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沢村二郎✕伊東南(アルファポリス・同性愛男性専用デリヘルRAKUSA)
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自分が何者になるか、夢とか希望がなかった。
高校卒業してから適当に就職したけどすぐに辞めた。
僕は自分でも女の子みたいな容姿だと自覚している。特にコンプレックスを感じたことはない。なにもやる気がなくうつ状態なまま生きてきた気がする。
そんな僕が、今とても緊張しながら待ち合わせをしていた。
「7時にはいらっしゃると思うから」
登録したデリヘルでの初仕事。代表に駅近くの喫茶店まで送ってもらって「客」を待っている。
どんな人が来るんだろう。人材派遣業を営む社長さんと説明されたけど、考えてみれば僕も夜の相手をする人材派遣だ。派遣業ってうまい言い方だよなあ。
紅茶を飲みながらいろいろ考えているとドアが開いてカランカランと音がした。「いらっしゃいませ」という店員の声。
入ってきたのは濃いグレーのスーツに髪を上げて綺麗に整えて細い眼鏡をかけている男性だった。
あの人だ。
店内を見回している男性に手を上げると目が合った。少しほっとした様子の男性がこちらに近づいてくる。
「おまたせしました。待ちましたか?」
スーツのボタンを外しながら前の席に座った。僕を指名してくれた沢村二郎さん。僕は19で沢村さんは31歳。
「あのう…。どうして僕を?」
コーヒーを注文している沢村さんに不躾だが聞いてみた。ここは「ご指名ありがとうございます」と言わないといけないが、初めての仕事に緊張してうまく会話ができない。
「なんでしょう…。伊東さんなら許してくれるかもしれない、そんな気がしました」
年下の僕に、内容は曖昧だがとても丁寧に答えてくれる。
その日は鉄板焼のお店に連れていってもらった。沢村さんが行く店ならということでうちの代表がドレスコードに引っかからない程度に服を選んでくれた。場に合った服を着るというのも初めてだった。僕は世の中の全てに興味がない。ドレスコードすら知らなかった。
目の前で分厚い肉が焼かれる。
「おいしそう…」
正直な僕の感想に、沢村さんが初めて笑顔になった。
「南さんは何が好きですか?」
ワインを飲みながら沢村さんが聞いてくる。空腹が満たされれば何でもいい。
「好き嫌いはないです」
当たり障りないように答えた。
「でも、沢村さんとの初デートの味は忘れないかも」
僕の知らない高級な世界。今までのつまらない人生とは比べものにならない刺激。
何より沢村さんがかっこいい大人に見えた。今まで出会った大人はダサくてうるさい学校の先生と、無能なのにパワハラかけてくる上司。そいつらと沢村さんは違いすぎる。
それからも何回か沢村さんは僕を指名してくれて素敵な店に連れて行ってくれたが、手を出してこなかった。
あまりにも僕が子どもに見えるんだろうか。
何度目かのデートの後、僕を帰すためにタクシーを拾おうとしている沢村さんの腕を掴んだ。
「どうしていつも食事だけなんですか」
時間を売るのがコンセプトだが実質は夜の相手をするのが本業だ。
それなのに沢村さんは僕に手を出してこない。
「僕のこと嫌いですか?」
お酒を飲んでもいないのに絡みだした僕を、沢村さんは困った顔でじっと見てくる。
しばらくして沢村さんはゆっくり歩き出した。腕を振りほどくこともなく僕は沢村さんを掴んだままついていく。
着いたのはすぐ近くのビジネスホテルだった。
自分が言ったことの重大さを今頃気がついて一気に緊張感が襲ってくる。
沢村さんが選んだ部屋はツインだった。狭い部屋に、ベッドがふたつ。不思議に思っていると掴んだままだった僕の手をひねって外してベッドに押し倒してきた。
