16 / 172
第1章「平木尊」
第1章「平木尊」その16
しおりを挟む…一瞬、僕の何もかもが止まった。
緊張という糸が一気に数千本切れたような、
予想という箱の遥か蚊帳の外を打ち込まれた気分だ。
さっきの無視よりもその衝撃は凄まじかった。
当然、怒りはあった。
言い返したい気持ちもあった。
ふと、彼女から目をそらすと、周りにいた数人の生徒は、
この緊迫とした僕ら二人の空間にのまれていた。
デリカシーのない奴らだ。
恥ずかしい。
僕はこの恥を彼女にぶつけてやろうと思った。
でもこの少女の目を見れば、僕の反抗心など稚児の駄々に思えてきた。
だから僕はほてった顔を覚ましたいがために、
いったん誰も気づかない程度に深呼吸した。
そして、この場を円滑に進めるべく
「ごめん。じゃあ、これは僕の借りってことで。」
と言うと
ふてくされた顔で平木は
「まぁ、いいわ」とぶっきらぼうに言い、
僕が持ったノートをかっさらい、淡々と職員室に向かっていった。
さっきまで沈黙して固まっていたギャラリーは
クスクスと笑いながらふと我にかえるかのように、向かっていた方向に足を動かした。
事の始末が終わったと、ホッとすると無性に腹が立ってきた。
よくよく考えると、なぜ僕が謝らなきゃいけないのか、
なぜ僕が借りを作ったのか、(まぁこれは自分で言いだしたことだけど)、
誰がどう見ても、僕は悪くないはずだと自分に何度も言い聞かせていた。
帰り道、今日の理不尽を僕の前を通り過ぎていく
見ず知らずの誰かにでも伝えてやりたかったけど、
これだけ必死だと何だか情けない気もして、また嫌な気分になった。
その時澄んだ空で傾く夕日の照りが
またさらに僕の気分を損なわせた。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
シャウトの仕方ない日常
鏡野ゆう
ライト文芸
航空自衛隊第四航空団飛行群第11飛行隊、通称ブルーインパルス。
その五番機パイロットをつとめる影山達矢三等空佐の不本意な日常。
こちらに登場する飛行隊長の沖田二佐、統括班長の青井三佐は佐伯瑠璃さんの『スワローテールになりたいの』『その手で、愛して。ー 空飛ぶイルカの恋物語 ー』に登場する沖田千斗星君と青井翼君です。築城で登場する杉田隊長は、白い黒猫さんの『イルカカフェ今日も営業中』に登場する杉田さんです。※佐伯瑠璃さん、白い黒猫さんには許可をいただいています※
※不定期更新※
※小説家になろう、カクヨムでも公開中※
※影さんより一言※
( ゚д゚)わかっとると思うけどフィクションやしな!
※第2回ライト文芸大賞で読者賞をいただきました。ありがとうございます。※
心のレンズ 晴れゆく心 ~優しさ、純粋さが人を変えていくこともある~
桜 こころ
ライト文芸
心温まる物語です。
主人公の井上陽介は、記者として表舞台で輝く人気俳優、柏木悠斗の生活を追いかけています。
しかし、彼が発見するのはスキャンダルではなく、柏木のひたむきな優しさと純粋さ。
陽介は、柏木の行動に触れるうちに、失いかけていた人間として大切なものを取り戻していきます。
柏木の純粋さが、陽介の心に新たな光を灯す、感動のストーリーをお楽しみに。
★こちらに使用しているイラストはAI生成ツールによって作成したものです
コカク
素笛ゆたか
ライト文芸
近未来ノスタルジックもの。
前編・中編・後編で完結します。
『向こう』側と『こちら』側の少年二人が出会うことで、何かが変わる。
未来的だけどどこか懐かしい、そんなお話です。
お兄ちゃんはお医者さん!?
すず。
恋愛
持病持ちの高校1年生の女の子。
如月 陽菜(きさらぎ ひな)
病院が苦手。
如月 陽菜の主治医。25歳。
高橋 翔平(たかはし しょうへい)
内科医の医師。
※このお話に出てくるものは
現実とは何の関係もございません。
※治療法、病名など
ほぼ知識なしで書かせて頂きました。
お楽しみください♪♪
星渦のエンコーダー
山森むむむ
ライト文芸
繭(コクーン)というコックピットのような機械に入ることにより、体に埋め込まれたチップで精神を電脳世界に移行させることができる時代。世界は平和の中、現実ベースの身体能力とアバターの固有能力、そして電脳世界のありえない物理法則を利用して戦うレースゲーム、「ネオトラバース」が人気となっている。プロデビューし連戦連勝の戦績を誇る少年・東雲柳は、周囲からは順風満帆の人生を送っているかのように見えた。その心の断片を知る幼馴染の桐崎クリスタル(クリス)は彼を想う恋心に振り回される日々。しかしある日、試合中の柳が突然、激痛とフラッシュバックに襲われ倒れる。搬送先の病院で受けた治療のセッションは、彼を意のままに操ろうとする陰謀に繋がっていた。柳が競技から離れてしまうことを危惧して、クリスは自身もネオトラバース選手の道を志願する。
二人は名門・未来ノ島学園付属高専ネオトラバース部に入部するが、その青春は部活動だけでは終わらなかった。サスペンスとバーチャルリアリティスポーツバトル、学校生活の裏で繰り広げられる戦い、そしてクリスの一途な恋心。柳の抱える過去と大きな傷跡。数々の事件と彼らの心の動きが交錯する中、未来ノ島の日々は一体どう変わるのか?
よくできた"妻"でして
真鳥カノ
ライト文芸
ある日突然、妻が亡くなった。
単身赴任先で妻の訃報を聞いた主人公は、帰り着いた我が家で、妻の重大な秘密と遭遇する。
久しぶりに我が家に戻った主人公を待ち受けていたものとは……!?
※こちらの作品はエブリスタにも掲載しております。
揺れる波紋
しらかわからし
ライト文芸
この小説は、高坂翔太が主人公で彼はバブル崩壊直後の1991年にレストランを開業し、20年の努力の末、ついに成功を手に入れます。しかし、2011年の東日本大震災と福島第一原子力発電所の事故によって、経済環境が一変し、レストランの業績が悪化。2014年、創業から23年の55歳で法人解散を決断します。
店内がかつての賑わいを失い、従業員を一人ずつ減らす中、翔太は自身の夢と情熱が色褪せていくのを感じます。経営者としての苦悩が続き、最終的には建物と土地を手放す決断を下すまで追い込まれます。
さらに、同居の妻の母親の認知症での介護が重なり、心身共に限界に達した時、近所の若い弁護士夫婦との出会いが、レストランの終焉を迎えるきっかけとなります。翔太は自分の決断が正しかったのか悩みながらも、恩人であるホテルの社長の言葉に救われ、心の重荷が少しずつ軽くなります。
本作は、主人公の長年の夢と努力が崩壊する中でも、新たな道を模索し、問題山積な中を少しずつ幸福への道を歩んでいきたいという願望を元にほぼ自分史の物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる