1 / 40
不幸
しおりを挟む
人混みの中スニーカーでアスファルトを蹴って走る。
どうしてこうなったんだろう。
呪い?そんなオカルトじみたこと信じていなかった。
だが周辺にだんだん異変が起こるようになり、さすがに恐怖を覚えた。
まず母方の親戚がひとりずつ病死や事故死していった。
不幸が重なることはよくあることかもしれないが、定期的に、まるで狙ったかのように突然死が続くとまわりも薄気味悪く感じ始める。
「呪われてるんじゃない?」
毎月のように行われる葬儀の席で誰かがぽつりと言った。
「不謹慎なことを言うんじゃない」
咎める人や、そう思い込んで震える人。
佐伯悠人は信じなかった。
そんな馬鹿なことがあるかと鼻で笑った。
だが不幸の矢は突然自分に向いてきた。
翌日会社に行くと突然解雇を言い渡された。
「は?」
大学を卒業して入社5年目、たいした仕事はしていないが、その分会社に損害を出すような事はしていない。
唯一考えられるのは毎月1日有給を使って親戚の葬儀に参加していた事くらいだ。
それがクビになるほど悪いことなのか、さっぱりわからない。
「悪いが決まったことなんだ。何も言わず従ってくれ」
老齢の上司はバツが悪そうな顔で言ってからパソコンに目を向けて仕事をし始める。
ひとりの人間の人生を潰したことになんの思いもないのかと悠人は憤った。
「理由くらい教えてくださいよ!」
どうせクビならと思って、悠人は上司のデスクを思い切り蹴り飛ばした。
フロアがしん、と静まりかえる。
どれだけ理由を聞いても教えてはもらえず、会社都合ということでいくらかの退職金をもらってクビになった。
「ふざけんなよ」
その足で労働監督署に行き会社をチクってやろうと自分の車に乗り込んだ瞬間、助手席側に車が突っ込んできた。
ガシャン!という、衝撃音とも爆発音ともとれる音が響いた。
何とか車から這い出して外に出ると、自分ではなく、突っ込んできたほうの人間が血だらけで運転席でぐったりしている。
会社の駐車場でのことで、ぶつかってきたのは顔見知りの同期社員だった。
血の繋がりはないが遠縁に当たるというのでその話で盛り上がったことはある。
ブレーキを踏んだ音はしなかった。
悠人はぞっとしながら、とにかく相手の運転席側のドアを開けようとしたが、ぶつかった衝撃で曲がったのか扉はびくともしない。
その場で救急車と警察に電話した。
「おい!大丈夫か!?」
ヒビの入ったフロントガラスを叩いて相手の意識を戻そうとしてみたが、息をしていないのかエアバックに突っ伏したまま体が動いていない。
季節は春なのに悠人の短い黒髪からまるでサウナに入ったかのように汗が滴り落ちてくる。
呪い。
その言葉が頭に浮かんだ。
到着した救急車で搬送される姿を見送って、警察に現状を質問されるが、自分が尋ねたいと思うくらいさっぱりわからない。起きた事をそのまま話すしかなかった。
保険会社に後をまかせてようやく自分のアパートに帰れたときはまわりは暗くなっていた。
1日中拘束されていたのだが、悠人には数分しか経過していないように感じる。
とりあえず落ち着こうとジャケットを抜いてソファに放り投げて冷蔵庫からビールを取り出した時、スマホの通知音がなった。
非通知だったが疲労で頭が回らない悠人は何の疑問もわかずに通話にした。
「もしもし」
「……」
イタズラ電話かな、そこでようやく普段の感覚が戻ってきた。
「もしもし、どちらさまですか?」
ソファによりかかって立ったまま悠人は話しかけてみたが返事がない。
相手になる気力はもうなかったので通話を切ろうとした時、向こうが不気味な声で言った。
『次はお前を呪い殺す』
ガザガザした不快な声だった。
今日一日の出来事で神経が尖っていた悠人はこの言葉に恐怖する状態ではなかった。
「は?ふざけんな!!突然電話してきて呪うとか頭おかしいのか!?」
悠人の罵声にも相手はひるまず、むしろ笑っているように聞こえた。
『今病院で彼は死んだ』
車で突っ込んできた彼のことだろうか。
「なぜそんな事知ってるんだ。適当なこと言うな」
『佐伯悠人21歳。〇〇商事を今日付けで退社。午前9時30分会社内の駐車場で交通事故』
「…」
『次はお前が死ぬ番だ』
そういって通話が切れた。
スマホを握ったまま、今の状況がわからないまま悠人はその場に立ちすくむ。
それほど親しくはなかったが、知らぬ仲ではない彼が亡くなったことに体が震える。
急に怖くなって意味もなくぐるりとまわりを見渡した時、またスマホが鳴った。
「うわっ…!」
驚いてディスプレイを見ると今度は電話番号が表示されている。
