13 / 19
第3話 ジル・ドレ
悪夢
しおりを挟む
静かな夜に領主さまの悲鳴が響く。
しばらく聞き耳を立てていたが、終わりそうにない悪夢を断ち切るため、僕は領主さまの寝室へ急いだ。
そっとドアを開けるとベッドに膝立ちで天に手を伸ばし、救いを求める叫びをあげていた。
「神よ!なぜあなたの声が聞こえると言った少女を見殺しにしたのですか!!彼女はあなたを信じて、民衆を救うために立ち上がった敬虔な信者だった!それを殺したのはなぜですか。殉死させて、それで民衆が救われるのですか!!宮廷の争いに利用されただけ…戦い…彼女の…救いは…救いは……神は……」
最後のほうは聞き取れなかった。
「……悪魔よ」
ドアを閉め切る前のわずかな隙間から、領主さまのつぶやきが聞こえた。
暗くてよく見えなかったが、目が闇に慣れてくるとベッドにはぐったりしている少年が寝かされていた。
「悪魔よ!汚れなき命を捧げる!!彼女を死に追いやった全ての人間を殺せ!!」
両手で握られた短刀が振り下ろされる。
それは一瞬のことだった。
もう終わりだ。
フランスを救った少女の死が、領主さまを完全に壊してしまった。
敵の捕虜になった彼女を、王が積極的に救出する交渉をしなかったことも、領主さまの人間性を狂わせた。
いままでは勇敢で尊敬される領主さまだったのに、それが今や悪魔を信仰するまでになった。
でも悪魔も、願いは叶えてくれないと思う。
僕は信仰心が薄い。だから教会にも滅多にいかない。領主さまの名代でアメリーと一緒にしぶしぶ足を運ぶ程度だ。
石で囲まれた地下室は掃除が楽だったが、ベッドとなると話が違ってくる。流れた血はシーツから下に染みていく。
この城に移ってからベッドで少年を犯した後、残虐にいたぶって楽しんでから殺すようになっていった。
断崖絶壁の上に建つ要塞のような城。城に招かれた少年が帰ってこないと噂になっていた。
決定的な証拠は崖から捨てていた少年の死体を、偶然通りかかった村人が見つけて大騒ぎになり、それが王の耳に入ったらしい。
「何故だ!あれだけ供物を捧げたのにお前たちも俺を救ってはくれないのか!!」
『お前たち』というのは悪魔のことなんだろうか。今はそうとしか考えられない。
王命で自分を逮捕するための兵がこちらに向かっている事をアメリーから聞くと領主さまは怒り狂った。
「アメリー」
少しして、冷静になった領主さまは静かに言う。
「はい」
「エリックを連れて早くここから逃げろ」
「……」
「地獄の沙汰も金次第さ」
僕は領主さまに別れの挨拶をすることも出来ないまま、馬を駆るアメリーの後ろに乗せられて数人の従者とともに逃走用の裏道を駆け下りた。
「大丈夫よ。城のひとつでも売って金を握らせればうやむやになるわ。犠牲者はただの庶民、貴族が本気になるわけないでしょ」
本当にそうだろうか。
悪魔崇拝がバレたら火あぶりの刑が待っている。領主さまが全てを捧げたオルレアンの少女と同じように。
僕は祈るしかなかった。神でも悪魔でもない、運命という見えないなにかに。
しばらく聞き耳を立てていたが、終わりそうにない悪夢を断ち切るため、僕は領主さまの寝室へ急いだ。
そっとドアを開けるとベッドに膝立ちで天に手を伸ばし、救いを求める叫びをあげていた。
「神よ!なぜあなたの声が聞こえると言った少女を見殺しにしたのですか!!彼女はあなたを信じて、民衆を救うために立ち上がった敬虔な信者だった!それを殺したのはなぜですか。殉死させて、それで民衆が救われるのですか!!宮廷の争いに利用されただけ…戦い…彼女の…救いは…救いは……神は……」
最後のほうは聞き取れなかった。
「……悪魔よ」
ドアを閉め切る前のわずかな隙間から、領主さまのつぶやきが聞こえた。
暗くてよく見えなかったが、目が闇に慣れてくるとベッドにはぐったりしている少年が寝かされていた。
「悪魔よ!汚れなき命を捧げる!!彼女を死に追いやった全ての人間を殺せ!!」
両手で握られた短刀が振り下ろされる。
それは一瞬のことだった。
もう終わりだ。
フランスを救った少女の死が、領主さまを完全に壊してしまった。
敵の捕虜になった彼女を、王が積極的に救出する交渉をしなかったことも、領主さまの人間性を狂わせた。
いままでは勇敢で尊敬される領主さまだったのに、それが今や悪魔を信仰するまでになった。
でも悪魔も、願いは叶えてくれないと思う。
僕は信仰心が薄い。だから教会にも滅多にいかない。領主さまの名代でアメリーと一緒にしぶしぶ足を運ぶ程度だ。
石で囲まれた地下室は掃除が楽だったが、ベッドとなると話が違ってくる。流れた血はシーツから下に染みていく。
この城に移ってからベッドで少年を犯した後、残虐にいたぶって楽しんでから殺すようになっていった。
