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第3章「僕たち私たち」
第3章「僕たち私たち」その11
しおりを挟む普通、漫画やアニメのフィクションの世界ならこういう事態は
二人だけの秘密として胸に秘めて、
ある日突然、この事態を知っている者が僕に語りかけるのがセオリーだろう。
なのに、全校生徒にバレている。
この様子だと数人は僕らの顔に見覚えがあるかもしれない。
そうなれば、僕は自殺志願者として周りの人から
一歩引かれた存在になるだろう。
いや、一歩だけで済むのだろうか。
五十歩、あるいは百歩かもしれない。
人は自分に理解できない者とは距離をおく生き物だ。
これは僕が生きてきた十五年間で学んだ、
あまり喜ばしくない事実だ。
こうして全く思い通りにならない世界が始まった。
そして授業が始まった。
こんな状況で授業などまともに受けられる気がしなかった。
それに今日は一限から国語だった。
僕は国語が嫌いだ。
まずは答えが曖昧っていうのがそもそも嫌いなのだ。
数学や物理と違って、答えが絶対ではない。
そんな不確かなことを理解することは出来ない。
それに現実でも人を理解するのにも一苦労なのに
授業の中で人の気持ちやなぜその行動をしたのかなんて考えたくもない。
しかもその担当がうちの担任の秋山先生っていうのもたちが悪い。
担任の教科が自分の一番苦手な科目というのはなかなか厳しいものだ。
さっきまでホームルームをしたばかりだと言うのに、
先生は一限とは思えないはきはきとした声で、教科書を読み上げては、
大事なところを黒板に書き上げて解説している。
まぁ僕には何が大事で
何が大事じゃないかなんて知る由もないけど。
無機質な緑黒の板、カッカッと軽快におどる白チョーク、
朝から咳がかった声を出すベテラン教師、
ペンを走らせる音、時計のチクタク、誰かの鼻の啜り声、誰かの寝息の音。
何の変哲はない。
ごくふつうの公立高校の授業。
始まった、また始まった。
この時間というものは僕ら学生にとってはひどく簡素でつまらないもだ。
フィクションの世界ならこの時間はたいてい省かれる。
物語において重要ではないからであろう。
しかし僕はこの時間を省けないし、省かない。
なぜなら僕は逃げられないものからは、
逃げたくないからだ。
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