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第6章「西山皐月」
第6章「西山皐月」その12
しおりを挟むあれはきっと嫉妬とかそんな微笑ましいものではない。
かといって、何が平木を苛立たせたのかはわからない、
と一度降りた階段を一段ずつ重い足取りで上りながら、
なぜ平木は今日一日僕に口を開かなかったのだろうと考えている。
今は授業、放課後のホームルームが終わり、
大半の生徒は帰宅しているか、あるいは部活動に勤しんでいる。
そのせいで校舎には人の気配がなく、不思議といつもより暗い印象を与えていた。
僕は現在、自分の所属する一年三組の教室に引き返している最中だ。
なぜって?
実は西山に頼まれた日誌を秋山先生に届ける役目を忘れてしまい、
しかもそれを教室に置いてきてしまったのだ。
平木に無視されたショックで西山に頼まれたにもかかわらず、
僕は頼みごとを忘れてしまったのだ。
体感的にはさっきの倍近い時間をかけて教室に着いた。
見渡すと、当然のように誰もいなかった。
それでも教室は西日のせいか電灯を点けずとも、
まるで僕を迎えていたかのように温かく感じられた。
昨日までずっと雨だったのでグランドから声が聞こえないのは少し味気なかったが、
しばらく僕を除いたこの無人の教室で情緒的な気分に酔いしれながら、
掃除をしたばかりだと気づき、つい顔がほころんでしまった。
長方形の机も深緑色の黒板も誰が作っているか見当もつかないポスターも
見慣れたはずのものなのに全てが新しく映った。
僕は絶景なんて興味がないけれど、
ここがこの時が僕にとっては最も美しい場所だということは確かだ。
それにしても誰もいなくて本当によかった。
無人の教室でニヤニヤしている瞬間を見られたならば、
次の日からクラス中で変人のレッテルを貼られることだろう。
僕は急いで自分の席に行って、日誌を取りだした。
「どうしたの?羽塚くんがこんな時間にいるなんて珍しいね。」
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