一瞬のことだった。
「痛かったら止めます。言ってくださいね」
眼鏡を外してサイドボードに置きながら言う。この人の所作は無駄がなく綺麗でいつも見とれてしまう。
ぼんやりしていると沢村さんに唇を塞がれた。
「ん…」
柔らかくて優しいキス。沢村さんの舌が口内をうごめく。その気持ちよさに力が抜けた。
僕が知らない世界。灰色の景色にまた色が増える。
「う…、ふ……」
沢村さんの舌が、首筋から胸にすべる。胸の突起を口に含まれて舌で転がされると気持ちよさに頭が真っ白になった。
「ずっと南さんが欲しかった」
いつの間にかふたりとも一糸まとわぬ姿になっている。
「嫌われたくなくてどうしていいのか…。僕も初めてで緊張して飲めない酒飲んでみたりしたんだけど…」
そんな事思いもしなかった。いつもスマートな身のこなしで僕をひきつけて離さない男が。
「あ…初めてなんて…、ウソでしょ……」
沢村さんは僕の股間に顔を埋めて僕自身のそれを口に含んだ。舌の動きが気持ちよくて快感に支配されていく。
「んん…っ…」
何かヌルっとした感触の後、後ろの穴にゆっくり指が入ってきた。
「痛いですか?」
「だい…じょうぶ…」
指を増やされて中で動く。勃起したままのそれも手でしごかれて快感と異物感で頭が混乱する。
「ああっ、沢村…さ……」
「今日はここまでにしましょう」
「いや…、やめないで」
「……」
「沢村さんが欲しいの」
少し考えた様子の後、沢村さんはいったん離れて自分の鞄を取りに行き、何かを持って戻ってきた。
「冷た…」
腹から後ろの穴に何か液体をかけられた。また指を入れてほぐしていく。
「足りない…沢村さんが欲しいよ…」
自分でも信じられないことを口走った。可愛い容姿だからといって男に抱かれたことはない。
沢村さんの指のテクニックに体が支配された。中をかき混ぜられると声が止まらない。
「おねが…もう…っ…」
僕は髪をふり乱して懇願した。
「あなたの知らなかった世界が、また増えますよ」
沢村さんの言葉の意味がわからないまま、太い杭にゆっくり貫かれる。
「う…、ん……」
最初は少し痛いと思ったが、根本まで飲み込んで僕は吐息を漏らす。
「ふ…あ…あぁ…、あん……!」
声が止まらない。沢村さんの動きもだんだん激しくなってきた。肉のぶつかる音が部屋に響く。
後ろに流している髪が乱れて前に垂れる。その顔が素敵で僕の胸がドキっとして、沢村さんの手に握られていた僕自身からたくさん白い液を吐き出した。
「…くっ…う…」
同じくらいのタイミングで沢村さんも僕の中で果てる。ゴム越しにびくびく震える刺激を感じて僕はまたイきそうになった。
「…体、大丈夫?」
沢村さんが僕の髪を梳いてくれる。その感触も気持ちよくて目を閉じた。
「このまま休んで。俺は向こうで寝るから」
そう言って隣のベッドを指差して起き上がるのを僕は引き止めた。
「一緒に寝て…。ひとりにしないで」
表情をやわらげて沢村さんが僕の横に寝転がる。
「延長の電話します」
そういって沢村さんがスマホを取り出した。沢村さんの性格上規約を破ることはない。
そうだ。これは仕事なんだ。
僕の時間に対価を払う。僕は商品で沢村さんは客。
少しだけ涙がにじんだ。気がつかれないようにクッションに顔を沈めたが沢村さんはすぐに見つける。
「無理しないで。キツかったら休んで」
「違う。僕が勝手に傷ついただけ」
僕はこの仕事は向かないかもしれない。
沢村さんは何も言わず僕が落ち着くまで抱きしめてくれていた。きっと僕の葛藤は読まれている。それを不躾に声に出さず沈黙で受け止めてくれる彼に、僕は溺れてしまったのかもしれない。
僕の無の世界に光が増えた。その分苦しみも増えた気がする。
登録してすぐに指名が増えた。僕の世界が広がっていく。
「南くん、沢村さんから。週末出れる?」