「…もしもし」
悠人は恐る恐る出てみた。
『あ、どうも。佐伯悠人さん?あなた呪われてますよ。逃げたほうがいい』
若い男の声で軽快に言われた。
どうしてこうなったんだろう。
呪い?そんなオカルトじみたこと信じていなかった。
だが周辺にだんだん異変が起こるようになり、さすがに恐怖を覚えた。
まず母方の親戚がひとりずつ病死や事故死していった。
不幸が重なることはよくあることかもしれないが、定期的に、まるで狙ったかのように突然死が続くとまわりも薄気味悪く感じ始める。
「呪われてるんじゃない?」
毎月のように行われる葬儀の席で誰かがぽつりと言った。
「不謹慎なことを言うんじゃない」
咎める人や、そう思い込んで震える人。
佐伯悠人は信じなかった。
そんな馬鹿なことがあるかと鼻で笑った。
だが不幸の矢は突然自分に向いてきた。
翌日会社に行くと突然解雇を言い渡された。
「は?」
大学を卒業して入社5年目、たいした仕事はしていないが、その分会社に損害を出すような事はしていない。
唯一考えられるのは毎月1日有給を使って親戚の葬儀に参加していた事くらいだ。
それがクビになるほど悪いことなのか、さっぱりわからない。
「悪いが決まったことなんだ。何も言わず従ってくれ」
老齢の上司はバツが悪そうな顔で言ってからパソコンに目を向けて仕事をし始める。
ひとりの人間の人生を潰したことになんの思いもないのかと悠人は憤った。
「理由くらい教えてくださいよ!」
どうせクビならと思って、悠人は上司のデスクを思い切り蹴り飛ばした。
フロアがしん、と静まりかえる。
どれだけ理由を聞いても教えてはもらえず、会社都合ということでいくらかの退職金をもらってクビになった。
「ふざけんなよ」
その足で労働監督署に行き会社をチクってやろうと自分の車に乗り込んだ瞬間、助手席側に車が突っ込んできた。
ガシャン!という、衝撃音とも爆発音ともとれる音が響いた。
何とか車から這い出して外に出ると、自分ではなく、突っ込んできたほうの人間が血だらけで運転席でぐったりしている。
会社の駐車場でのことで、ぶつかってきたのは顔見知りの同期社員だった。
血の繋がりはないが遠縁に当たるというのでその話で盛り上がったことはある。
ブレーキを踏んだ音はしなかった。
悠人はぞっとしながら、とにかく相手の運転席側のドアを開けようとしたが、ぶつかった衝撃で曲がったのか扉はびくともしない。
その場で救急車と警察に電話した。
「おい!大丈夫か!?」
ヒビの入ったフロントガラスを叩いて相手の意識を戻そうとしてみたが、息をしていないのかエアバックに突っ伏したまま体が動いていない。
季節は春なのに悠人の短い黒髪からまるでサウナに入ったかのように汗が滴り落ちてくる。
呪い。
その言葉が頭に浮かんだ。
到着した救急車で搬送される姿を見送って、警察に現状を質問されるが、自分が尋ねたいと思うくらいさっぱりわからない。起きた事をそのまま話すしかなかった。
保険会社に後をまかせてようやく自分のアパートに帰れたときはまわりは暗くなっていた。
1日中拘束されていたのだが、悠人には数分しか経過していないように感じる。
とりあえず落ち着こうとジャケットを抜いてソファに放り投げて冷蔵庫からビールを取り出した時、スマホの通知音がなった。
非通知だったが疲労で頭が回らない悠人は何の疑問もわかずに通話にした。
「もしもし」
「……」
イタズラ電話かな、そこでようやく普段の感覚が戻ってきた。
「もしもし、どちらさまですか?」
ソファによりかかって立ったまま悠人は話しかけてみたが返事がない。
相手になる気力はもうなかったので通話を切ろうとした時、向こうが不気味な声で言った。
『次はお前を呪い殺す』
ガザガザした不快な声だった。
今日一日の出来事で神経が尖っていた悠人はこの言葉に恐怖する状態ではなかった。
「は?ふざけんな!!突然電話してきて呪うとか頭おかしいのか!?」
悠人の罵声にも相手はひるまず、むしろ笑っているように聞こえた。
『今病院で彼は死んだ』
車で突っ込んできた彼のことだろうか。
「なぜそんな事知ってるんだ。適当なこと言うな」
『佐伯悠人21歳。〇〇商事を今日付けで退社。午前9時30分会社内の駐車場で交通事故』
「…」
『次はお前が死ぬ番だ』
そういって通話が切れた。
スマホを握ったまま、今の状況がわからないまま悠人はその場に立ちすくむ。
それほど親しくはなかったが、知らぬ仲ではない彼が亡くなったことに体が震える。
