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不幸
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人混みの中スニーカーでアスファルトを蹴って走る。
どうしてこうなったんだろう。
呪い?そんなオカルトじみたこと信じていなかった。
だが周辺にだんだん異変が起こるようになり、さすがに恐怖を覚えた。
まず母方の親戚がひとりずつ病死や事故死していった。
不幸が重なることはよくあることかもしれないが、定期的に、まるで狙ったかのように突然死が続くとまわりも薄気味悪く感じ始める。
「呪われてるんじゃない?」
毎月のように行われる葬儀の席で誰かがぽつりと言った。
「不謹慎なことを言うんじゃない」
咎める人や、そう思い込んで震える人。
佐伯悠人は信じなかった。
そんな馬鹿なことがあるかと鼻で笑った。
だが不幸の矢は突然自分に向いてきた。
翌日会社に行くと突然解雇を言い渡された。
「は?」
大学を卒業して入社5年目、たいした仕事はしていないが、その分会社に損害を出すような事はしていない。
唯一考えられるのは毎月1日有給を使って親戚の葬儀に参加していた事くらいだ。
それがクビになるほど悪いことなのか、さっぱりわからない。
「悪いが決まったことなんだ。何も言わず従ってくれ」
老齢の上司はバツが悪そうな顔で言ってからパソコンに目を向けて仕事をし始める。
ひとりの人間の人生を潰したことになんの思いもないのかと悠人は憤った。
「理由くらい教えてくださいよ!」
どうせクビならと思って、悠人は上司のデスクを思い切り蹴り飛ばした。
フロアがしん、と静まりかえる。
どれだけ理由を聞いても教えてはもらえず、会社都合ということでいくらかの退職金をもらってクビになった。
「ふざけんなよ」
その足で労働監督署に行き会社をチクってやろうと自分の車に乗り込んだ瞬間、助手席側に車が突っ込んできた。
ガシャン!という、衝撃音とも爆発音ともとれる音が響いた。
何とか車から這い出して外に出ると、自分ではなく、突っ込んできたほうの人間が血だらけで運転席でぐったりしている。
会社の駐車場でのことで、ぶつかってきたのは顔見知りの同期社員だった。
血の繋がりはないが遠縁に当たるというのでその話で盛り上がったことはある。
ブレーキを踏んだ音はしなかった。
悠人はぞっとしながら、とにかく相手の運転席側のドアを開けようとしたが、ぶつかった衝撃で曲がったのか扉はびくともしない。
その場で救急車と警察に電話した。
「おい!大丈夫か!?」
ヒビの入ったフロントガラスを叩いて相手の意識を戻そうとしてみたが、息をしていないのかエアバックに突っ伏したまま体が動いていない。
季節は春なのに悠人の短い黒髪からまるでサウナに入ったかのように汗が滴り落ちてくる。
呪い。
その言葉が頭に浮かんだ。
到着した救急車で搬送される姿を見送って、警察に現状を質問されるが、自分が尋ねたいと思うくらいさっぱりわからない。起きた事をそのまま話すしかなかった。
保険会社に後をまかせてようやく自分のアパートに帰れたときはまわりは暗くなっていた。
1日中拘束されていたのだが、悠人には数分しか経過していないように感じる。
とりあえず落ち着こうとジャケットを抜いてソファに放り投げて冷蔵庫からビールを取り出した時、スマホの通知音がなった。
非通知だったが疲労で頭が回らない悠人は何の疑問もわかずに通話にした。
「もしもし」
「……」
イタズラ電話かな、そこでようやく普段の感覚が戻ってきた。
「もしもし、どちらさまですか?」
ソファによりかかって立ったまま悠人は話しかけてみたが返事がない。
相手になる気力はもうなかったので通話を切ろうとした時、向こうが不気味な声で言った。
『次はお前を呪い殺す』
ガザガザした不快な声だった。
今日一日の出来事で神経が尖っていた悠人はこの言葉に恐怖する状態ではなかった。
「は?ふざけんな!!突然電話してきて呪うとか頭おかしいのか!?」
悠人の罵声にも相手はひるまず、むしろ笑っているように聞こえた。
『今病院で彼は死んだ』
車で突っ込んできた彼のことだろうか。
「なぜそんな事知ってるんだ。適当なこと言うな」
『佐伯悠人21歳。〇〇商事を今日付けで退社。午前9時30分会社内の駐車場で交通事故』
「…」
『次はお前が死ぬ番だ』
そういって通話が切れた。
スマホを握ったまま、今の状況がわからないまま悠人はその場に立ちすくむ。
それほど親しくはなかったが、知らぬ仲ではない彼が亡くなったことに体が震える。
急に怖くなって意味もなくぐるりとまわりを見渡した時、またスマホが鳴った。
「うわっ…!」
驚いてディスプレイを見ると今度は電話番号が表示されている。
「…もしもし」
悠人は恐る恐る出てみた。
