落ち込み少女

淡女

文字の大きさ
上 下
24 / 172
第2章「悩み部屋」

第2章「悩み部屋」その5

しおりを挟む


.......あれ、いない。

いやそんなはずはない。

僕は視たんだ。

目の前にいた少女が僕の数メートル先で飛び降りたことを。





この世界からダイブしたことを。

しかし何度見直しても、平木の死体はなかったし、。

一滴の血の痕跡も見当たらない。



 移動したのか?


 彼女は死んだのか?


 それともこれは夢なのか?


いや僕の意識ははっきりあるし、ほっぺをつねってもとても痛かった。


だとしたら、

「大丈夫。

私が飛び降りた後、

もし私の死体が見つからなかったらあなたも飛び降りて。」


この言葉は遺言でなく、彼女の真意だったのか。

ダメだ。

ここから飛び降りるなんて出来るわけがない。

あんな約束果たせるわけがない。


僕は急いで扉の方に向かい、さっきとは違い豪快に扉を開け、

机と椅子を掻き分け、階段を降りている。

怖い、怖すぎる。

しかし4階の辺りで震えていた足が止まった。

......................................................................................
.........................くそっ。




僕は足を戻した。

逃げ出したかった場所から息を切らして向かった。


屋上に着いた僕は柵をよじ登り、

真下にグラウンドが見える位置まで来た。

野球部、サッカー部、陸上部の連中が声を出して練習に励んでいる。

誰でもいい。

ここで誰か僕に気づいてくれたら、きっと飛び降りることなんてなかったろうに。

そしたら、明日から僕は自殺未遂の疑いで異質の存在として

取り扱われるんだろうなぁ。


風の音がうるさい。

しかし心臓の鼓動がそれを遥かに勝ってうるさい。

気が動転して吐き気がする。

なぜここまでするのか?

美少女に頼まれたから?

それとも借りを返すため?

それとも約束を果たすため?

それともプライドのため?

それともくだらない毎日から抜け出すため?

分からない。

たぶん全てが混ざってごっちゃになっている。

 いや彼女はきっかけに過ぎない。

ただ何か特別なことが待っているようなそんな気がした。

そして、この世界からダイブした。

その瞬間、風を切る音が僕の鼓動をかき消した。
















あ、死んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】君と国境を越えて

朱村びすりん
ライト文芸
 イギリス人の両親を持つ高校一年生のイヴァン・ファーマーは、生まれは日本、育ちも日本、習慣や言語、そして心さえも「日本人」として生きてきた。  だがイヴァンは、見た目や国籍によって周囲の人々に「勘違い」をされてしまうことが多々ある。  自らの人種と心のギャップに幼い頃から疑問を持ち続けていた。  そんなある日、イヴァンの悩みを理解してくれる人物が現れた。  彼が働くバイト先のマニーカフェに、お客さんとして来店してきた玉木サエ。  イヴァンが悩みを打ち明けると、何事にも冷静沈着な彼女は淡々とこう答えるのだ。 「あなたはどこにでもいる普通の男子高校生よ」  イヴァンにとって初めて、出会ったときから自分を「自分」として認めてくれる相手だった。進路についても、深く話を聞いてくれる彼女にイヴァンは心を救われる。  だが彼女の後ろ姿は、いつも切なさや寂しさが醸し出されている。  彼女は他人には言えない、悩みを抱えているようで……  自身のアイデンティティに悩む少年少女の苦悩や迷い、その中で芽生える特別な想いを描いたヒューマンストーリー。 ◆素敵な表紙絵はみつ葉さま(@mitsuba0605 )に依頼して描いていただきました!

『愛が揺れるお嬢さん妻』- かわいいひと -   

設樂理沙
ライト文芸
♡~好きになった人はクールビューティーなお医者様~♡ やさしくなくて、そっけなくて。なのに時々やさしくて♡ ――――― まただ、胸が締め付けられるような・・ そうか、この気持ちは恋しいってことなんだ ――――― ヤブ医者で不愛想なアイッは年下のクールビューティー。 絶対仲良くなんてなれないって思っていたのに、 遠く遠く、限りなく遠い人だったのに、 わたしにだけ意地悪で・・なのに、 気がつけば、一番近くにいたYO。 幸せあふれる瞬間・・いつもそばで感じていたい           ◇ ◇ ◇ ◇ 💛画像はAI生成画像 自作

