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第7章「移りゆく時期」
第7章「移りゆく時期」その10
しおりを挟む「西山、久しぶり~」
全く知らない女が声をかけてきた。
いかにも頭の悪そうな金髪とピアスをした頭の悪そうな見た目だった。
その後ろに、こいつの知り合いと思われる奴が複数人いた。
男子三人、女子二人、の合コンをしたら悲惨になりそうな人数構成だ。
「あっ、久しぶり、沙希」
おそらく小学校か中学校の同級生ってところだろう。
西山は人脈が広いから、道端でばったりということがたくさんあるのかもしれない。
僕なんて中学の同級生の連絡なんて一切持っていないから、
仮に通り過ぎた所で、僕も相手の方も気づかないだろう。
暇そうにしている僕に西山は悪いと思ったのか、
「この子たちは甲津高校に通う私の中学時代の高校生」
慌てているような口調で言った。
その瞬間、飲んでいたメロンソーダが肺に入ってしまった。
甲津高校?確か偏差値75くらいの県内トップの私立高校だったはず。
こんな似合わない金髪でコンビニの駐車場にたむろってるような奴らが?
こんな奴らに僕は偏差値で20くらい負けているのか?
一体どんなコネを使ったんだ?
まぁ、人を見た目で判断してはいけないってことがよくわかった。
このまま西山と頭が悪そうで実は賢い奴らが長引きそうなら、
僕はお暇させてもらうと思った。
「男とデート?ずいぶん余裕あるんだねぇ」
嫌みのある口調が僕の鼓膜を震わした。
何を話しているのかはよくわからないが、
西山が慌てているのは傍目から僕にもわかる。
それは中学の同級生に久しぶりに会えたからというものではない。
いつもように可愛らしい笑顔とは違う、引きつった笑顔で怯えているようにも見えた。
「違うよ~。ただ買い物に付き合ってもらっているだけで」
だいたいわかってきた。
こいつらは西山にとっては頭の上がらない存在であり、
それをいいことに威張りちらしている嫌な奴らなんだろう。
頭は悪くないが、性格が悪いことがよくわかった。
このまま黙って静観するのが、僕にとっては平和的なんだろうけど
女の子を辛そうに慌てて、それに気づかない連中の好きにさせるほど、
僕はお人よしでもエキストラAでもない。
ここはひと肌脱ぎますか。
僕は飲み終えたクリームソーダを眉間にしわを寄せ、
「おい、皐月、上映三十分前だぞ。
そろそろ行かないと、後ろの席予約取れないかもよ」
様になっていないのは、分かっていた。
西山と周りのやつらはポカーンとしていたが、ハッとした顔をして、
「ごめん~。彼、映画は後ろで見なきゃ、怒るんだよ」
それまでむかつくほど嘲笑していた奴らは面白いくらい黙ってしまった。
どうやら根は真面目なようだ。
「じゃあ、またね」
西山は僕の腕を取って、颯爽と店を去った。
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