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自傷~美衣の傷
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そんなの私のせいじゃないじゃん。
でもそのお金のおかげで贅沢な生活が出来る。
ただ、姉が外に出るのを極端に嫌う理由はなんとなくわかった気がする。
腑に落ちない気分のまま、妹の美衣と住むマンションまで送ってもらった。
はあ、とため息をつきながらカツカツとヒールの音を立てて廊下を進む。
「ただい…ま?」
玄関を開けると中は真っ暗だった。
足元に目を向けると靴はある。
「…!」
悪い予感がして、美加は乱暴にヒールを脱いでバスルームまで急いだ。
白いシャツに生足が出た格好で妹の美衣が立っていた。
「…美衣?」
水を流しっぱなしの洗面台で、右手に血の付いたカミソリを持っていた。
流し切れない血が、洗面所を赤く染める。
左手首に、新しい傷が出来ていた。
「何やってんの美衣!!」
カミソリを取り上げて、傷を出しっぱなしの水で流し続けた。
まだ19歳なのに姉より老けて見える。
ただその憂い顔は悲しく美しかった。
自分より繊細でいつも人の目を気にする美衣は、『金子』という呪いのせいなのか不安定だった。
「未知姉さんには…言わないで」
流れていく赤い水を見ながら美衣がぽつりとつぶやく。
「言うに決まってんでしょ。ていうかそんな目立つ所に傷があれば言わなくてもバレる」
「もうやらないって…約束…破っ…破ったら病院に閉じ込めるって…っ、イヤだもう生きていたくない…生きてなんか…」
大粒の涙を降らす妹の姿を見ながら大きく深呼吸をして、未知に連絡するためスマホを取り出した。
私のように物事をあまり深く考えず気楽に遊びほうけていたっていい身分なのに。
何がそんなに彼女を追い詰めるんだろう。これも『金子の呪い』だろうか。
連絡してすぐ未知がやってきた。
部屋着のシャツにスカート、さっきと同じ格好で未知がひとり走ってくる。
「美衣、行こう」
美加に包帯を巻いてもらった手首をそっと撫でてから未知が言うと、美衣の顔色が蒼白になった。
「いや…っ、いやだ…病院なんか行かない……っ」
「行かないから。このままじゃ美加も休めないでしょ?手当してくれた美加にお礼を言って私とおいで」
うながされて美衣は姉の後ろに隠れてぺこりと頭を下げた。
大黒柱の父を失って、姉妹で団結を強めなければならない時期だが、それが難しい。それでなくても『女』というだけで舐められるので未知は『拷問好きの恐ろしい女』という噂の鎧を着ている。
「金子も3代目で潰れるな」
部屋に戻った白銀が酒を用意している林に聞こえるような大声で言った。
身代を三代で潰すとは昔からよく言われる。しかも金子は三姉妹だ。
「そうですかねえ」
林の言い方が妙に癇に障る。
ウイスキーのロックグラスをふたつ持ってきてテーブルに置き、アイスとボトルを取りにまたダイニングに向かう。
白銀はロックを一気にあおった。
「俺はあいつら一族が目障りだ。汚い金儲けして何でも金で解決しようとする」
林が運んできたボトルを奪って、どぼどぼと酒を注いで、また一気に飲む。
ーそもそも金儲けは汚い事なんだけどな
「おい、何を考えてる」
「疲れましたね、今日は。結局家飲みですし」
ふふ、と笑って林もグラスをカラカラ回してから酒を流し込んだ。
でもそのお金のおかげで贅沢な生活が出来る。
ただ、姉が外に出るのを極端に嫌う理由はなんとなくわかった気がする。
腑に落ちない気分のまま、妹の美衣と住むマンションまで送ってもらった。
はあ、とため息をつきながらカツカツとヒールの音を立てて廊下を進む。
「ただい…ま?」
玄関を開けると中は真っ暗だった。
足元に目を向けると靴はある。
「…!」
悪い予感がして、美加は乱暴にヒールを脱いでバスルームまで急いだ。
白いシャツに生足が出た格好で妹の美衣が立っていた。
「…美衣?」
水を流しっぱなしの洗面台で、右手に血の付いたカミソリを持っていた。
流し切れない血が、洗面所を赤く染める。
左手首に、新しい傷が出来ていた。
「何やってんの美衣!!」
カミソリを取り上げて、傷を出しっぱなしの水で流し続けた。
まだ19歳なのに姉より老けて見える。
ただその憂い顔は悲しく美しかった。
自分より繊細でいつも人の目を気にする美衣は、『金子』という呪いのせいなのか不安定だった。
「未知姉さんには…言わないで」
流れていく赤い水を見ながら美衣がぽつりとつぶやく。
「言うに決まってんでしょ。ていうかそんな目立つ所に傷があれば言わなくてもバレる」
「もうやらないって…約束…破っ…破ったら病院に閉じ込めるって…っ、イヤだもう生きていたくない…生きてなんか…」
大粒の涙を降らす妹の姿を見ながら大きく深呼吸をして、未知に連絡するためスマホを取り出した。
私のように物事をあまり深く考えず気楽に遊びほうけていたっていい身分なのに。
何がそんなに彼女を追い詰めるんだろう。これも『金子の呪い』だろうか。
連絡してすぐ未知がやってきた。
部屋着のシャツにスカート、さっきと同じ格好で未知がひとり走ってくる。
「美衣、行こう」
美加に包帯を巻いてもらった手首をそっと撫でてから未知が言うと、美衣の顔色が蒼白になった。
「いや…っ、いやだ…病院なんか行かない……っ」
「行かないから。このままじゃ美加も休めないでしょ?手当してくれた美加にお礼を言って私とおいで」
うながされて美衣は姉の後ろに隠れてぺこりと頭を下げた。
大黒柱の父を失って、姉妹で団結を強めなければならない時期だが、それが難しい。それでなくても『女』というだけで舐められるので未知は『拷問好きの恐ろしい女』という噂の鎧を着ている。
「金子も3代目で潰れるな」
部屋に戻った白銀が酒を用意している林に聞こえるような大声で言った。
身代を三代で潰すとは昔からよく言われる。しかも金子は三姉妹だ。
「そうですかねえ」
林の言い方が妙に癇に障る。
ウイスキーのロックグラスをふたつ持ってきてテーブルに置き、アイスとボトルを取りにまたダイニングに向かう。
白銀はロックを一気にあおった。
「俺はあいつら一族が目障りだ。汚い金儲けして何でも金で解決しようとする」
林が運んできたボトルを奪って、どぼどぼと酒を注いで、また一気に飲む。
ーそもそも金儲けは汚い事なんだけどな
「おい、何を考えてる」
「疲れましたね、今日は。結局家飲みですし」
ふふ、と笑って林もグラスをカラカラ回してから酒を流し込んだ。
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