断崖絶壁の上に建つ要塞のような城。城に招かれた少年が帰ってこないと噂になっていた。
決定的な証拠は崖から捨てていた少年の死体を、偶然通りかかった村人が見つけて大騒ぎになり、それが王の耳に入ったらしい。
「何故だ!あれだけ供物を捧げたのにお前たちも俺を救ってはくれないのか!!」
『お前たち』というのは悪魔のことなんだろうか。今はそうとしか考えられない。
王命で自分を逮捕するための兵がこちらに向かっている事をアメリーから聞くと領主さまは怒り狂った。
「アメリー」
少しして、冷静になった領主さまは静かに言う。
「はい」
「エリックを連れて早くここから逃げろ」
「……」
「地獄の沙汰も金次第さ」
僕は領主さまに別れの挨拶をすることも出来ないまま、馬を駆るアメリーの後ろに乗せられて数人の従者とともに逃走用の裏道を駆け下りた。
「大丈夫よ。城のひとつでも売って金を握らせればうやむやになるわ。犠牲者はただの庶民、貴族が本気になるわけないでしょ」
本当にそうだろうか。
悪魔崇拝がバレたら火あぶりの刑が待っている。領主さまが全てを捧げたオルレアンの少女と同じように。
僕は祈るしかなかった。神でも悪魔でもない、運命という見えないなにかに。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
性的イジメ
ポコたん
BL
この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。
作品説明:いじめの性的部分を取り上げて現代風にアレンジして作成。
全二話 毎週日曜日正午にUPされます。
ぼくに毛が生えた
理科準備室
BL
昭和の小学生の男の子の「ぼく」はクラスで一番背が高くて5年生になったとたんに第二次性徴としてちんちんに毛が生えたり声変わりしたりと身体にいろいろな変化がおきます。それでクラスの子たちにからかわれてがっかりした「ぼく」は学校で偶然一年生の男の子がうんこしているのを目撃し、ちょっとアブノーマルな世界の性に目覚めます。
後悔 「あるゲイの回想」短編集
ryuuza
BL
僕はゲイです。今までの男たちとの数々の出会いの中、あの時こうしていれば、ああしていればと後悔した経験が沢山あります。そんな1シーンを集めてみました。殆どノンフィクションです。ゲイ男性向けですが、ゲイに興味のある女性も大歓迎です。基本1話完結で短編として読めますが、1話から順に読んでいただくと、より話の内容が分かるかもしれません。
昭和から平成の性的イジメ
ポコたん
BL
バブル期に出てきたチーマーを舞台にしたイジメをテーマにした創作小説です。
内容は実際にあったとされる内容を小説にする為に色付けしています。私自身がチーマーだったり被害者だったわけではないので目撃者などに聞いた事を取り上げています。
実際に被害に遭われた方や目撃者の方がいましたら感想をお願いします。
全2話
チーマーとは
茶髪にしたりピアスをしたりしてゲームセンターやコンビニにグループ(チーム)でたむろしている不良少年。 [補説] 昭和末期から平成初期にかけて目立ち、通行人に因縁をつけて金銭を脅し取ることなどもあった。 東京渋谷センター街が発祥の地という。
保育士だっておしっこするもん!
こじらせた処女
BL
男性保育士さんが漏らしている話。ただただ頭悪い小説です。
保育士の道に進み、とある保育園に勤めている尾北和樹は、新人で戸惑いながらも、やりがいを感じながら仕事をこなしていた。
しかし、男性保育士というものはまだまだ珍しく浸透していない。それでも和樹が通う園にはもう一人、男性保育士がいた。名前は多田木遼、2つ年上。
園児と一緒に用を足すな。ある日の朝礼で受けた注意は、尾北和樹に向けられたものだった。他の女性職員の前で言われて顔を真っ赤にする和樹に、気にしないように、と多田木はいうが、保護者からのクレームだ。信用問題に関わり、同性職員の多田木にも迷惑をかけてしまう、そう思い、その日から3階の隅にある職員トイレを使うようになった。
しかし、尾北は一日中トイレに行かなくても平気な多田木とは違い、3時間に一回行かないと限界を迎えてしまう体質。加えて激務だ。園児と一緒に済ませるから、今までなんとかやってこれたのだ。それからというものの、限界ギリギリで間に合う、なんて危ない状況が何度か見受けられた。
ある日の紅葉が色づく頃、事件は起こる。その日は何かとタイミングが掴めなくて、いつもよりさらに忙しかった。やっとトイレにいける、そう思ったところで、前を押さえた幼児に捕まってしまい…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる