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クスリ
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人は変わるんだな。
佐伯は自嘲的に思う。
高校時代に散々他人の体を弄んで非道の限りを尽くした長谷川数博は、今は有能な経営者になってかつての被害者である自分を拾った。
いつか復讐してやるという思いを胸に近づいたが、佐伯はその下で働いている。
その状況は変わらないものだと思いこんでいた。
「まあ、人生そんなもんだ」
後藤に呼び出されて渋々向かった彼のマンションで佐伯は嫌な事を言われる。
グラスに注がれた目の前のビールにどんどん水滴がついていく。
店に向かう予定だった佐伯は暑さの中スーツ姿だった。後藤は部屋着なのか黒いTシャツに前も見たことがある黒いジャージを履いていた。
「水森が店を閉めたんでそこを足がかりに進出しようとしていた清水組のチンピラの計画は頓挫した。俺的にはいい状態になったけど、新しい商工会会長は完全に反社を排除するつもりで警察と話をし始めた。俺も儲からない仕事はやめようと思ってる」
愚痴を聞かされるために呼び出されたのか、そんな話に興味はない。
関心無さげにソファに座っている佐伯を見て、後藤の片眉がぴくっと動いた。
「佐伯くんもそろそろ決めたら?」
「何をですか?」
「長谷川を潰すか、あきらめるか」
「……」
「やるならそれを最後の仕事にして俺は撤退する」
「手伝ってくれとは言ってませんが」
酒を飲まない後藤は麦茶を飲んでいる。
男でも胸が鳴るくらい顔の整った美貌の持ち主は、佐伯の本心を見抜くためかじっと顔を見ている。後ろめたさでその視線を合わすことが出来ない。
「土屋透くんだっけ。長谷川の新しい相手。そのうち君捨てられるよ。そうなった時どうするの」
「……」
「黒部くんだって困るだろう?」
「…彼は優秀です。どこにいっても大丈夫でしょう」
「でも使いにくいからな。またどこも雇ってくれなくて途方に暮れるんじゃないか?」
どこから情報を仕入れてくるんだろう。後藤はやけに詳しい。
執拗にけしかけてくる後藤の真意もよくわからない。
「佐伯くんの心の病は重症だね」
「心の病ですか?俺が?」
「自分を弄んで、今も利用されているのに長谷川に従順な精神ははたから見てればおかしい」
そんな事は自分が一番よくわかっている。
「長谷川は君が思っている以上に狡猾だぞ」
そう言ってスマホを操作して動画を再生した。
『お前は誰のものだ?』
『…長谷川…さん…』
目の前に突きつけられた画面に佐伯は目を見開いたまま固まる。
写る自分は長谷川に抱かれながら従順な言葉を発していた。
「この画像は関係者に拡散されてる。君が歯向かえばこの画像で脅してくるだろうな」
動けない佐伯の目の前で後藤は画像を消す。
「だから早く始末しておけばよかったのに。奴が君を束縛しているのは過去の悪行をバラされたくないだけだ。一番の敵は手元に置いておくのが定石。別に君の事を想ってそばに置いているわけじゃない。今頃土屋くんとこの画像見て楽しんでいるかもな」
わずかな期待も、後藤はどんどん突破して壊していく。
「全てを捨ててすぐ撤退するのが一番よかった。水森のようにな」
後藤に負けない美貌を持った水森の姿が脳裏をよぎる。
「佐伯くんとの違いはあいつは小泉翔を愛してしまった事かな。自分でも気持ちが理解できなかっただろう。俺が心の病と言ったのはそういう事だよ」
相変わらず後藤の話は長い。
「そろそろ決断したほうがいい。割り切って長谷川の元にいるか、潰しにかかるか」
「後藤さんには関係ないと思いますけど…」
「うん。状況的には関係ない」
「じゃあどうしてそんな事言うんですか」
「俺の所においで」
佐伯は突然の展開にどう返していいかわからなかった。
喉が乾いてぬるくなったビールを一気に飲む。
