御曹司とカレシ

希京

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掴むもの

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「奥様、お送りします。こちらへ」
本木が声をかけても琴美ことみゆうに吸い寄せられるように視線を外さなかった。

しまったな。

本木も同じ思いなのか目線を交えると苦笑いで軽く頷いてきた。

ゆうは自分のこのルックスの魔力を自覚している。だから極力人目につかない業務か、あるいは今のように力のある人間に密着して、惹かれた人間を最初にあきらめさせるようにしている。

だが今度は恋人の妻か。
嫌な方向へ事態がいかなければいいが。こういう場合はもう祈るしかなかった。


その願いは叶いそうになかった。
琴美ことみの奴、せっかく帰ってやってんのに今度は拒否してくる。あんなに求めてきてたのにここ最近は何を考えているかわからん。ぼーっとどこかを見て、たまに涙ぐんだり。俺なんかしたか?」

この部屋で家庭の話はするなと決めていたのにそれを破ってまで、まことは『わけがわからん』と言ってビールを一気に飲み干す。

「愛想つかれたんじゃない?寂しかったんだと思うよ」
俺を見たあの瞳。
原因は俺だ。この見た目。

「しばらく様子見てみたら?別に今さら焦ってもね。それがもどかしいなら」
「…何だよ。良案あるのか?」
「強引に犯して孕ませてしまえ」

まことの細く鋭い眼が大きく開く。眼の前の相手が何を言ったのか理解できない感じで動きが止まった。
「さっさと子ども作って俺と遊ぼう」
ぷくりとした大きな涙袋が今夜は凶器に思えた。

「お前…、怖いこと言うんだな」
ソファに座るまことは、立っているゆうの体をゆっくり引き寄せて腹のあたりに顔を埋めた。

「俺は幸せはぼんやり待ってればやってくるとは思っていない。欲しかったら掴みとる。それだけだ」
きれいに固めたまことの髪をゆっくりなでながらゆうは言う。
「俺のことは?俺を愛しているか?なあゆう
「……」
ゆうは両手でまことの頬を包んで唇に軽くふれるようなキスをした。

今さら俺たちに言葉はいらないだろう。

「ほら、奥さん待ってるよ。帰って頑張るんだな」
まことは嫌だといわんばかりに、まわした腕に力を込めた。
「俺たちもうすぐ30だよ。言いたくないけどまことも限界あるだろ?体力温存」
半分は冗談だが、この大きな駄々っ子を妻の待つ家に帰すためご機嫌をとって部屋から追い出した。

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