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音響攻撃
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頭上から見えない布が落ちてきたような不思議な感覚の後、それは襲ってきた。
「うわっ…」
聴いたことのない耳鳴りが襲った。それと同時に頭に激痛が走る。
受付のスタッフも床に倒れた。上司の水木は突っ伏して嘔吐している。
必死に目を開けるとフロアにいる全員が頭を抱えてうずくまったり倒れたりしていた。
「もしかして…これ…っ…!」
大使館で起きた現象と同じ謎の体調不良か?
だがどうして一般企業を攻撃してくるのかわからない。
「くっそ…」
カウンターによじ登るように立ち上がると、エレベーターの前に立っている鈴木あすかと目が合った。
どうしてあいつは平気なんだよ。
まわりは水木のように嘔吐したり頭を抱えて倒れている。律人も耳鳴りと頭痛がひどい。気を抜くと動けなくなりそうだった。
スマホ画面は真っ黒になっている。
受付カウンターの中の電話に手をのばして番号を押した。
「テロだ!旭山商事!」
そこまで言うのが精一杯だった。
倒れる律人に鈴木あすかが靴音を鳴らして近づいてくる。
「人命は奪わない、未来の兵器の味はどう?」
コツ、と眼の前で足が止まった。
「…なんでお前には効かないんだ…!」
「そういう体質なの」
となりでうずくまって吐いている水木をチラリと見て、鈴木がふっと笑う。
「効きすぎる体質の人は死んじゃうかもねえ」
あちこちから人のうめき声が聞こえる。
銃を取ろうと腕を背中に伸ばしたが、その腕を鈴木に踏まれて押さえられた。
「人を殺す武器など、もうなくなる」
「……」
「平和だと思わない?」
ガッ!と大きな音を立てて腕を蹴り上げられた。
訓練されているはずの大人の体が軽々と吹っ飛ぶ。
「いっ…、あんた…何者なんだ」
打ち合わせと違って警察の突入部隊の到着が遅い。別働隊がいるのか。
「…榊部長は……」
「まだ話せるの。元気ね。榊も痛くて泣いてる頃ね」
地位から考えてオフィスは上の階。ということはこの攻撃は最上階か屋上からか。
「じゃあね」
律人が痛みで動けない中、鈴木あすかはエレベーターのほうへ歩いていく。
彼女はしきりにボタンを押していたが音響兵器使用中のせいか動いていないようだった。
そうか、電気機器系統はほとんどダメになるのか。だからスマホが真っ先に死んだ。
電話回線はぎりぎりつながっていた。
視界に霞がかかってきた。あいかわらず頭が割れそうに痛む。
意識が途切れそうな中。突入部隊が見えた。
「…上…、上に……」
指揮隊長と思われる人物が自分の近くにかがんで大声で状況を聞いてくる。
「処理班!上の階確認!人は退避させろ!」
「…違う…毒ガスじゃない…」
水木部長はまだ嘔吐が止まらない様子だった。
自分たちは頭痛で動けないが、後から入ってきた部隊は倒れることなく動いている。
長時間は使えないのだろうか。やはりまだ実戦投入出来ないシロモノなのかもしれない。
パン!と渇いた音がした。
鈴木あすかが自分の頭を銃で吹き飛ばした音だった。
旭山商事ビルから少し離れたビルの最上階の部屋の一室が光る。
ノーネクタイに黒スーツ姿で、警察が使用するスナイパーライフルを構える涼真の姿があった。
屋上では普通の社員風の男たちが箱のような機器を置いてまわりを警戒している。
角度を下げてスコープをのぞくと、パソコンを倒してデスクに崩れる榊雄一郎の姿が見えた。
「……」
涼真の表情が一瞬揺れる。
銃口を屋上に向け直して、トリガーに指をかけた。
屋上にいる工作員がひとりずつ吹きとんで倒れる。
最後に機械を破壊した。
「屋上制圧。これから合流する」
素早く銃を解体しながら部隊長に報告する。
スコープだけ手に取って、もう一度榊のオフィスを覗いた。
ビルの電気系統は元に戻ったのか、最上階に近い部屋に救急隊が到着して榊が搬送されていく。
その一部始終を涼真は見守ってからそっと窓から離れた。
「了解、確認に向かわせる」
律人を支えながら隊長は無線で誰かと連絡を取っていた。
救急車両が次々到着して道を封鎖して、周囲は野戦病院のような様相になってきた。
「律人!!」
これでも比較的軽症な律人は歩道の段差に座って社員が搬送されていくのを見ていた。
反対方向から涼真が自分に駆け寄ってくる。
まわりに警察手帳を提示して涼真は律人の前に座り込んだ。
「大丈夫?どこやられた?」
不自然に長方形で大きなリュックを背負っている涼真を見て、律人は全てを悟った。
「ありがとな。命拾いした」
まだ痛む頭を押さえて顔をしかめながら律人は礼を言って笑顔を見せた。
「うわっ…」
聴いたことのない耳鳴りが襲った。それと同時に頭に激痛が走る。
受付のスタッフも床に倒れた。上司の水木は突っ伏して嘔吐している。
必死に目を開けるとフロアにいる全員が頭を抱えてうずくまったり倒れたりしていた。
「もしかして…これ…っ…!」
大使館で起きた現象と同じ謎の体調不良か?