急に怖くなって意味もなくぐるりとまわりを見渡した時、またスマホが鳴った。
「うわっ…!」
驚いてディスプレイを見ると今度は電話番号が表示されている。
「…もしもし」
悠人は恐る恐る出てみた。
『あ、どうも。佐伯悠人さん?あなた呪われてますよ。逃げたほうがいい』
若い男の声で軽快に言われた。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
時の呪縛
葉羽
ミステリー
山間の孤立した村にある古びた時計塔。かつてこの村は繁栄していたが、失踪事件が連続して発生したことで、村人たちは恐れを抱き、時計塔は放置されたままとなった。17歳の天才高校生・神藤葉羽は、友人に誘われてこの村を訪れることになる。そこで彼は、幼馴染の望月彩由美と共に、村の秘密に迫ることになる。
葉羽と彩由美は、失踪事件に関する不気味な噂を耳にし、時計塔に隠された真実を解明しようとする。しかし、時計塔の内部には、過去の記憶を呼び起こす仕掛けが待ち受けていた。彼らは、時間が歪み、過去の失踪者たちの幻影に直面する中で、次第に自らの心の奥底に潜む恐怖と向き合わせることになる。
果たして、彼らは村の呪いを解き明かし、失踪事件の真相に辿り着けるのか?そして、彼らの友情と恋心は試される。緊迫感あふれる謎解きと心理的恐怖が交錯する本格推理小説。
リモート刑事 笹本翔
雨垂 一滴
ミステリー
『リモート刑事 笹本翔』は、過去のトラウマと戦う一人の刑事が、リモート捜査で事件を解決していく、刑事ドラマです。
主人公の笹本翔は、かつて警察組織の中でトップクラスの捜査官でしたが、ある事件で仲間を失い、自身も重傷を負ったことで、外出恐怖症(アゴラフォビア)に陥り、現場に出ることができなくなってしまいます。
それでも、彼の卓越した分析力と冷静な判断力は衰えず、リモートで捜査指示を出しながら、次々と難事件を解決していきます。
物語の鍵を握るのは、翔の若き相棒・竹内優斗。熱血漢で行動力に満ちた優斗と、過去の傷を抱えながらも冷静に捜査を指揮する翔。二人の対照的なキャラクターが織りなすバディストーリーです。
翔は果たして過去のトラウマを克服し、再び現場に立つことができるのか?
翔と優斗が数々の難事件に挑戦します!
この目の前にあるぺちゃんこになった死体はどこからやってきた?
原口源太郎
ミステリー
しこたま酒を飲んだ帰り道、僕たちの目の前に何かが落ちてきた。それはぺちゃんこになった人間だった。僕たちは空を見上げた。この人はどこから落ちてきたんだ?
四次元残響の檻(おり)
葉羽
ミステリー
音響学の権威である変わり者の学者、阿座河燐太郎(あざかわ りんたろう)博士が、古びた洋館を改装した音響研究所の地下実験室で謎の死を遂げた。密室状態の実験室から博士の身体は消失し、物証は一切残されていない。警察は超常現象として捜査を打ち切ろうとするが、事件の報を聞きつけた神藤葉羽は、そこに論理的なトリックが隠されていると確信する。葉羽は、幼馴染の望月彩由美と共に、奇妙な音響装置が残された地下実験室を訪れる。そこで葉羽は、博士が四次元空間と共鳴現象を利用した前代未聞の殺人トリックを仕掛けた可能性に気づく。しかし、謎を解き明かそうとする葉羽と彩由美の周囲で、不可解な現象が次々と発生し、二人は見えない恐怖に追い詰められていく。四次元残響が引き起こす恐怖と、天才高校生・葉羽の推理が交錯する中、事件は想像を絶する結末へと向かっていく。
「ここへおいで きみがまだ知らない秘密の話をしよう」
水ぎわ
ミステリー
王軍を率いる貴公子、イグネイは、ある修道院にやってきた。
目的は、反乱軍制圧と治安維持。
だが、イグネイにはどうしても手に入れたいものがあった。
たとえ『聖なる森』で出会った超絶美少女・小悪魔をだまくらかしてでも――。
イケメンで白昼堂々と厳格な老修道院長を脅し、泳げないくせに美少女小悪魔のために池に飛び込むヒネ曲がり騎士。
どうしても欲しい『母の秘密』を手に入れられるか??
似た女
原口源太郎
ミステリー
駅前の通りを歩いている時に声をかけられた。「いいアルバイトがあるんです。モデルの仕事なんですけど、写真を撮らせていただくだけ」私は美人とはいえないし、歳だって若いとはいえない。なぜ私なのだろう。 詳しい話を聞くために喫茶店で待っていると、派手な服を着た女が入ってきて、私の向かいに腰かけた。
私は女の顔を見て驚いた。私に似ている。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる