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連絡
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うわあ。こんな短くしたの中学生以来だな…。
鏡に写る自分を見て佐伯はなんとも言えない顔になった。この状態のまま高校に行けば長谷川たちに目をつけられなかったかもなあ。でも思春期でいろいろ考えもあった年だったし。
「そんなにおかしくないと思うけど?」
じーっと鏡を見て動かない佐伯にバリカンを握っている西田が声をかけた。
「髪型だけでだいぶ雰囲気変わるねえ」
「他人事だと思って…」
「俺は営業職だから髪型は冒険できないからなあ。羨ましいよ」
「じゃあ退職したら坊主にしてやる。楽しみに待ってろよ」
苦笑いしながら佐伯が呟いたときスマホが鳴った。
画面に表示される「後藤」という文字。
出るかどうか一瞬迷ったが、逃げても意味はないと思って通話にした。
『よ、元気かい?』
以前と変わらない、明るい声が聞こえた。
「お久しぶりです」
もう娑婆に出てきたのか。姿が消えてから何の情報もなかったので突然の電話の意味がわからない。
『もう少し早く連絡しようと思ってたんだけどさ、いろいろ忙しくて時間なかった。オレ政治家でもないのに陳情ばっかり言いに来やがるから自由時間がない』
これは何の言い訳なのか、話の長い後藤の相手をこの状態でするのはつらい。
Tシャツに下着姿で新聞紙の上に座っている。後でかけなおそうか。とりあえずシャワー浴びたい。
肩につく短い髪を払いながら次の言葉を待った。
「今どこにいるんですか?」
『え?ずっと自分のマンションに引きこもってたよ』
「逮捕されたんじゃないんですか?」
『されたけどすぐ釈放。事情聴取受けただけだし。ちょっと姿を消すとすぐ逮捕されたとか噂になるんだからなあ、つらい』
前置きが長いので上の空で受け流す。Tシャツの中に入り込んだ髪がうっとおしい。早くシャワー浴びたい。
「後藤さん、すぐ折り返すんでいったん切っていいですか?」
背中の不快感が限界にきたので思い切って言ってみた。
『あ、忙しかった?ごめん』
「写メ送ります。すぐかけ直すんで一瞬時間下さい」
佐伯は通話を切って自分の顔を自撮りした。写真写りなんかどうでもいい。坊主頭の写真と、『シャワー浴びたい』と短いメッセージを送って立ち上がった。
一連の動きを西田が不思議そうに見ていたがかまわずシャワーを浴びる。体中に散る短い髪を流し落としてから部屋に戻ると、西田が敷いていた新聞紙をかき集めて折りたたみ、紙袋に入れていた。
「さっきの相手、誰?」
「後藤さん」
答えながらLINE通話をかけると、笑いをこらえている後藤とすぐつながった。
『いいね、短いのも似合ってるよ』
こんなわかりやすい社交辞令もあるもんだと思いながら、佐伯はわざわざ電話をかけてきた話の中身を知りたくて髪の話はスルーした。
「で、何の話ですか?」
『あら冷たい。新生活はどう?順調?』
「ぼちぼちですよ。ホントは地元離れたかったんですが部屋借りてもらったばかりだから違約金払わなくていい期間までじっとしてます。そちらのほうが詳しいんじゃないんですか?人さらいの話聞いたんですけど」
『ああ…、あと数時間早く連絡してあげればよかったな。その件は解決した』
「まじすか……」
佐伯はがっくりと肩を落とす。そうだよもう少し早く連絡くれれば坊主にならなくてよかったのに。こんな時に限って何でだよ。
それよりも後藤が動いたとたん問題のひとつが解決するとは。この男ひとりどこまで顔がきくのか。
『誰かから美少年狩りの噂を聞いたんだろう?張本人と話はつけたからもう安全だ。外出しても大丈夫だ』
犯人と知り合いなのか。蛇の道は蛇というが、それを利用して警察は後藤を泳がせている。正式に捜査となると時間がかかるから都合よく後藤のような人間を使う。悪い慣習で、後藤はその役目を辞めたいようだったがなかなか難しそうだ。
『ただ不良のガキどもには少し警戒したほうがいい。誰かさんがそいつらを組織化して密売ルート作ってしまった。これから潰していくが下手にカネ持ったらどうなるか。調子こいてしばらくは騒がしくなるぞ。巻き込まれないようにな』
後藤の後ろから「誰かさんて誰の事だよ!」と非難の声が聞こえた。そこに主犯がいるのか。どんな状況?
『ごめんごめん。名前出すわけにもいかないだろう?痛い痛いちょっと待て。…そういうわけなんで警戒を解いても大丈夫だ』
「はあ」
『その風貌だとヤンキーに絡まれそうだもんな。あはは、ごめん。心の声が出た』
プチ、佐伯は通話を切った。
「後藤さんだろ?何だって?」
静かに聞き耳を立てていた西田が声をかけてきた。
「なんか、だいたいの問題は大丈夫になったって」
「さすが後藤さん。仕事が早い」
「刑務所に行ったと思ってたけど違うの?」
「逮捕されただけだよ。死体遺棄で引っぱられたけど殺したわけじゃないし、事情聴取されて釈放だろう。そのまま地下に潜って前からやろうとしてた事業計画を進めてたんじゃないかな。そうしたら清水組が進出してきたから追い出せって言われたんじゃない?警察も無茶振りするよね」
でも実際その通りになった。後藤が大丈夫というのなら解決したんだろう。
だが佐伯はどうも腑に落ちない。
何かがまだ自分に向いている。人の敵意。憎悪。そんな感情。
「佐伯君?」
「まだ危ないと思う」
掃除機をかけている西田を横目に見ながら佐伯はいろんな考えをめぐらせた。
それにしても後藤はしきりに謝ってたな。あの後藤が頭が上がらない人間ってどんな奴だろう。少しだけ興味が湧いたがこれ以上反社に知り合いが出来ても人生のマイナスにしかならないのでこの件は忘れることにした。
鏡に写る自分を見て佐伯はなんとも言えない顔になった。この状態のまま高校に行けば長谷川たちに目をつけられなかったかもなあ。でも思春期でいろいろ考えもあった年だったし。
「そんなにおかしくないと思うけど?」
じーっと鏡を見て動かない佐伯にバリカンを握っている西田が声をかけた。
「髪型だけでだいぶ雰囲気変わるねえ」
「他人事だと思って…」
「俺は営業職だから髪型は冒険できないからなあ。羨ましいよ」
「じゃあ退職したら坊主にしてやる。楽しみに待ってろよ」
苦笑いしながら佐伯が呟いたときスマホが鳴った。
画面に表示される「後藤」という文字。
出るかどうか一瞬迷ったが、逃げても意味はないと思って通話にした。
『よ、元気かい?』
以前と変わらない、明るい声が聞こえた。
「お久しぶりです」
もう娑婆に出てきたのか。姿が消えてから何の情報もなかったので突然の電話の意味がわからない。
『もう少し早く連絡しようと思ってたんだけどさ、いろいろ忙しくて時間なかった。オレ政治家でもないのに陳情ばっかり言いに来やがるから自由時間がない』
これは何の言い訳なのか、話の長い後藤の相手をこの状態でするのはつらい。
Tシャツに下着姿で新聞紙の上に座っている。後でかけなおそうか。とりあえずシャワー浴びたい。
肩につく短い髪を払いながら次の言葉を待った。
「今どこにいるんですか?」
『え?ずっと自分のマンションに引きこもってたよ』
「逮捕されたんじゃないんですか?」
『されたけどすぐ釈放。事情聴取受けただけだし。ちょっと姿を消すとすぐ逮捕されたとか噂になるんだからなあ、つらい』
前置きが長いので上の空で受け流す。Tシャツの中に入り込んだ髪がうっとおしい。早くシャワー浴びたい。
「後藤さん、すぐ折り返すんでいったん切っていいですか?」
背中の不快感が限界にきたので思い切って言ってみた。
『あ、忙しかった?ごめん』
「写メ送ります。すぐかけ直すんで一瞬時間下さい」