兄たちが弟を可愛がりすぎです

クロユキ
BL
俺が風邪で寝ていた目が覚めたら異世界!? メイド、王子って、俺も王子!? おっと、俺の自己紹介忘れてた!俺の、名前は坂田春人高校二年、別世界にウィル王子の身体に入っていたんだ!兄王子に振り回されて、俺大丈夫か?! 涙脆く可愛い系に弱い春人の兄王子達に振り回され護衛騎士に迫って慌てていっもハラハラドキドキたまにはバカな事を言ったりとしている主人公春人の話を楽しんでくれたら嬉しいです。 1日の話しが長い物語です。 誤字脱字には気をつけてはいますが、余り気にしないよ~と言う方がいましたら嬉しいです。

続く三代の手仕事に込めた饅頭の味

しらかわからし
ライト文芸
二〇二二年八月六日の原爆の日が祖母の祥月命日で奇しくもこの日念願だった「心平饅頭」が完成した。 そして七十七年前(一九四五年)に広島に原爆が投下された日で、雲母坂 心平(きららざか しんぺい)十八歳の祖母はそれによって他界した。平和公園では毎年、慰霊祭が行われ、広島県市民の多くは、職場や学校でも原爆が投下された時間の八時十五分になると全員で黙とうをする。  三代続きの和菓子店である「桔平」は売上が低迷していて、三代目の店主の心平は店が倒産するのではないかと心配で眠れない毎日を過ごしていた。 両親を連れて初めて組合の旅行に行った先で、美味しい饅頭に出会う。 それからというもの寝ても覚めてもその饅頭の店の前で並ぶ行列と味が脳裏から離れず、一品で勝負できることに憧れを持ち、その味を追求し完成させる。 しかし根っからの職人故、販売方法がわからず、前途多難となる。それでも誠実な性格だった心平の周りに人が集まっていき、店に客が来るようになっていく。 「じいちゃんが拵えた“粒餡(つぶあん)”と、わしが編み出した“生地”を使い『旨うなれ! 旨うなれ!』と続く三代の手仕事に込めた饅頭の味をご賞味あれ」と心平。 この物語は以前に公開させて頂きましたが、改稿して再度公開させて頂きました。

甘やかしてあげたい、傷ついたきみを。 〜真実の恋は強引で優しいハイスペックな彼との一夜の過ちからはじまった〜

泉南佳那
恋愛
植田奈月27歳 総務部のマドンナ × 島内亮介28歳 営業部のエース ******************  繊維メーカーに勤める奈月は、7年間付き合った彼氏に振られたばかり。  亮介は元プロサッカー選手で会社でNo.1のイケメン。  会社の帰り道、自転車にぶつかりそうになり転んでしまった奈月を助けたのは亮介。  彼女を食事に誘い、東京タワーの目の前のラグジュアリーホテルのラウンジへ向かう。  ずっと眠れないと打ち明けた奈月に  「なあ、俺を睡眠薬代わりにしないか?」と誘いかける亮介。  「ぐっすり寝かせてあけるよ、俺が。つらいことなんかなかったと思えるぐらい、頭が真っ白になるまで甘やかして」  そうして、一夜の過ちを犯したふたりは、その後…… ******************  クールな遊び人と思いきや、実は超熱血でとっても一途な亮介と、失恋拗らせ女子奈月のじれじれハッピーエンド・ラブストーリー(^▽^) 他サイトで、中短編1位、トレンド1位を獲得した作品です❣️

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

sweet!!

仔犬
BL
バイトに趣味と毎日を楽しく過ごしすぎてる3人が超絶美形不良に溺愛されるお話です。 「バイトが楽しすぎる……」 「唯のせいで羞恥心がなくなっちゃって」 「……いや、俺が媚び売れるとでも思ってんの?」

呑気なトラとはりきりヨネの 昭和の食卓

有栖多于佳
ライト文芸
終戦の年の師走、二十歳のヨネ子は二十六のトラと見合いをする。 翌年春、ヨネは名古屋から静岡の田舎芝山村へ嫁ぐ。食べ物が手に入り難い時代ながら、食べることが大好きな二人が夫婦となり、山で採って畑で育てて自分達の手で作って、一緒に美味しいご飯を作って食べて家族の絆を深め、幸せになるお話。この作品は小説家になろうに投稿しているものを手直ししています。*この小説はフィクションですので実際との差異があることがあります。

処理中です...