『あ、どうも。佐伯悠人さん?あなた呪われてますよ。逃げたほうがいい』
若い男の声で軽快に言われた。
どうしてこうなったんだろう。
呪い?そんなオカルトじみたこと信じていなかった。
だが周辺にだんだん異変が起こるようになり、さすがに恐怖を覚えた。
まず母方の親戚がひとりずつ病死や事故死していった。
不幸が重なることはよくあることかもしれないが、定期的に、まるで狙ったかのように突然死が続くとまわりも薄気味悪く感じ始める。
「呪われてるんじゃない?」
毎月のように行われる葬儀の席で誰かがぽつりと言った。
「不謹慎なことを言うんじゃない」
咎める人や、そう思い込んで震える人。
佐伯悠人は信じなかった。
そんな馬鹿なことがあるかと鼻で笑った。
だが不幸の矢は突然自分に向いてきた。
翌日会社に行くと突然解雇を言い渡された。
「は?」
大学を卒業して入社5年目、たいした仕事はしていないが、その分会社に損害を出すような事はしていない。
唯一考えられるのは毎月1日有給を使って親戚の葬儀に参加していた事くらいだ。
それがクビになるほど悪いことなのか、さっぱりわからない。
「悪いが決まったことなんだ。何も言わず従ってくれ」
老齢の上司はバツが悪そうな顔で言ってからパソコンに目を向けて仕事をし始める。
ひとりの人間の人生を潰したことになんの思いもないのかと悠人は憤った。
「理由くらい教えてくださいよ!」
どうせクビならと思って、悠人は上司のデスクを思い切り蹴り飛ばした。
フロアがしん、と静まりかえる。
どれだけ理由を聞いても教えてはもらえず、会社都合ということでいくらかの退職金をもらってクビになった。
「ふざけんなよ」
その足で労働監督署に行き会社をチクってやろうと自分の車に乗り込んだ瞬間、助手席側に車が突っ込んできた。
ガシャン!という、衝撃音とも爆発音ともとれる音が響いた。
何とか車から這い出して外に出ると、自分ではなく、突っ込んできたほうの人間が血だらけで運転席でぐったりしている。
会社の駐車場でのことで、ぶつかってきたのは顔見知りの同期社員だった。
血の繋がりはないが遠縁に当たるというのでその話で盛り上がったことはある。
ブレーキを踏んだ音はしなかった。
悠人はぞっとしながら、とにかく相手の運転席側のドアを開けようとしたが、ぶつかった衝撃で曲がったのか扉はびくともしない。
その場で救急車と警察に電話した。
「おい!大丈夫か!?」
ヒビの入ったフロントガラスを叩いて相手の意識を戻そうとしてみたが、息をしていないのかエアバックに突っ伏したまま体が動いていない。
季節は春なのに悠人の短い黒髪からまるでサウナに入ったかのように汗が滴り落ちてくる。
呪い。
その言葉が頭に浮かんだ。
到着した救急車で搬送される姿を見送って、警察に現状を質問されるが、自分が尋ねたいと思うくらいさっぱりわからない。起きた事をそのまま話すしかなかった。
保険会社に後をまかせてようやく自分のアパートに帰れたときはまわりは暗くなっていた。
1日中拘束されていたのだが、悠人には数分しか経過していないように感じる。
とりあえず落ち着こうとジャケットを抜いてソファに放り投げて冷蔵庫からビールを取り出した時、スマホの通知音がなった。
非通知だったが疲労で頭が回らない悠人は何の疑問もわかずに通話にした。
「もしもし」
「……」
イタズラ電話かな、そこでようやく普段の感覚が戻ってきた。
「もしもし、どちらさまですか?」
ソファによりかかって立ったまま悠人は話しかけてみたが返事がない。
相手になる気力はもうなかったので通話を切ろうとした時、向こうが不気味な声で言った。
『次はお前を呪い殺す』
ガザガザした不快な声だった。
今日一日の出来事で神経が尖っていた悠人はこの言葉に恐怖する状態ではなかった。
「は?ふざけんな!!突然電話してきて呪うとか頭おかしいのか!?」
悠人の罵声にも相手はひるまず、むしろ笑っているように聞こえた。
『今病院で彼は死んだ』
車で突っ込んできた彼のことだろうか。
「なぜそんな事知ってるんだ。適当なこと言うな」
『佐伯悠人21歳。〇〇商事を今日付けで退社。午前9時30分会社内の駐車場で交通事故』
「…」
『次はお前が死ぬ番だ』
そういって通話が切れた。
スマホを握ったまま、今の状況がわからないまま悠人はその場に立ちすくむ。
それほど親しくはなかったが、知らぬ仲ではない彼が亡くなったことに体が震える。
急に怖くなって意味もなくぐるりとまわりを見渡した時、またスマホが鳴った。
「うわっ…!」
驚いてディスプレイを見ると今度は電話番号が表示されている。
「…もしもし」
悠人は恐る恐る出てみた。
『あ、どうも。佐伯悠人さん?あなた呪われてますよ。逃げたほうがいい』
若い男の声で軽快に言われた。
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