25 / 25
覇道~これから
しおりを挟む
誰からみても、姉は異常だと思う。
そしてその金で養われている自分という存在に罪悪感が襲う。
今まで漠然とした不安から手首を切っていたが、そんなものは比でもない恐怖を姉に感じた。
相変わらず姉は優しい。でも美加姉を殺したのは未知姉だと思う。
確証はない。だが捜索願も出さず、本気で探そうとしていないことが、その証明だと思う。
ー私も邪魔になったら同じ道をいくのかー
そう思うと心臓がばくばくと激しく鼓動した。
「…っ…!」
心臓にちくりと痛みが生じた。安定剤を取りに行こうと思った足が、止まる。
生きていたくない。
この家の呪縛を知った今、希死観念はさらに強くなった。
美加と一緒に住んでいたこの部屋。一時期入院させられた病院。
過去がぐるぐる回る。自分はなに。生きるってつらい。
「あああああああああ!!!!!」
洗面所に座り込んで、美衣は誰にぶつけることもできない感情を叫んだ。
きっと未知姉のほうが心の負担は大きい。でも父との絆があるだけ私よりましだ。どんな仕事でも継げばそれは父と自分を繋ぐ。
なら私は?
美衣はふらりと立ち上がってダイニングに向かった。
引き出しを開けてパニックになった時の安定剤を取り出して、水で飲み込んだ。
数を数えながら、ぼんやりと照明の汚れを見ている。ああ掃除しなきゃなあと思っているうちに少し落ち着いてきた。
己の存在を今さら恨んでも、今も未知が稼いだお金で部屋を借りて、大学の学費や生活費を払ってもらっている。
犠牲になった人たちに謝っても許してはもらえない。
だったら見加姉のように開き直って強く生きたほうがいい。
いつも使っていたカミソリを取り出して、チラシで何重もぐるぐる巻いて、ゴミ箱に捨てた。
相変わらずの雨の中、未知は父の墓参りに向かう。
雨が降っていたほうがいい。墓石に話しかける声を消してくれるし、人も少ない。
いつものように線香の束に火をつけて、雨で消えないように傘で覆いながら小さな炎を見ている。
「お父さん、私、やってはいけない事をしてしまったわ」
しばらく無言だったが、やがて口を開いた。
「身内に手をかけるなんて、あの時の私はどうかしてた。トラブルばかりの見加に腹を立てて怒りが限界まで来ていたものあるけど、それが言い訳にはならないしね」
自分が経営している特殊清掃会社の社員に命じて見加を処理させた。雇っている人間は元反社で一般社会では就職が難しい連中ばかりだ。自分の生活を犠牲にしてまで警察に密告する人間はいないと思う。
もしいたら殺すだけだ。
「そちらに行った見加は何て言ってる?私の事怒っているでしょうね。でもリスカを繰り返す美衣のこともあったし見加の心の問題をもっと深く見てあげる余裕がなかった」
『美加も大人だ。責任は自分で取る年だ』
空耳か、低い声が耳元で聞こえた気がした。ぐるりと周囲を見渡すが誰もいない。
不思議なことはあまり信じていないが父の声に似ていた。
『全てを抱え込まなくていい、未知』
それは自分の心の懺悔が聞かせた幻聴か、本当に父の声だったのか。
雨脚が強くなる、未知の泣き声を消すには充分だった。
そしてその金で養われている自分という存在に罪悪感が襲う。
今まで漠然とした不安から手首を切っていたが、そんなものは比でもない恐怖を姉に感じた。
相変わらず姉は優しい。でも美加姉を殺したのは未知姉だと思う。
確証はない。だが捜索願も出さず、本気で探そうとしていないことが、その証明だと思う。
ー私も邪魔になったら同じ道をいくのかー
そう思うと心臓がばくばくと激しく鼓動した。
「…っ…!」
心臓にちくりと痛みが生じた。安定剤を取りに行こうと思った足が、止まる。
生きていたくない。
この家の呪縛を知った今、希死観念はさらに強くなった。
美加と一緒に住んでいたこの部屋。一時期入院させられた病院。
過去がぐるぐる回る。自分はなに。生きるってつらい。
「あああああああああ!!!!!」
洗面所に座り込んで、美衣は誰にぶつけることもできない感情を叫んだ。
きっと未知姉のほうが心の負担は大きい。でも父との絆があるだけ私よりましだ。どんな仕事でも継げばそれは父と自分を繋ぐ。
なら私は?
美衣はふらりと立ち上がってダイニングに向かった。
引き出しを開けてパニックになった時の安定剤を取り出して、水で飲み込んだ。
数を数えながら、ぼんやりと照明の汚れを見ている。ああ掃除しなきゃなあと思っているうちに少し落ち着いてきた。
己の存在を今さら恨んでも、今も未知が稼いだお金で部屋を借りて、大学の学費や生活費を払ってもらっている。
犠牲になった人たちに謝っても許してはもらえない。
だったら見加姉のように開き直って強く生きたほうがいい。
いつも使っていたカミソリを取り出して、チラシで何重もぐるぐる巻いて、ゴミ箱に捨てた。
相変わらずの雨の中、未知は父の墓参りに向かう。
雨が降っていたほうがいい。墓石に話しかける声を消してくれるし、人も少ない。
いつものように線香の束に火をつけて、雨で消えないように傘で覆いながら小さな炎を見ている。
「お父さん、私、やってはいけない事をしてしまったわ」
しばらく無言だったが、やがて口を開いた。
「身内に手をかけるなんて、あの時の私はどうかしてた。トラブルばかりの見加に腹を立てて怒りが限界まで来ていたものあるけど、それが言い訳にはならないしね」
自分が経営している特殊清掃会社の社員に命じて見加を処理させた。雇っている人間は元反社で一般社会では就職が難しい連中ばかりだ。自分の生活を犠牲にしてまで警察に密告する人間はいないと思う。
もしいたら殺すだけだ。
「そちらに行った見加は何て言ってる?私の事怒っているでしょうね。でもリスカを繰り返す美衣のこともあったし見加の心の問題をもっと深く見てあげる余裕がなかった」
『美加も大人だ。責任は自分で取る年だ』
空耳か、低い声が耳元で聞こえた気がした。ぐるりと周囲を見渡すが誰もいない。
不思議なことはあまり信じていないが父の声に似ていた。
『全てを抱え込まなくていい、未知』
それは自分の心の懺悔が聞かせた幻聴か、本当に父の声だったのか。
雨脚が強くなる、未知の泣き声を消すには充分だった。
0
お気に入りに追加
3
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説


どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした
亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。
カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。
(悪役モブ♀が出てきます)
(他サイトに2021年〜掲載済)
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる