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第3章「僕たち私たち」
第3章「僕たち私たち」その5
しおりを挟む「ただいま。」
僕は家路につき終えた後、
不用心にも鍵がかからずに閉まったドアを開き、玄関で座り込んだ。
少し経ってから、リビングに行き、冷蔵庫にある水をコップに注いだ。
僕はさっき叫んだ声の通気口でもある喉をうるおした。
「おかえり。今日は少し遅かったわね。」
いつも通り、キッチンの方から母が声をかけた。
「ああ。ちょっと学校でやることがあってさ。」
「学校で何か良いことでもあったの?」
母のこの回答に僕は、正直驚いた。なぜって?
さっきまで自己嫌悪に襲われていた人間が
まさかそんなことを言われるとは思わなかった。
「何で?」
「いつもより声が軽いから。」
そうか。僕はこの状況に歓喜していたのか。
感情と行動は一致しない、僕はそのことをずっと昔から知っている。
「あぁ、そうだね。」
僕は自分の部屋へと向かった。
疲れた。喉が痛い。あんなに人に向かって叫んだのは生まれて初めてだったんだ。
僕は自分の部屋に入ると、とても落ち着いたことにほっとした。
不覚にも平木が作り出した悩み部屋と比べてしまったのだ。
僕は制服から着替えることもなく、ベッドに倒れ込んだ。
頭に雲がかかったようなそんな感覚になった。
すっきりしない。自然と目をつむると、昔の記憶がまぶたの裏によみがえる。
昔、ヒーロー特撮を見ていた。
ヒーローが怪人を倒す。
人々は歓喜し、悪を残して誰もが笑顔で帰っていく。
しかし、町は壊れ、人は死んでいた。
僕はその後始末はどうするのだ、と気になった。
しかし、僕は言わなかった。
「なぜヒーローは悪を倒すことしか出来ないのか?」
いや、言えなかった。
しかし、聞かなかった。
いや、聞けなかった。
瞼がやけに重く、光を遮った。
あぁ、多分このまま朝まで寝てしまう。
分かっていても、
目を閉じることを止められなかったし、止める気もなかった。
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