落ち込み少女

淡女

文字の大きさ
上 下
139 / 172
第10章「沈黙の祭り」

第10章「沈黙の祭り」その2

しおりを挟む



「今日は先生はいないよ」

それはかつて、保健室に行った際に僕のいらない言葉によって憤りを表した文田だった。


この少女とはあの保健室以来、会っていない。

「羽塚じゃん、懐かしいね」

「まさか文田が美術部に入っているなんてな」

「私もまさか、羽塚が美術室に来るなんて思わなかった」


僕とうっすらとくまのある目を合わせることなく、

ただ立てかけているキャンパスに筆を進めている。

「絵、上手いな」

文田の描く絵は、絵心のある人の絵だとわかった。

薄めた絵の具を何度も何度も、塗っている。

色を帯びるにつれて、ただの四角形や円形が現実味を帯びるように

建物や日の丸だということが鮮明に理解できる。

保健室登校の不健康そうな少女には、こんな特技があったんだな。

「何で空が緑なんだ?」

初めて、その目が合った。

五月に会ったあの時と同じ、けだるそうな顔を僕に向けてきた。


「最近は空が緑に見えるの」


「すごいな。僕にはそんな才能ないや」

褒めるだけのつもりだったが、自分のことまで話してしまった。

文田は怪訝そうな顔をして、また絵を描き始めた。


「そういえば、あんたのクラス、体育祭の準備をやらされてるんでしょ」

「ああ、でも…」

「でも?」

「揉めてる感じなんだ」

「なら、仲裁したら?」

「僕にそんな力はないよ」

「やってみたことあるの?」

「いや、ないけど…」

「なら、わかんないじゃん」

なにを言ったらいいのかわからなくなった。

母親に怒られて、言い訳が尽きた子どものようだ。


「私はこの絵を描けるようになったのは、中学から始めて、三年くらい経っている。

あんたは才能みたいに言ったけど、何でも初めから上手くやれるわけがない」

胸がじんときた。それに少し遅れて、胸をつかれたようなショックを受けた。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
青春
とあるオッサンの青春実話です

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

小学生をもう一度

廣瀬純一
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

バーチャル女子高生

廣瀬純一
大衆娯楽
バーチャルの世界で女子高生になるサラリーマンの話

処理中です...