも、僕は知っている。
自分の身分を、自分の非力さを。
このまま小西たちを説得しても、軽くあしらわれるか、
最悪の場合、次の日からいじめの対象になる可能性もある。
他人を動かすには、度胸だけじゃ足りない、知恵もいる。
でも、どう考えても、僕に他人を動かす方法なんて思いつかない。
「青春しなさい」「羽塚くんは今の私をどう思う?」
「それってあんたに言わなきゃダメなの?」「お前、西山のこと狙ってるのか?」
「どうだ、学校で困っていることはないか?」「何だ、自殺でもするのか。」
「私には悩みがあるの」
そうか、僕は自分の非ず力に頼る必要なんてないんだ。
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