金は天下で回らない

希京

文字の大きさ
上 下
16 / 25

イメージ~金子

しおりを挟む
林の葬儀が終わった数日後、未知は末っ子の美衣を連れて美容院に来た。

「私と全然似ていないようにしてください」

未知と美衣は雰囲気がよく似ていた。長い黒髪、父親似の顔、地味な服。
いきなり素っ頓狂な注文に、店長の美容師が「う~ん…」と顎に手を当てて悩んでいた。

「この髪、バッサリ切っちゃっていい?」
「は、はい大丈夫です」
未知がいるとはいえ極度の人見知りの美衣が、緊張して答える。
「あと髪の色も明るくしようか。要は未知さんに間違われないように別人に変身させればいいんでしょ?」

デザイン性の高い椅子に座っている未知が上目づかいで笑う。
自分は『金子未知』として、危険な目に遭ってもこの生き方を選んだので後悔はないが、妹たちが巻きこまれるのは絶対に防ぎたかった。

明るめのブラウンにボブカット、前髪をアシンメトリーに分けて、少しメイクしてもらう。
「かわいいー!どう未知さん。大変身よ」
お世辞抜きに美衣の雰囲気が変わった。椅子に座り込んで変わっていく様を一部始終見ていた未知も満足そうに笑顔を見せる。
まな板の鯉状態の見衣は、鏡に映っている自分を見て恥ずかしそうにしていた。

「未知さんは?前髪だけでもそろえましょか?」
「私はこれでいいの。狙いの的は地味で前髪のある暗い女。わかりややすいでしょ?」
「いつまでそれを貫くのよお」
美容師がもったいなさそうに言う。
「私が死ぬまでかな」
不吉なことを言って、未知は視線を泳がせて寂しく笑っていた。


服も買って、どの店もランチタイムになり、にふらりと入った店に、みおぼえのある派手な女を見つけた。
「美加姉だ…」
たくさんの紙袋を抱えて美衣が驚く。
派手な男と食事している美加が見える席に座って、未知が誰かに電話をかけた。

「写メを送る」
短めに言って、ランチを頼みながらウエイトレスを盾に写メを撮って中川京介に送ると、すぐにLINE通知が来た。

『ミント君だと思います。ゲイバーで働いてる子ですよ』
未知が早いスピードで文字を打ち返していく。
『美加に近づく人間は把握しておきたい。店はどこ?』
『ヴァレリーっていう渋いマスターのいる店です』

今までとテリトリーが違う所に飲みに行き始めたのは、『金子』と知れた途端、距離を置かれて厄介者扱いされてしまったからだろう。
その界隈は中は厳しいが優しく受け止めてはくれる。上手に遊べばホストほど金もかからない。
『美加を尾行できる?』
『俺はあまりその界隈に行ったことないから顔が割れてません。できると思います』

嫌な予感がする。その界隈は金子の名前はあまり浸透していないだろうが、酒の量が多くなった美加の体が心配だった。
ゲームに課金なんて嘘だ。この子に相当入れ込んでお金を使ったんだろう。
それで美加の精神が安定するならいいが、酒と男に依存すると安定どころか常に不安にさいなまれる。
「家にじっとしてる子なら安心なのにね」
「私のこと?」
先に届いたアイスティーを飲みながら美衣が不服そうに言う。
「何事もほどほどにね」
それができない人種のなんと多いことか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした

亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。 カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。 (悪役モブ♀が出てきます) (他サイトに2021年〜掲載済)

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

処理中です...