代表のこの言葉に元気をもらいながら今日も生きていく。いつかこの関係が終わっても色のない世界はあざやかに変わり僕自身も変わった。
高校卒業してから適当に就職したけどすぐに辞めた。
僕は自分でも女の子みたいな容姿だと自覚している。特にコンプレックスを感じたことはない。なにもやる気がなくうつ状態なまま生きてきた気がする。
そんな僕が、今とても緊張しながら待ち合わせをしていた。
「7時にはいらっしゃると思うから」
登録したデリヘルでの初仕事。代表に駅近くの喫茶店まで送ってもらって「客」を待っている。
どんな人が来るんだろう。人材派遣業を営む社長さんと説明されたけど、考えてみれば僕も夜の相手をする人材派遣だ。派遣業ってうまい言い方だよなあ。
紅茶を飲みながらいろいろ考えているとドアが開いてカランカランと音がした。「いらっしゃいませ」という店員の声。
入ってきたのは濃いグレーのスーツに髪を上げて綺麗に整えて細い眼鏡をかけている男性だった。
あの人だ。
店内を見回している男性に手を上げると目が合った。少しほっとした様子の男性がこちらに近づいてくる。
「おまたせしました。待ちましたか?」
スーツのボタンを外しながら前の席に座った。僕を指名してくれた沢村二郎さん。僕は19で沢村さんは31歳。
「あのう…。どうして僕を?」
コーヒーを注文している沢村さんに不躾だが聞いてみた。ここは「ご指名ありがとうございます」と言わないといけないが、初めての仕事に緊張してうまく会話ができない。
「なんでしょう…。伊東さんなら許してくれるかもしれない、そんな気がしました」
年下の僕に、内容は曖昧だがとても丁寧に答えてくれる。
その日は鉄板焼のお店に連れていってもらった。沢村さんが行く店ならということでうちの代表がドレスコードに引っかからない程度に服を選んでくれた。場に合った服を着るというのも初めてだった。僕は世の中の全てに興味がない。ドレスコードすら知らなかった。
目の前で分厚い肉が焼かれる。
「おいしそう…」
正直な僕の感想に、沢村さんが初めて笑顔になった。
「南さんは何が好きですか?」
ワインを飲みながら沢村さんが聞いてくる。空腹が満たされれば何でもいい。
「好き嫌いはないです」
当たり障りないように答えた。
「でも、沢村さんとの初デートの味は忘れないかも」
僕の知らない高級な世界。今までのつまらない人生とは比べものにならない刺激。
何より沢村さんがかっこいい大人に見えた。今まで出会った大人はダサくてうるさい学校の先生と、無能なのにパワハラかけてくる上司。そいつらと沢村さんは違いすぎる。
それからも何回か沢村さんは僕を指名してくれて素敵な店に連れて行ってくれたが、手を出してこなかった。
あまりにも僕が子どもに見えるんだろうか。
何度目かのデートの後、僕を帰すためにタクシーを拾おうとしている沢村さんの腕を掴んだ。
「どうしていつも食事だけなんですか」
時間を売るのがコンセプトだが実質は夜の相手をするのが本業だ。
それなのに沢村さんは僕に手を出してこない。
「僕のこと嫌いですか?」
お酒を飲んでもいないのに絡みだした僕を、沢村さんは困った顔でじっと見てくる。
しばらくして沢村さんはゆっくり歩き出した。腕を振りほどくこともなく僕は沢村さんを掴んだままついていく。
着いたのはすぐ近くのビジネスホテルだった。
自分が言ったことの重大さを今頃気がついて一気に緊張感が襲ってくる。
沢村さんが選んだ部屋はツインだった。狭い部屋に、ベッドがふたつ。不思議に思っていると掴んだままだった僕の手をひねって外してベッドに押し倒してきた。
一瞬のことだった。
「痛かったら止めます。言ってくださいね」
眼鏡を外してサイドボードに置きながら言う。この人の所作は無駄がなく綺麗でいつも見とれてしまう。
ぼんやりしていると沢村さんに唇を塞がれた。
「ん…」
柔らかくて優しいキス。沢村さんの舌が口内をうごめく。その気持ちよさに力が抜けた。
僕が知らない世界。灰色の景色にまた色が増える。
「う…、ふ……」
沢村さんの舌が、首筋から胸にすべる。胸の突起を口に含まれて舌で転がされると気持ちよさに頭が真っ白になった。
「ずっと南さんが欲しかった」
いつの間にかふたりとも一糸まとわぬ姿になっている。
「嫌われたくなくてどうしていいのか…。僕も初めてで緊張して飲めない酒飲んでみたりしたんだけど…」
そんな事思いもしなかった。いつもスマートな身のこなしで僕をひきつけて離さない男が。
「あ…初めてなんて…、ウソでしょ……」
沢村さんは僕の股間に顔を埋めて僕自身のそれを口に含んだ。舌の動きが気持ちよくて快感に支配されていく。
「んん…っ…」
何かヌルっとした感触の後、後ろの穴にゆっくり指が入ってきた。
「痛いですか?」
「だい…じょうぶ…」
指を増やされて中で動く。勃起したままのそれも手でしごかれて快感と異物感で頭が混乱する。
「ああっ、沢村…さ……」
「今日はここまでにしましょう」
「いや…、やめないで」
「……」
「沢村さんが欲しいの」
少し考えた様子の後、沢村さんはいったん離れて自分の鞄を取りに行き、何かを持って戻ってきた。
「冷た…」
腹から後ろの穴に何か液体をかけられた。また指を入れてほぐしていく。
「足りない…沢村さんが欲しいよ…」
自分でも信じられないことを口走った。可愛い容姿だからといって男に抱かれたことはない。
沢村さんの指のテクニックに体が支配された。中をかき混ぜられると声が止まらない。
「おねが…もう…っ…」
僕は髪をふり乱して懇願した。
「あなたの知らなかった世界が、また増えますよ」
沢村さんの言葉の意味がわからないまま、太い杭にゆっくり貫かれる。
「う…、ん……」
最初は少し痛いと思ったが、根本まで飲み込んで僕は吐息を漏らす。
「ふ…あ…あぁ…、あん……!」
声が止まらない。沢村さんの動きもだんだん激しくなってきた。肉のぶつかる音が部屋に響く。
後ろに流している髪が乱れて前に垂れる。その顔が素敵で僕の胸がドキっとして、沢村さんの手に握られていた僕自身からたくさん白い液を吐き出した。
「…くっ…う…」
同じくらいのタイミングで沢村さんも僕の中で果てる。ゴム越しにびくびく震える刺激を感じて僕はまたイきそうになった。
「…体、大丈夫?」
沢村さんが僕の髪を梳いてくれる。その感触も気持ちよくて目を閉じた。
「このまま休んで。俺は向こうで寝るから」
そう言って隣のベッドを指差して起き上がるのを僕は引き止めた。
「一緒に寝て…。ひとりにしないで」
表情をやわらげて沢村さんが僕の横に寝転がる。
「延長の電話します」
そういって沢村さんがスマホを取り出した。沢村さんの性格上規約を破ることはない。
そうだ。これは仕事なんだ。
僕の時間に対価を払う。僕は商品で沢村さんは客。
少しだけ涙がにじんだ。気がつかれないようにクッションに顔を沈めたが沢村さんはすぐに見つける。
「無理しないで。キツかったら休んで」
「違う。僕が勝手に傷ついただけ」
僕はこの仕事は向かないかもしれない。
沢村さんは何も言わず僕が落ち着くまで抱きしめてくれていた。きっと僕の葛藤は読まれている。それを不躾に声に出さず沈黙で受け止めてくれる彼に、僕は溺れてしまったのかもしれない。
僕の無の世界に光が増えた。その分苦しみも増えた気がする。
登録してすぐに指名が増えた。僕の世界が広がっていく。
「南くん、沢村さんから。週末出れる?」
代表のこの言葉に元気をもらいながら今日も生きていく。いつかこの関係が終わっても色のない世界はあざやかに変わり僕自身も変わった。
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