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第2章「悩み部屋」
第2章「悩み部屋」その3
しおりを挟むこの感覚。
初めてじゃない。
僕はこの感覚をつい最近味わった記憶がある。
落ち着け。
いったん落ち着くんだ。
あまりに真剣な表情なのでまさかとは思うが一応聞いておこう。
「冗談だよね?」
すると、平木は微動だにせず
「いえ、マジマジの本気よ。」
嘘だろ?
何を言っているんだ。
昨日と今日話したばかりのクラスメイトに言う冗談にしてはきつすぎる。
天然なのか?
バカなのか?
平木は指差した腕をおろした。
そして僕を睨み、
「今、私をバカと思ったでしょ?」
うっ、鋭いなこの子。
「いや、そんなことは思ってないけど....いや、普通に無理だよ。
僕まだ死にたくないし。」
「逆らうことは出来ないわ。
だって、あなたは、私に借りを作ったんだもの。」
「借り?」
「そう。」
あっ、思い出した。
僕が思いつきで言ったらあの言葉。
あの場から逃れるために突如作り出した小細工。
それがまさかこんな所で使われるなんて思いもしなかった。
「だからって、僕に死ねって言うのか君は。」
苛立ちが言葉に見え隠れしている。
おそらく彼女は僕が怒り始めたことに気づいたのだろう。
子どもの間違いを指摘する親のように、
「いえ、あなたは死なない。」
澄んだ目だ。こんなにふざけたことを言っていても、
目線は常に僕を捉えて離さない。
さすがに僕も戸惑ってきていた。
とりあえず常識的なことを言った。
「何言って.....ここは校舎六階建ての屋上だぞ。
運が良くても、軽傷じゃ済まない。」
「あなたは死なないし、傷一つ負わない。」
またそれか。
しかも、傷一つ負わないだと。
「いやいや、そんなことありえない。
地球にいる限り物体は重力には逆らえないはずだ。」
「お願い。私を信じて。」
何を信じろって言うんだ?
この世の物理法則より、君の言葉を信じろって言うのか?
ばかげていることは確かだ。
混乱が、僕の視線を右往左往させた。
でも、彼女の眼は、僕の戸惑いを、恐怖を決して離そうとはしなかった。
何かが待っているそんな気がしたと言ったけど、こんなものは味わいたくはなかった。
逃げたい。逃げ出したい。
でも、ここで逃げたら、彼女の理不尽な要求に負けるような、
そんな気がした。
考えた。
ひたすら考えた。
どうすれば彼女がこの理不尽な発言を取り下げるのか。
どうすれば彼女を論破できるかを。
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