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「翔子」

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長谷川が見ても気がつかないものだな。
女と腕を組んで歩きながら水森はため息をつく。

「私なんか間違えた?」
水森の腕に絡みついている女性が上目使いで不安そうに聞いてくる。
「よくやった翔子、ありがとう。喪服も似合ってるね」
明るめに染めたブラウンの髪を撫でられて「翔子」はふわりと笑った。

小泉翔。
それが「彼女」の本名。
高校1年の時、オモチャにしていた同級生だった。
溜まり場だった旧生徒会室に連れ込んで輪姦を繰り返していた。気の強い眼で睨んでなかなか堕ちない男を弄ぶのが楽しくて毎日のように犯す。
「かわいいねえ翔子チャン」
「ほら、可愛い声出してよ」

翔は痛い、やめろ、お前ら殺してやるとずっと叫んでいた。
ずっと翔子チャンと呼んで女のような扱いをしていた。プライドの高い男がこんな屈辱を長期間受けるのは耐えられなかったのだろう。
ある日、いつものように最後に長谷川が犯してずるりと中から引き抜いた。
「いい子だねえ翔子チャン」
それは何気ないひとことだった。

デスクに仰向けに寝転んで脱力している顔がいつもと違う。最初に気がついたのは水森だった。
「…翔子…、うれしい。女の子になった……」
うっとりした顔で翔が呟く。
「はいはい、可愛いね翔子チャン」
めんどくさそうに長谷川が答えるが、翔の様子がおかしいと全員が気がつくのに時間はかからなかった。

「うふふ…翔子…おんなのこ……ふふ…うれしい…」
「なんだこいつ」
誰だったか顔面蒼白で後ずさる。
「やりすぎて頭おかしくなったのか」
気味が悪くなった全員が、翔を教室から放り出して逃げ出した。

『女の子の翔子』という別人格を作って小泉はかろうじて自分を守ったのだと水森は推測した。
病院でも『自分は女の子』と主張して男であることを否定し続け、退院後なぜか水森の前に姿を現した。
だから佐伯が戻ってきた時あまり驚かなかったが、状況は全くちがう。

「センパイ!お久しぶりです」
腰のあたりまで髪が伸びてかわいらしいフリルのついたワンピースに、慣れないヒールを履いてふらつきながら家の前に立っていた。
「可愛いね、翔子ちゃん」
自分に可愛いと言ってもらいたくて精一杯おしゃれしたと理解して、かけて欲しい言葉を言ってやると翔子はうれしそうに笑ってその場でピョンピョン飛び跳ねた。
「危ない!」
無理して履いていたヒールでこけて水森が抱きとめる。
卒業間際のことだった。

「センパイ」
あの時と同じ瞳で翔子は水森を見ている。
就職後実家を出て当時つきあっていた女性と結婚したが、翔子には部屋を借りて生活の面倒を見ていた。
自分たちの悪行がバレないように。
「翔子にはセンパイしかいないの…」
口調も幼くなり水森に甘える姿に欲情して服を脱がすと、身体は男のままだった。
頭の中だけに存在する『翔子』。

自分の身辺に違和感を感じ始めた時、翔子を駒に使おうと思いついた。
高校時代つるんでいた連中が次々に消えていく。最初は偶然だと思ったが、偶然起きた事をこじ開けて炎上させている人間がいる。
それは佐伯が戻ってきたタイミングと一致していた。
人目のつく所にわざと翔子と出かけて相手の出方を待つ。

部屋に戻ると翔子が腕をまわして抱きついてきた。
「センパイ、疲れた」
前よりは砕けた感じになったが自分を求めてくる関係は変わらない。
「そうだな。いい子にしてたご褒美」
チークを薄めにぬった頬にキスをすると翔子は目を閉じて力を抜いた。

何度もフレンチキスをしながらベッドまで移動して翔子を押し倒す。喪服姿が非日常を演出して水森は喉を鳴らして黒いストッキングを必要な部分だけ破いた。
「…えっ?」
さすがに翔子も予想外の行動に驚いたが、白い下着から飛び出している男性器を握られると力なくベッドに沈む。
「かわいいなあ翔子は」
「あん…っ、恥ずかしい…」

外から入るわずかな月明かりがふたりを照らす。
慌ただしく部屋に入って照明もつけず翔子の体を貪る。自分でも予想外に翔子に溺れていることを否定できなかった。
「も…我慢できな…、センパイ……」
「どうして欲しいの?翔子」
「……入れて」
消え入るようなか細い声で翔子は呟いた。

「かわいいな翔子は」
ストッキングを履いたままの太ももを持ち上げて足を大きく開かせると、翔子の顔が羞恥で赤く染まる。
「今さら恥ずかしい事ないだろ」
「だって…ああん…!」
破いた箇所の下着をずらして水森は自分の杭を打ち込んだ。

存在しないはずの女性器を妄想で作り出して、そこを突かれている錯覚に翔子は悦びの声を上げる。
水森の肩の上で足がゆらゆら揺れて、長い髪を乱しながら淫らに水森を求める姿は女にしか見えない。
「あ…センパイ…のが、入って…ああ…ん……」
「入って、なに?」
「…気持ちいい…」
「愛してるよ翔子」
俺を監視している奴、今の俺達を見ろ。
盗聴でもいい。盗撮上等だ。

「や!…ああん…!センパ…イ…っ!!」
俺達の哀れな性被害者が俺を求めて狂っている。
「センパ…だめ…イッちゃう…、イッちゃ…」
がくがくと体を痙攣させて翔子が絶頂に達しそうな時、水森は動きを止めた。
「やだあ…」
「俺のこと好き?」
綺麗な顔を歪めて水森は意地悪な質問をする。
「…好き…」
「どんな所が?」

翔子の瞳から涙が溢れ出す。
「…全部…好き……」
馬鹿な人形!
「…あんっ!!」
蔑すんだ思いの水森に突き上げられて翔子は今度こそ白い液体で喪服のスカートを汚した。

「ぁ…ぁ……」
呼吸が整わない翔子が荒い息をしている。
「かわいいよ翔子」
馬鹿な人形だよ翔。お前が翔子だと思い込み続けるように飼っているだけだ。
愛してる翔子。
いつも簡単に口にする言葉が、その時は喉につまって出てこなかった。





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