紅葉のランデヴー

StudioAMONE

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第1話 始まり。

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「......これですべてが始まるか。」

「今までの集大成です。すべて計画通りに進んでいます。」

「そうか...それならまずまずだな。」

 秋の風が、紅葉した山々の梢をさざめかせる。

 社の鳥居の下、石段をいくつか降りたところで、一人の男が遠くを眺めていた。その眼差しには、どこか翳りがあった。

 昼時の日が当たりそれらの木々が美しく反射している。澄んだ空気はそれら風景を運んでくれるようだ。

「君の部隊も成長したな。私がいなくなったら後は頼むよ。」

 男は、まるで思い出を愛おしむように、そう言った。

「そんなこと言わないでくださいよ。あなたがあってのチームでしょう?」

 男は口の端に微笑を浮かべたが、それはすぐに消えた。彼の温かい眼差しが、ふと遠くへと向って行く。

「そうだな......しかし、私は全ての責任を取らなくてはならない。一つの世界大戦を起こそうとしているのだ。宇宙はそれを許さないだろうな。運命には逆らえないし、やったことの責任は必ずどこかでとらなくてはならない。」

 微かな溜息と共に、男は空を仰いだ。

 ハンチング帽の庇を指先で軽く押し上げる。空には、どこか気怠げに流れる雲があった。

 雲はゆったりと進んでいて、少し寂しさを漂わせるムードに辺りは包まれ、冷たく澄んだ空気が、その光景を一層鮮やかにしていた。


 風が吹き、紅葉した木々が揺れ、その葉が舞う。


 時間が、ほんの少し、止まったように感じられた。


 ふいに、鳥居の向こうで黒塗りの政府車両が停車する音が響く。

 三台の車が並び、扉が開いた。黒服の男たち、そして詰襟の軍服を纏った者たちが降り立った。

 中から黒服と詰襟の軍服をまとった男たちが下車してきた。

 彼らは石段の下から男を見上げ、無言のまま男が来るのを待っている。

「君はここで待ちなさい。じきに迎えが来るだろう」

「......」

 男はそれだけを言い残し、ゆっくりと石段を降りていった。

 階段を降りると堅苦しい軍人達に手錠を掛けられ、車へと押し込まれた。

 若い男はただただ、それを見送る。


 やがて、彼は敬礼した。それが、最後になることを感じながら。


「アルファ。目標の拘束を確認。」

「了解。武装解除。回収地点へ向かえ。」

「了解。通信終了。」

 一部始終を少し離れたところから特殊部隊が監視していた。彼らは精密機械に身を包み、黙々と基地への帰路についていた。

 UAVの映像を通じて、その様子を見ていた本部の指揮官は、無言のまま肩を落とす。

「総司令に報告。あとは調書を取る準備をしておけ。私は安保理へ向かわねばならん。前任の尻拭いなど御免被るが、誰かがやらねばならぬことだろう。」

「了解しました。あとはこちらで処理を行います。お疲れ様でした。」

「ああ。君も今日は早く仕事を片して帰りたまえ。」

「はい。そうさせていただきます。」

 前任の指揮官が政府のシビリアンコントロールから大きく逸脱して軍事・工作活動を行っていた事件が発覚し、それの後処理を行った。

 正直、私は前任者の意見には賛同するし、政府のやり方が間違っていてもそれがベストな選択肢だということは理解している。

 しかし、自分自身が行った行為全てが正しかったとは言えないのだろう。一部しか知らない極秘情報を私は知っているし、それによって大勢が死ぬことも理解しているが、それでも私は私に与えられた職務を全うするしかない。


 葛藤はあるがこれがベストな選択肢だ......


 司令室の扉を抜け、ヘリポートへと向かう。

 ローターが空気を切り裂く音がここまで響いている。頬が振動で揺れている。

 廊下に響く足音が、まるで新たな時代の到来を告げるカウントダウンのように一定のリズムで凛と響いていた。



 ---静岡浜松ジオフロント 7月 06:00

 木々が生い茂り、大きくくり抜かれた自然都市に朝の日が差し込む。

 幻想的な淡いオレンジが街全体を包み込んだ。

 その静寂を破るかのように、上空には無数の宅配ドローンが飛び交い、低く唸るプロペラ音が耳に残る。地上では自動運転化された路線バスに治安維持部隊の隊員たちが各地域に出向いている。

 街は一斉に呼吸をはじめ町内放送が鳴り響く。

「おはようございます、町内の皆さま。本日もすばらしい一日が始まりました。こちらは、朝の放送です。」

 部屋の隅に置かれた目覚ましがけたたましく鳴り響く。その音はまるで、遠い工場で金属が打ち鳴らされるかのようだった。

「今日のお天気は晴れ、最高気温は28度と予報されています。引き続き、熱中症には十分お気を付けください。」

 町内放送のアナウンスが部屋に漏れている。

 毎日この音に起こされるため、不健康な生活が送れやしない。

「皆さまにとって、今日も素敵な一日となりますように。それでは、行ってらっしゃいませ。」

 慶一は、布団の中で薄く目を開ける。天井の木目をぼんやりと眺めながら、ため息をひとつ。毎朝、同じ音に起こされる生活。規則的で、退屈で、それでいてどこか安堵感のある朝。

 シャッターの上がる音が微かに聞こえた。彼は、まだぼんやりとした意識のまま、カーテンを開ける。

 そこには、整えられたジオフロントの風景が広がっていた。滑らかに整地された道。幾何学的な美しさを持つ建物。その間をすり抜けるように走る無人の車。

 少しの間その景観を眺めた後、テーブルに置いてあるスマホに手を伸ばす。

「鈴木様おはようございます......」

 スマホに搭載された補助AIの機械的な声が彼を迎えた。

「そういえば昨日はアップデートの日だったな...」

 AIの音声を0に戻し、適当にラジオを開いた。

「さて、早速ですが、今日のラインナップをご紹介します。まずは......」

 音声が部屋の空気に混ざる。彼は無言のまま冷蔵庫を開け、昨日の夜に作り置きしておいた味噌汁を取り出した。

 電子レンジのボタンを押す。

 しばらくして、電子音が響いた。短く、鋭い音が、静寂を切り裂くように。

 スマホのラジオアプリを閉じてテレビをつける。ニュースなどは堅苦しくて嫌いで、動画サイトを開いて適当な動画を見る。

 最近は短いアニメーションの総集編を流し見するのが日課になっていた。

 数分で完結するストーリー。説明のいらない映像。
 情報が一方的に流れ込む。彼はただ、それを受け入れるだけだった。

 今日は土曜日で休みなのでゆったりとしようか。そんなことを考えていた。


 ......この都市は、どこまでも静かで、どこまでも人工的で、それでいて心地よい。

「フゥー」

 深いため息をついて目を閉じる。

 赤い目の裏の景色を感じながら休みが永遠に続けばいいのにと愚痴を漏らす。


 お腹が鳴り、机に置いていた味噌汁を手に取る。

 口をつけたところで携帯電話の通知が鳴った。

「ぐふぅ!」

 通知音に驚いて汁を口から吹き出してしまった。幸い、こぼれなかったので咳払いして携帯を見る。

 鈴木慶一...彼は学生のころから成績優秀で28歳現在、政府機関と密接にかかわる宇宙開発系統の技術開発チームのリーダーを務めていた。

 政府機関の極秘情報を取り扱っているということもあって専用の赤い携帯電話を渡されている。

 普通より何故か通知音が大きいので毎度毎度驚かされる。いい加減慣れたいものだが、中々にその音が鳴るたびに苛つかされる。

「もしもし......」

「おい鈴木!ニュース見ろニュース!えらいことになった!俺たちも呼ばれるかもしれん!」

「なんだよ......」

 慶一は気怠そうに地上波に切り替える。

 眉をひそめながら、慶一はテレビをつける。

 だが、そこに映っていたのは、いつものニュースキャスターではなかった。代わりに、安保理の報道官が沈痛な面持ちでカメラを見据えていた。

「現在、宇宙空間において、正体不明の勢力による攻撃が発生しています。すでに宇宙ステーションの一部が破壊され、複数の軍事衛星が機能を喪失しました。政府は非常事態宣言を検討中です。国民の皆様は万が一に備え、避難準備を行ってください。」

 慶一は口を開けてぽかんとしている。

「メールがさっき来たがどうせ鈴木は見てないだろ?今読み上げてやるが開発チーム全員が安保理により非常呼集がかけられ、治安維持隊・軍・警察が迎えに来るらしい!身支度しとけよ!」

「おい......ま......」

 言い終わるより前に電話は切れた。


 いつもの風景が、突然変わる。


 慶一はしばらく動けなかった。味噌汁は、まだ手の中でじんわりと温かかった。
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