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第6章「西山皐月」
第6章「西山皐月」その11
しおりを挟む「確かにそれは...
「ちょっといいかな?」
僕が平木の意見に同意しようとした矢先、平木ではない誰かが話しかけてきた。
誰かが足音が近づいているかはわかったが、
僕に声をかけてくるとは予想してなかった。
平木に向いていた姿勢を声の主の方へ転換させた。
「おはよう、羽塚くん」
僕の机の前で満面の笑みを浮かべていたのは、西山だった。
さっきまで自らの巣穴である一軍の連中にいたのか、
一軍の奴らからこちらに視線が集まっているのがわかる。
おそらくこの光景に違和感を覚えているんだろう。
そりゃそうだ。西山が僕の席まで来ることなんてありえないからだ。
しかし彼女は完璧だから、それを覆すこともできる。
今日は昨日の大雨とはうってかわって嫌というほど朝日の光が窓からさしている。
その光が西山の姿と相まってよりいっそう彼女の威光を際立たせていた。
こういう完璧美少女は誰の名前であっても覚えているからだ。
たとえ僕のようなクラスで発言権を持たない奴でも覚えているのだ。
隣の平木はもうこちらの方には関心はなく、すっかり読書に戻っている。
「おはよう、西山。何か用事でもあるの?」
すると西山は困ったような顔をしてクスッと笑い、
「羽塚くんと私は今日日直だよ?」
黒板を見ると、僕と西山の名前が書いている。
「それで日誌は私が書こうと思うんだけど、
最後に職員室まで行って秋山先生に届けてほしいの」
別に断る理由はない。
むしろ日誌を書いてくれるなら提出することくらいどうってことない。
「ああ、いいよ」
西山の提案に承諾すると、可愛らしい困り顔が安心したように
「ほんと!ありがとう。羽塚くんに頼んでよかった」
こんなにおおげさな感謝でも不快感はなぜか覚えなかった。
「ごめんね、平木さん」
今まで散々僕に話しかけていたが、用がすむと平木のほうに顔をやり、
自分が来てからずっと読書をしている平木に対して謝罪した。
そして一軍の連中の輪にかけよって、巣穴に戻った。
僕からは西山は平木の顔を見ずに謝ったように見えた。
めったに起きない事態に戸惑いながらもそれを隠そうと必死になっていると、
平木はとても機嫌がいいとは言えないくらい冷たい顔で鋭く僕を見て、
「羽塚くんはあんな女に鼻の下を伸ばすのね、参考にするわ」
そう言い残して、また読書の世界に戻った。
そして今日一日僕は平木に口を聞いてもらえなかった。
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