佐伯は通話を切って自分の顔を自撮りした。写真写りなんかどうでもいい。坊主頭の写真と、『シャワー浴びたい』と短いメッセージを送って立ち上がった。
一連の動きを西田が不思議そうに見ていたがかまわずシャワーを浴びる。体中に散る短い髪を流し落としてから部屋に戻ると、西田が敷いていた新聞紙をかき集めて折りたたみ、紙袋に入れていた。
「さっきの相手、誰?」
「後藤さん」
答えながらLINE通話をかけると、笑いをこらえている後藤とすぐつながった。
『いいね、短いのも似合ってるよ』
こんなわかりやすい社交辞令もあるもんだと思いながら、佐伯はわざわざ電話をかけてきた話の中身を知りたくて髪の話はスルーした。
「で、何の話ですか?」
『あら冷たい。新生活はどう?順調?』
「ぼちぼちですよ。ホントは地元離れたかったんですが部屋借りてもらったばかりだから違約金払わなくていい期間までじっとしてます。そちらのほうが詳しいんじゃないんですか?人さらいの話聞いたんですけど」
『ああ…、あと数時間早く連絡してあげればよかったな。その件は解決した』
「まじすか……」
佐伯はがっくりと肩を落とす。そうだよもう少し早く連絡くれれば坊主にならなくてよかったのに。こんな時に限って何でだよ。
それよりも後藤が動いたとたん問題のひとつが解決するとは。この男ひとりどこまで顔がきくのか。
『誰かから美少年狩りの噂を聞いたんだろう?張本人と話はつけたからもう安全だ。外出しても大丈夫だ』
犯人と知り合いなのか。蛇の道は蛇というが、それを利用して警察は後藤を泳がせている。正式に捜査となると時間がかかるから都合よく後藤のような人間を使う。悪い慣習で、後藤はその役目を辞めたいようだったがなかなか難しそうだ。
『ただ不良のガキどもには少し警戒したほうがいい。誰かさんがそいつらを組織化して密売ルート作ってしまった。これから潰していくが下手にカネ持ったらどうなるか。調子こいてしばらくは騒がしくなるぞ。巻き込まれないようにな』
後藤の後ろから「誰かさんて誰の事だよ!」と非難の声が聞こえた。そこに主犯がいるのか。どんな状況?
『ごめんごめん。名前出すわけにもいかないだろう?痛い痛いちょっと待て。…そういうわけなんで警戒を解いても大丈夫だ』
「はあ」
『その風貌だとヤンキーに絡まれそうだもんな。あはは、ごめん。心の声が出た』
プチ、佐伯は通話を切った。
「後藤さんだろ?何だって?」
静かに聞き耳を立てていた西田が声をかけてきた。
「なんか、だいたいの問題は大丈夫になったって」
「さすが後藤さん。仕事が早い」
「刑務所に行ったと思ってたけど違うの?」
「逮捕されただけだよ。死体遺棄で引っぱられたけど殺したわけじゃないし、事情聴取されて釈放だろう。そのまま地下に潜って前からやろうとしてた事業計画を進めてたんじゃないかな。そうしたら清水組が進出してきたから追い出せって言われたんじゃない?警察も無茶振りするよね」
でも実際その通りになった。後藤が大丈夫というのなら解決したんだろう。
だが佐伯はどうも腑に落ちない。
何かがまだ自分に向いている。人の敵意。憎悪。そんな感情。
「佐伯君?」
「まだ危ないと思う」
掃除機をかけている西田を横目に見ながら佐伯はいろんな考えをめぐらせた。
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