だがどうして一般企業を攻撃してくるのかわからない。
「くっそ…」
カウンターによじ登るように立ち上がると、エレベーターの前に立っている鈴木あすかと目が合った。
どうしてあいつは平気なんだよ。
まわりは水木のように嘔吐したり頭を抱えて倒れている。律人も耳鳴りと頭痛がひどい。気を抜くと動けなくなりそうだった。
スマホ画面は真っ黒になっている。
受付カウンターの中の電話に手をのばして番号を押した。
「テロだ!旭山商事!」
そこまで言うのが精一杯だった。
倒れる律人に鈴木あすかが靴音を鳴らして近づいてくる。
「人命は奪わない、未来の兵器の味はどう?」
コツ、と眼の前で足が止まった。
「…なんでお前には効かないんだ…!」
「そういう体質なの」
となりでうずくまって吐いている水木をチラリと見て、鈴木がふっと笑う。
「効きすぎる体質の人は死んじゃうかもねえ」
あちこちから人のうめき声が聞こえる。
銃を取ろうと腕を背中に伸ばしたが、その腕を鈴木に踏まれて押さえられた。
「人を殺す武器など、もうなくなる」
「……」
「平和だと思わない?」
ガッ!と大きな音を立てて腕を蹴り上げられた。
訓練されているはずの大人の体が軽々と吹っ飛ぶ。
「いっ…、あんた…何者なんだ」
打ち合わせと違って警察の突入部隊の到着が遅い。別働隊がいるのか。
「…榊部長は……」
「まだ話せるの。元気ね。榊も痛くて泣いてる頃ね」
地位から考えてオフィスは上の階。ということはこの攻撃は最上階か屋上からか。
「じゃあね」
律人が痛みで動けない中、鈴木あすかはエレベーターのほうへ歩いていく。
彼女はしきりにボタンを押していたが音響兵器使用中のせいか動いていないようだった。
そうか、電気機器系統はほとんどダメになるのか。だからスマホが真っ先に死んだ。
電話回線はぎりぎりつながっていた。
視界に霞がかかってきた。あいかわらず頭が割れそうに痛む。
意識が途切れそうな中。突入部隊が見えた。
「…上…、上に……」
指揮隊長と思われる人物が自分の近くにかがんで大声で状況を聞いてくる。
「処理班!上の階確認!人は退避させろ!」
「…違う…毒ガスじゃない…」
水木部長はまだ嘔吐が止まらない様子だった。
自分たちは頭痛で動けないが、後から入ってきた部隊は倒れることなく動いている。
長時間は使えないのだろうか。やはりまだ実戦投入出来ないシロモノなのかもしれない。
パン!と渇いた音がした。
鈴木あすかが自分の頭を銃で吹き飛ばした音だった。
旭山商事ビルから少し離れたビルの最上階の部屋の一室が光る。
ノーネクタイに黒スーツ姿で、警察が使用するスナイパーライフルを構える涼真の姿があった。
屋上では普通の社員風の男たちが箱のような機器を置いてまわりを警戒している。
角度を下げてスコープをのぞくと、パソコンを倒してデスクに崩れる榊雄一郎の姿が見えた。
「……」
涼真の表情が一瞬揺れる。
銃口を屋上に向け直して、トリガーに指をかけた。
屋上にいる工作員がひとりずつ吹きとんで倒れる。
最後に機械を破壊した。
「屋上制圧。これから合流する」
素早く銃を解体しながら部隊長に報告する。
スコープだけ手に取って、もう一度榊のオフィスを覗いた。
ビルの電気系統は元に戻ったのか、最上階に近い部屋に救急隊が到着して榊が搬送されていく。
その一部始終を涼真は見守ってからそっと窓から離れた。
「了解、確認に向かわせる」
律人を支えながら隊長は無線で誰かと連絡を取っていた。
救急車両が次々到着して道を封鎖して、周囲は野戦病院のような様相になってきた。
「律人!!」
これでも比較的軽症な律人は歩道の段差に座って社員が搬送されていくのを見ていた。
反対方向から涼真が自分に駆け寄ってくる。
まわりに警察手帳を提示して涼真は律人の前に座り込んだ。
「大丈夫?どこやられた?」
不自然に長方形で大きなリュックを背負っている涼真を見て、律人は全てを悟った。
「ありがとな。命拾いした」
まだ痛む頭を押さえて顔をしかめながら律人は礼を言って笑顔を見せた。
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