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気を吸う
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「そういう事だから安心していいぞ。一杯飲んだら下がって休め」
裏でいろんな政治が行われている事を言いたかっただけなのか、夫の不在を案じてくれたのか、意図がよくわからない。
侍女がついでくれたにごり酒を一口含んで、ことりと杯を置いた。
内裏の官庁のひとつ陰陽寮の官吏、晴明と紹介されたこの男。
どれくらいの実力があるのだろう。
その顔をじっと見つけていると、目が合って会釈された。
「すごい気迫だけど可愛いだろう?弟がうらやましいよ」
酔っているのかクルトは勾欄に寄りかかって笑っている。
「アルノ殿の安全は私にお任せください。危険を察知したらすぐに動きます」
くたりとしているクルトを無視して、官吏らしい真面目な口調で静に言う。
「おい晴明、俺を置いていくな」
後ろからクルトがヤジを飛ばしてくる。
「あなたが我ら一族に手を貸して見返りに何を得るの?」
檜扇をはらりと開いて静が問うた。
「…何でしょう。難しいですね」
「ガキの頃から俺の子分だ。俺がこうしろと言ったらそう動けばいいのさ」
「まあ…、そんな感じです」
友人として政治の中枢の人物を押さえているのはさすが一族を背負う総帥の名に恥じない政治力だと静は感心した。
「それとは別件で聞きたいことがあるんですけどね」
静に半身背を向けて、クルトのほうを見る。
「最近おかしな死体が転がってる話の続きをしたいんですが」
総帥は笑顔を消して、近くの灰色の侍女を手招きした。
ひとりがすっと立ち上がって音もなく近づき、ゆっくり座る。
「腕出して」
袿の袖をすうっと上げて白い腕を見せると、総帥はそれを掴んで目を閉じた。
力を込めてぐっと握られた腕は、だんだん色が消えて枯れ木のように変色していく。
「こんな感じだろう?」
ごろりと転がった侍女は全身が枯れ木のような乾いた死体になって床に転がった。
裏でいろんな政治が行われている事を言いたかっただけなのか、夫の不在を案じてくれたのか、意図がよくわからない。
侍女がついでくれたにごり酒を一口含んで、ことりと杯を置いた。
内裏の官庁のひとつ陰陽寮の官吏、晴明と紹介されたこの男。
どれくらいの実力があるのだろう。
その顔をじっと見つけていると、目が合って会釈された。
「すごい気迫だけど可愛いだろう?弟がうらやましいよ」
酔っているのかクルトは勾欄に寄りかかって笑っている。
「アルノ殿の安全は私にお任せください。危険を察知したらすぐに動きます」
くたりとしているクルトを無視して、官吏らしい真面目な口調で静に言う。
「おい晴明、俺を置いていくな」
後ろからクルトがヤジを飛ばしてくる。
「あなたが我ら一族に手を貸して見返りに何を得るの?」
檜扇をはらりと開いて静が問うた。
「…何でしょう。難しいですね」
「ガキの頃から俺の子分だ。俺がこうしろと言ったらそう動けばいいのさ」
「まあ…、そんな感じです」
友人として政治の中枢の人物を押さえているのはさすが一族を背負う総帥の名に恥じない政治力だと静は感心した。
「それとは別件で聞きたいことがあるんですけどね」
静に半身背を向けて、クルトのほうを見る。
「最近おかしな死体が転がってる話の続きをしたいんですが」
総帥は笑顔を消して、近くの灰色の侍女を手招きした。
ひとりがすっと立ち上がって音もなく近づき、ゆっくり座る。
「腕出して」
袿の袖をすうっと上げて白い腕を見せると、総帥はそれを掴んで目を閉じた。
力を込めてぐっと握られた腕は、だんだん色が消えて枯れ木のように変色していく。
「こんな感じだろう?」
ごろりと転がった侍女は全身が枯れ木のような乾いた死体になって床に転がった。
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