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メンタル~姿と心は違う
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美加は座り込んだまま、立ち上がれなかった。
警察に通報しなきゃ。
頭ではそう思うのに、体がいうことをきかない。
「お金無くしたんでしたよね美加。そこの財布から持っていきなさい」
未知はどこかに電話しながらテーブルの上にある財布を指さした。
「美衣も起きたんなら顔洗ってきなさい」
覗かれているのもわかっていた。心を病んで休養が必要な人間の前でこんな事して何を考えているんだろう。
どんな錬金術でお金を稼いでいるのか不思議だったが、こういうことだったんだ。
裕福な金持ちの家、そんな綺麗な言葉ではとても言えない。
まわりの人間は知っていた。金子家がどんな一族なのか。知らずにいたのは次女と三女という責任のない立場の人間。全ての業は、祖父から父へ、そして長女の未知に受け継がれていった。
美加が座り込んでいる玄関から、今度は作業服を着た男たちが数人部屋に入ってきて、血が飛び散ったソファを運び出した。
実の妹でもいらなければ殺す姉なんだ、そう思うと冷えた床から恐怖がわきあがってきて立ち上がれない。
「美加さん」
手を差し伸べる角川の手を思わず叩いて、美加は大声で泣き出す。
角川はそっとドアを閉じた。
「お金は湧いて出てくるわけではありません。奪うか、奪わられるか。私は奪うほうがいい」
妹たちにはそう言ったが、仕事だけが唯一愛していた父と自分を結ぶ糸だと未知は思っている。だが時代は変わり、法も変わった。闇金業者も減った今、この仕事は成り立たなくなると判断して金の融資は全部回収したら辞めるつもりでいる。
妹たちは運悪く修羅場に遭遇した。
美衣はこっそりのぞいているという後ろめたさはあったが、未知のやっている事には興味が湧いた。男が殴られて死んでいくさまを見ながら『こんな世界があるんだ』と目の覚める思いだった。
未知はもし後を継がせるなら美加のほうが向いていると思っていたが、腰を抜かして座り込んでいるのをみると、荒事は無理のようだった。
悲鳴ひとつあげず、最後まで見ていた美衣のほうが案外向いているのかもしれない。
どちらにせよ、こんな危ない仕事はもうしない。祖父と父が蓄財したものを運用するほうへ舵を切る。未知が社長をつとめる特殊清掃や所有するビルからの家賃収入など堅実な商売は通常通り。収入源は多いほうがいい。
だが仕事というものは10年もやると勝手に向こうからやってくる。
爪を研いでおくのは、やめない。
元々は個人的にビルやマンションの家賃を滞納している人に催促していたものが、気がつけば『金子に頼めば回収出来る』と噂が広まって仕方なくこなしていた仕事だ。ほとんど部下まかせだったが、悪質な人間は自分が出向いた。
その時おぼえた人を殺さず痛めつける方法が楽しくなって、またひとつ『金子は拷問好き』といらぬ噂を立てられた。
人はうるさい。勝手に噂話で盛り上がらないでほしい。
警察に通報しなきゃ。
頭ではそう思うのに、体がいうことをきかない。
「お金無くしたんでしたよね美加。そこの財布から持っていきなさい」
未知はどこかに電話しながらテーブルの上にある財布を指さした。
「美衣も起きたんなら顔洗ってきなさい」
覗かれているのもわかっていた。心を病んで休養が必要な人間の前でこんな事して何を考えているんだろう。
どんな錬金術でお金を稼いでいるのか不思議だったが、こういうことだったんだ。
裕福な金持ちの家、そんな綺麗な言葉ではとても言えない。
まわりの人間は知っていた。金子家がどんな一族なのか。知らずにいたのは次女と三女という責任のない立場の人間。全ての業は、祖父から父へ、そして長女の未知に受け継がれていった。
美加が座り込んでいる玄関から、今度は作業服を着た男たちが数人部屋に入ってきて、血が飛び散ったソファを運び出した。
実の妹でもいらなければ殺す姉なんだ、そう思うと冷えた床から恐怖がわきあがってきて立ち上がれない。
「美加さん」
手を差し伸べる角川の手を思わず叩いて、美加は大声で泣き出す。
角川はそっとドアを閉じた。
「お金は湧いて出てくるわけではありません。奪うか、奪わられるか。私は奪うほうがいい」
妹たちにはそう言ったが、仕事だけが唯一愛していた父と自分を結ぶ糸だと未知は思っている。だが時代は変わり、法も変わった。闇金業者も減った今、この仕事は成り立たなくなると判断して金の融資は全部回収したら辞めるつもりでいる。
妹たちは運悪く修羅場に遭遇した。
美衣はこっそりのぞいているという後ろめたさはあったが、未知のやっている事には興味が湧いた。男が殴られて死んでいくさまを見ながら『こんな世界があるんだ』と目の覚める思いだった。
未知はもし後を継がせるなら美加のほうが向いていると思っていたが、腰を抜かして座り込んでいるのをみると、荒事は無理のようだった。
悲鳴ひとつあげず、最後まで見ていた美衣のほうが案外向いているのかもしれない。
どちらにせよ、こんな危ない仕事はもうしない。祖父と父が蓄財したものを運用するほうへ舵を切る。未知が社長をつとめる特殊清掃や所有するビルからの家賃収入など堅実な商売は通常通り。収入源は多いほうがいい。
だが仕事というものは10年もやると勝手に向こうからやってくる。
爪を研いでおくのは、やめない。
元々は個人的にビルやマンションの家賃を滞納している人に催促していたものが、気がつけば『金子に頼めば回収出来る』と噂が広まって仕方なくこなしていた仕事だ。ほとんど部下まかせだったが、悪質な人間は自分が出向いた。
その時おぼえた人を殺さず痛めつける方法が楽しくなって、またひとつ『金子は拷問好き』といらぬ噂を立てられた。
人はうるさい。勝手に噂話で盛り上がらないでほしい。
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