「いつ来るか待ってたんだけど全然振り向いてくれないから直接言ってみたんだけど、俺に興味なさそうだね。長谷川よりルックスいいと思ってたけど佐伯くんてイケメン嫌いなの?同じ状況で俺だったら水森に行くな。あいつカッコいいし。そんなに長谷川と体の相性いいの?」
答えにくい事を一気に話してくる。
空腹にアルコールを流したせいか頭がふわふわする。
「そんなの…、あなたに言わないとダメなんですか…」
「気になるね。どうして長谷川のそばにいるのか」
どうして戻ってしまったんだろう。
もう自分の心がわからない。
「認めてしまえば?気持ちいいんですって」
「そんなことっ…、なんで……」
もう付き合っていられない。佐伯が立ち上がろうとすると視界が歪んで体に力が入らなかった。
「長谷川より気持ちいいモノがあったらどうなるか、試してみたい」
ソファに力なく倒れた佐伯のジャケットを脱がす笑顔の後藤がいる。
「あ…」
服がこすれただけで声が出た。
「気がついた?」
後藤の舌が首筋を滑る。それだけで声が漏れた。
「この味を覚えたら普通のセックスじゃ物足らないぜ」
何を言っているんだろう。頭がぼんやりしてよくわからない。
かすれた視界で後藤が何か錠剤を飲んでいる姿が見える。
「佐伯くんにだけ飲ませたらフェアじゃないから俺も同じ条件で」
佐伯の体にのしかかって後藤も自分の服を脱いでいく。
「…なに…が?」
「気持ちよくなるクスリ」
悪い顔で笑う後藤に反抗する力はもうなかった。
クッションに顔を深くうずめて、ただ与えられる刺激に本能が反応する。軽く触れられるだけで体が過敏に反応して弓なりに跳ねた。
「俺の所に来い」
耳元で囁かれる言葉が脳に染み込んでいく。
「…はや…く……」
刺激が欲しい穴に先端を押し付けられたまま後藤の体に足を絡めた。
「どうして欲しい?」
「早く…欲しい……入れて…」
「おねだりしてごらん?俺の穴に後藤さんのを入れてくださいって」
「…い……やだ…」
「いらないならやめようか。でも長谷川の所に行っても新しい男がいるから相手にされないぞ」
逃げ道をふさいで少しずつ追いつめてくる後藤に逆らい続ける理性はもう残っていなかった。
佐伯は自嘲的に思う。
高校時代に散々他人の体を弄んで非道の限りを尽くした長谷川数博は、今は有能な経営者になってかつての被害者である自分を拾った。
いつか復讐してやるという思いを胸に近づいたが、佐伯はその下で働いている。
その状況は変わらないものだと思いこんでいた。
「まあ、人生そんなもんだ」
後藤に呼び出されて渋々向かった彼のマンションで佐伯は嫌な事を言われる。
グラスに注がれた目の前のビールにどんどん水滴がついていく。
店に向かう予定だった佐伯は暑さの中スーツ姿だった。後藤は部屋着なのか黒いTシャツに前も見たことがある黒いジャージを履いていた。
「水森が店を閉めたんでそこを足がかりに進出しようとしていた清水組のチンピラの計画は頓挫した。俺的にはいい状態になったけど、新しい商工会会長は完全に反社を排除するつもりで警察と話をし始めた。俺も儲からない仕事はやめようと思ってる」
愚痴を聞かされるために呼び出されたのか、そんな話に興味はない。
関心無さげにソファに座っている佐伯を見て、後藤の片眉がぴくっと動いた。
「佐伯くんもそろそろ決めたら?」
「何をですか?」
「長谷川を潰すか、あきらめるか」
「……」
「やるならそれを最後の仕事にして俺は撤退する」
「手伝ってくれとは言ってませんが」
酒を飲まない後藤は麦茶を飲んでいる。
男でも胸が鳴るくらい顔の整った美貌の持ち主は、佐伯の本心を見抜くためかじっと顔を見ている。後ろめたさでその視線を合わすことが出来ない。
「土屋透くんだっけ。長谷川の新しい相手。そのうち君捨てられるよ。そうなった時どうするの」
「……」
「黒部くんだって困るだろう?」
「…彼は優秀です。どこにいっても大丈夫でしょう」
「でも使いにくいからな。またどこも雇ってくれなくて途方に暮れるんじゃないか?」
どこから情報を仕入れてくるんだろう。後藤はやけに詳しい。
