8 / 9
珍事
しおりを挟む
それは突然やってきた。
扱いきれずにここに『捨てられて』いった重度の患者たちには、見舞客など滅多に来ない。
比較的病状が低度の患者は短期の入院で、そちらのほうは病棟も違い、人の出入りも多い。
「すみません」
入院患者用の受付で、スーツ姿の男が立っていた。
見た目がなんとなく涼介に似ている男は、彼ほどではないが美形で整った容姿をしている。
普段誰も来ないので女性看護師がぎょっとした。
「こちらでお世話になっている篠宮涼介の関係者です。面会希望なのですが」
「予約はございますか?」
噛みつくような無愛想さで看護師が言う。
「いえ、突然お伺いして申し訳ありません」
「少々お待ち下さい」
看護師が勢いよく立ち上がって奥に向かっていく。見舞客は申し訳程度に設置してある長椅子に座った。
「ねえちょっと。篠宮くんに見舞客が来た。どうしよう」
元芸能人の篠宮涼介は看護師たちの中では有名だ。山中の最近のお気に入りで佐伯が来るまで弄ばれていた。現在遠くの大部屋に移動させられている。
「とりあえず先生に報告を」
「どの先生よ」
「……」
思考力を弱められて佐伯の性の玩具にされている山中に言うのか、院長の佐伯か。
「お帰りいただこう。とても会わせる状態じゃない」
意を決した男性看護師が椅子から立ち上がった。
薄暗い待合室にぽつりと座る男に近づく。
「お待たせして申し訳ありません。まず予約をいただきませんと面会はお断りしております」
「何度も電話しましたが繋がりませんでした」
男は冷静に言う。
「それは…ないと思いますが。では改めて予約を」
「こんな僻地にわざわざ来たのに帰れって言うんですか。もう来ているんだから会わせてくれ」
「患者さんへの面会は主治医の許可が必要になります。病状によって変わりますので確認のために電話をしてもらっています。そうでないと今日のように無駄足になることがありますので」
折れない相手に若干いらつきながら根気よく看護師は説明する。
「じゃあ今主治医に聞いてきてくれ。会えるかどうか」
必死に食い下がる男の顔を見ながら、どうか帰ってくれと願う。
それが油断を呼んだのか、男は突然走り出し受付のデスクを飛び越えて院内に侵入した。
一瞬追いかけようとしたが、その足は止まった。
すべて終わりだ。男性看護師はいつか来ると思っていた事態が今やってきたのだと諦めた。
外からは鍵が必要だが内側からなら入れるかもしれない。
こんな古い建物だ。カードキーなどはないだろう。
院内の雰囲気を感じて、勘で走った。空気の淀んだ、死臭のような匂いのほうへ走る。
院長室を通り過ぎて、建物の奥へ足を進める。
「涼介!!」
男は弟の名前を叫んだ。
ベットに横たわる弟の上に、下半身を露出して呆然としている男性看護師が膝立ちで固まっていた。
扱いきれずにここに『捨てられて』いった重度の患者たちには、見舞客など滅多に来ない。
比較的病状が低度の患者は短期の入院で、そちらのほうは病棟も違い、人の出入りも多い。
「すみません」
入院患者用の受付で、スーツ姿の男が立っていた。
見た目がなんとなく涼介に似ている男は、彼ほどではないが美形で整った容姿をしている。
普段誰も来ないので女性看護師がぎょっとした。
「こちらでお世話になっている篠宮涼介の関係者です。面会希望なのですが」
「予約はございますか?」
噛みつくような無愛想さで看護師が言う。
「いえ、突然お伺いして申し訳ありません」
「少々お待ち下さい」
看護師が勢いよく立ち上がって奥に向かっていく。見舞客は申し訳程度に設置してある長椅子に座った。
「ねえちょっと。篠宮くんに見舞客が来た。どうしよう」
元芸能人の篠宮涼介は看護師たちの中では有名だ。山中の最近のお気に入りで佐伯が来るまで弄ばれていた。現在遠くの大部屋に移動させられている。
「とりあえず先生に報告を」
「どの先生よ」
「……」
思考力を弱められて佐伯の性の玩具にされている山中に言うのか、院長の佐伯か。
