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第8章「私のレール」
第8章「私のレール」その10
しおりを挟むついに偶然じゃなくなった。
悩み部屋は平木だけが持っているものではなかった。
一度起きたことは、もう一度起こりうるというのは本当だったらしい。
線路沿いの道を歩いていた。
先ほどまで僕が無関心に見ていた景色を颯爽と横切る電車が減速して、
まるで亀のように踏切を越えようとしている。
こんなに堅くて速い鉄の塊が、自転車の速度に負けてしまっている。
西山もそうだった。
彼女は完ぺきだった。いや、完ぺきに見えた。
それなのに、唯一本音を言い合えた友だちを裏切ってしまった。
それが彼女にとって完ぺきという宝玉に傷をつけた。
気づくと、踏切にさしかかった。
道路から見た踏切は道と道を閉ざす、とても大きな分岐点に見えた。
でも、電車から見た踏切はただの線路の横手にある障害物にしか見えない。
なぜ僕は同じものを違う視点から見ると、感じ方が変わってしまうのだろう。
分からない、いつまで経っても、分からないことは分からないままだ。
大人はこういう答えに返事をにごす。
真剣に考えない。
僕にとって、西山にとって、重要なことは、
連立方程式の解や摩擦力や漢字の意味なんかじゃない。
悩みを解決するのに、問題集やテスト用紙が何の役に立つんだ。
踏切をわたった僕は、底が尽きかけていたシャーペンの芯を買うために、
近くの文房具屋に行くことにした。
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