執拗にけしかけてくる後藤の真意もよくわからない。
「佐伯くんの心の病は重症だね」
「心の病ですか?俺が?」
「自分を弄んで、今も利用されているのに長谷川に従順な精神ははたから見てればおかしい」
そんな事は自分が一番よくわかっている。
「長谷川は君が思っている以上に狡猾だぞ」
そう言ってスマホを操作して動画を再生した。
『お前は誰のものだ?』
『…長谷川…さん…』
目の前に突きつけられた画面に佐伯は目を見開いたまま固まる。
写る自分は長谷川に抱かれながら従順な言葉を発していた。
「この画像は関係者に拡散されてる。君が歯向かえばこの画像で脅してくるだろうな」
動けない佐伯の目の前で後藤は画像を消す。
「だから早く始末しておけばよかったのに。奴が君を束縛しているのは過去の悪行をバラされたくないだけだ。一番の敵は手元に置いておくのが定石。別に君の事を想ってそばに置いているわけじゃない。今頃土屋くんとこの画像見て楽しんでいるかもな」
わずかな期待も、後藤はどんどん突破して壊していく。
「全てを捨ててすぐ撤退するのが一番よかった。水森のようにな」
後藤に負けない美貌を持った水森の姿が脳裏をよぎる。
「佐伯くんとの違いはあいつは小泉翔を愛してしまった事かな。自分でも気持ちが理解できなかっただろう。俺が心の病と言ったのはそういう事だよ」
相変わらず後藤の話は長い。
「そろそろ決断したほうがいい。割り切って長谷川の元にいるか、潰しにかかるか」
「後藤さんには関係ないと思いますけど…」
「うん。状況的には関係ない」
「じゃあどうしてそんな事言うんですか」
「俺の所においで」
佐伯は突然の展開にどう返していいかわからなかった。
喉が乾いてぬるくなったビールを一気に飲む。
「いつ来るか待ってたんだけど全然振り向いてくれないから直接言ってみたんだけど、俺に興味なさそうだね。長谷川よりルックスいいと思ってたけど佐伯くんてイケメン嫌いなの?同じ状況で俺だったら水森に行くな。あいつカッコいいし。そんなに長谷川と体の相性いいの?」
答えにくい事を一気に話してくる。
空腹にアルコールを流したせいか頭がふわふわする。
「そんなの…、あなたに言わないとダメなんですか…」
「気になるね。どうして長谷川のそばにいるのか」
どうして戻ってしまったんだろう。
もう自分の心がわからない。
「認めてしまえば?気持ちいいんですって」
「そんなことっ…、なんで……」
もう付き合っていられない。佐伯が立ち上がろうとすると視界が歪んで体に力が入らなかった。
「長谷川より気持ちいいモノがあったらどうなるか、試してみたい」
ソファに力なく倒れた佐伯のジャケットを脱がす笑顔の後藤がいる。
「あ…」
服がこすれただけで声が出た。
「気がついた?」
後藤の舌が首筋を滑る。それだけで声が漏れた。
「この味を覚えたら普通のセックスじゃ物足らないぜ」
何を言っているんだろう。頭がぼんやりしてよくわからない。
かすれた視界で後藤が何か錠剤を飲んでいる姿が見える。
「佐伯くんにだけ飲ませたらフェアじゃないから俺も同じ条件で」
佐伯の体にのしかかって後藤も自分の服を脱いでいく。
「…なに…が?」
「気持ちよくなるクスリ」
悪い顔で笑う後藤に反抗する力はもうなかった。
クッションに顔を深くうずめて、ただ与えられる刺激に本能が反応する。軽く触れられるだけで体が過敏に反応して弓なりに跳ねた。
「俺の所に来い」
耳元で囁かれる言葉が脳に染み込んでいく。
「…はや…く……」
刺激が欲しい穴に先端を押し付けられたまま後藤の体に足を絡めた。
「どうして欲しい?」
「早く…欲しい……入れて…」
「おねだりしてごらん?俺の穴に後藤さんのを入れてくださいって」
「…い……やだ…」
「いらないならやめようか。でも長谷川の所に行っても新しい男がいるから相手にされないぞ」
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