「お帰りいただこう。とても会わせる状態じゃない」
意を決した男性看護師が椅子から立ち上がった。
薄暗い待合室にぽつりと座る男に近づく。
「お待たせして申し訳ありません。まず予約をいただきませんと面会はお断りしております」
「何度も電話しましたが繋がりませんでした」
男は冷静に言う。
「それは…ないと思いますが。では改めて予約を」
「こんな僻地にわざわざ来たのに帰れって言うんですか。もう来ているんだから会わせてくれ」
「患者さんへの面会は主治医の許可が必要になります。病状によって変わりますので確認のために電話をしてもらっています。そうでないと今日のように無駄足になることがありますので」
折れない相手に若干いらつきながら根気よく看護師は説明する。
「じゃあ今主治医に聞いてきてくれ。会えるかどうか」
必死に食い下がる男の顔を見ながら、どうか帰ってくれと願う。
それが油断を呼んだのか、男は突然走り出し受付のデスクを飛び越えて院内に侵入した。
一瞬追いかけようとしたが、その足は止まった。
すべて終わりだ。男性看護師はいつか来ると思っていた事態が今やってきたのだと諦めた。
外からは鍵が必要だが内側からなら入れるかもしれない。
こんな古い建物だ。カードキーなどはないだろう。
院内の雰囲気を感じて、勘で走った。空気の淀んだ、死臭のような匂いのほうへ走る。
院長室を通り過ぎて、建物の奥へ足を進める。
「涼介!!」
男は弟の名前を叫んだ。
ベットに横たわる弟の上に、下半身を露出して呆然としている男性看護師が膝立ちで固まっていた。
0
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説
山本さんのお兄さん〜同級生女子の兄にレ×プされ気に入られてしまうDCの話〜
ルシーアンナ
BL
同級生女子の兄にレイプされ、気に入られてしまう男子中学生の話。
高校生×中学生。
1年ほど前に別名義で書いたのを手直ししたものです。
大好きな先輩に言いなり催眠♡
すももゆず
BL
R18短編です。ご注意ください。
後輩が先輩に催眠をかけて、言うこと聞かせていろいろえちなことをする話。最終的にハッピーエンドです。
基本♡喘ぎ、たまに濁点喘ぎ。
※pixivでも公開中。
【BL-R18】魔王の性奴隷になった勇者2
ぬお
BL
※ほぼ性的描写です。
~あらすじ~
魔王に負けて性奴隷にされてしまった勇者は、性的なゲームを提案される。ゲームに勝てば再度魔王に立ち向かう力を取り戻せるとあって、勇者はどんどん魔王との淫らなゲームに溺れていく。
※この話は「【BL-R18】魔王の性奴隷になった勇者」の続編です。
↓ ↓ ↓
https://www.alphapolis.co.jp/novel/17913308/135450151
※この話の続編はこちらです。
↓ ↓ ↓
https://www.alphapolis.co.jp/novel/17913308/305454320
あっくんは、レンくんのおっぱいがお好き♡♡♡
そらも
BL
無類のおっぱい大好き高校生、九重敦矢(ここのえあつや)くんと、コンプレックス持ちマシュマロおっぱい高校生、小笠原レン(おがさわられん)くんが、お家でいっぱいイチャイチャちゅっちゅしてるラブラブ話♡
今回は物語よりもエロ重視の相も変わらずバカップルな高校生男子のお話であります。
エロ重視と言っても、タイトル通りおっぱいイジイジが中心となりますので、最後まで致してる(実際はその後してるんだろうけども)描写はありませんのであしからずです。
ちなみにレンくんのおっぱいは作中にも書いてありますが、筋肉ムチムチの雄っぱいというより柔らかめのおっぱい仕様になっておりますのでご了承くださいませ。
※ 素敵な表紙は、pixiv小説用フリー素材にて、『やまなし』様からお借りしました。ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる