55 / 172
第4章「異常の中の普通」
第4章「異常の中の普通」その7
しおりを挟むこうして僕は今、駅のホームにいた。
しかしどこに行くのか
こちとら、二駅分の運賃、百五十円を払っているんだ。
聞く権利は十二分にあるはずだ。
「僕らはどこに向かっているんだ?」
「行けば分かるわよ」
平木はかつての秋山先生と同様に答えをはぐらかした。
僕は別の答えを求めることにした。
「君は、あの場所が一体何なのか知りたくないの?」
「あの場所って?」
「だから、あれだよ、君が悩み部屋って言ってたあの場所だよ」
「ああ、それね」
「…別に」
返す言葉に詰まった。
「逆に羽塚くんはどうして知りたいの?」
がっかりした。
僕の考えが理解されていないことに。
誰もが経験しえないことを味わい、
僕らだけがこの世界から離れたというのに。
だから、言ってしまった。
「逆にどうして平木は知りたくないんだ?」
何を熱くなっているんだ?
「あの場所はこの世界の理をぶっ壊すような、
そんなところだったはずだ。」
やめろよ、知っているふうに語るのは。
「こんなことを知っているのは君と僕くらいのものだろう」
何も知らないくせに。
「もしかしたら、僕らの使命はあの場所について、
この世界の秘密について探ることなんじゃないのか?}
あぁ、まただ。
また、僕は自分のためにイライラしている。
平木は僕の口調に含んだわずかな怒りに
表情一つさえも変えなかったように見えた。
「ずいぶんと衝動的ね」
呆れた様子で、呆れた声でそう言った。
「羽塚くんは暗い人なのに、ある時だけ無駄に熱くなるのね」
「ある時」という指示語が何を指しているのか聞こうとしたが、
それよりも前に彼女の唇が動いたので、ふと止めることにした。
しかしその時、ホームにようやく訪れた電車が平木の声をかき消した。
そして開いたドアが僕らの会話をさえぎった。
僕は降りてくる乗客もいなかったので、車内に足を踏み入れようとした。
彼女はまだホームでなびく髪の毛を抑えながら、僕の後ろからこう言った。
「だって、それを知ったところで、
私たちはここで生きていかなきゃいけないじゃない」
そうして僕らは混み合うとは名ばかりの電車に乗った。
その間、僕は緘黙になったかのように閉じた口を開けられずにいた。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい
矢口愛留
恋愛
【全11話】
学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。
しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。
クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。
スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。
※一話あたり短めです。
※ベリーズカフェにも投稿しております。
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる