8 / 12
掴むもの
しおりを挟む
「奥様、お送りします。こちらへ」
本木が声をかけても琴美は優に吸い寄せられるように視線を外さなかった。
しまったな。
本木も同じ思いなのか目線を交えると苦笑いで軽く頷いてきた。
優は自分のこのルックスの魔力を自覚している。だから極力人目につかない業務か、あるいは今のように力のある人間に密着して、惹かれた人間を最初にあきらめさせるようにしている。
だが今度は恋人の妻か。
嫌な方向へ事態がいかなければいいが。こういう場合はもう祈るしかなかった。
その願いは叶いそうになかった。
「琴美の奴、せっかく帰ってやってんのに今度は拒否してくる。あんなに求めてきてたのにここ最近は何を考えているかわからん。ぼーっとどこかを見て、たまに涙ぐんだり。俺なんかしたか?」
この部屋で家庭の話はするなと決めていたのにそれを破ってまで、真は『わけがわからん』と言ってビールを一気に飲み干す。
「愛想つかれたんじゃない?寂しかったんだと思うよ」
俺を見たあの瞳。
原因は俺だ。この見た目。
「しばらく様子見てみたら?別に今さら焦ってもね。それがもどかしいなら」
「…何だよ。良案あるのか?」
「強引に犯して孕ませてしまえ」
真の細く鋭い眼が大きく開く。眼の前の相手が何を言ったのか理解できない感じで動きが止まった。
「さっさと子ども作って俺と遊ぼう」
ぷくりとした大きな涙袋が今夜は凶器に思えた。
「お前…、怖いこと言うんだな」
ソファに座る真は、立っている優の体をゆっくり引き寄せて腹のあたりに顔を埋めた。
「俺は幸せはぼんやり待ってればやってくるとは思っていない。欲しかったら掴みとる。それだけだ」
きれいに固めた真の髪をゆっくりなでながら優は言う。
「俺のことは?俺を愛しているか?なあ優」
「……」
優は両手で真の頬を包んで唇に軽くふれるようなキスをした。
今さら俺たちに言葉はいらないだろう。
「ほら、奥さん待ってるよ。帰って頑張るんだな」
真は嫌だといわんばかりに、まわした腕に力を込めた。
「俺たちもうすぐ30だよ。言いたくないけど真も限界あるだろ?体力温存」
半分は冗談だが、この大きな駄々っ子を妻の待つ家に帰すためご機嫌をとって部屋から追い出した。
本木が声をかけても琴美は優に吸い寄せられるように視線を外さなかった。
しまったな。
本木も同じ思いなのか目線を交えると苦笑いで軽く頷いてきた。
優は自分のこのルックスの魔力を自覚している。だから極力人目につかない業務か、あるいは今のように力のある人間に密着して、惹かれた人間を最初にあきらめさせるようにしている。
だが今度は恋人の妻か。
嫌な方向へ事態がいかなければいいが。こういう場合はもう祈るしかなかった。
その願いは叶いそうになかった。
「琴美の奴、せっかく帰ってやってんのに今度は拒否してくる。あんなに求めてきてたのにここ最近は何を考えているかわからん。ぼーっとどこかを見て、たまに涙ぐんだり。俺なんかしたか?」
この部屋で家庭の話はするなと決めていたのにそれを破ってまで、真は『わけがわからん』と言ってビールを一気に飲み干す。
「愛想つかれたんじゃない?寂しかったんだと思うよ」
俺を見たあの瞳。
原因は俺だ。この見た目。
「しばらく様子見てみたら?別に今さら焦ってもね。それがもどかしいなら」
「…何だよ。良案あるのか?」
「強引に犯して孕ませてしまえ」
真の細く鋭い眼が大きく開く。眼の前の相手が何を言ったのか理解できない感じで動きが止まった。
「さっさと子ども作って俺と遊ぼう」
ぷくりとした大きな涙袋が今夜は凶器に思えた。
「お前…、怖いこと言うんだな」
ソファに座る真は、立っている優の体をゆっくり引き寄せて腹のあたりに顔を埋めた。
「俺は幸せはぼんやり待ってればやってくるとは思っていない。欲しかったら掴みとる。それだけだ」
きれいに固めた真の髪をゆっくりなでながら優は言う。
「俺のことは?俺を愛しているか?なあ優」
「……」
優は両手で真の頬を包んで唇に軽くふれるようなキスをした。
今さら俺たちに言葉はいらないだろう。
「ほら、奥さん待ってるよ。帰って頑張るんだな」
真は嫌だといわんばかりに、まわした腕に力を込めた。
「俺たちもうすぐ30だよ。言いたくないけど真も限界あるだろ?体力温存」
半分は冗談だが、この大きな駄々っ子を妻の待つ家に帰すためご機嫌をとって部屋から追い出した。
0
あなたにおすすめの小説
ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる
cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。
「付き合おうって言ったのは凪だよね」
あの流れで本気だとは思わないだろおおお。
凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる
水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。
「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」
過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。
ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。
孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。
僕の番
結城れい
BL
白石湊(しらいし みなと)は、大学生のΩだ。αの番がいて同棲までしている。最近湊は、番である森颯真(もり そうま)の衣服を集めることがやめられない。気づかれないように少しずつ集めていくが――
※他サイトにも掲載
年下幼馴染アルファの執着〜なかったことにはさせない〜
ひなた翠
BL
一年ぶりの再会。
成長した年下αは、もう"子ども"じゃなかった――。
「海ちゃんから距離を置きたかったのに――」
23歳のΩ・遥は、幼馴染のα・海斗への片思いを諦めるため、一人暮らしを始めた。
モテる海斗が自分なんかを選ぶはずがない。
そう思って逃げ出したのに、ある日突然、18歳になった海斗が「大学のオープンキャンパスに行くから泊めて」と転がり込んできて――。
「俺はずっと好きだったし、離れる気ないけど」
「十八歳になるまで我慢してた」
「なんのためにここから通える大学を探してると思ってるの?」
年下αの、計画的で一途な執着に、逃げ場をなくしていく遥。
夏休み限定の同居は、甘い溺愛の日々――。
年下αの執着は、想像以上に深くて、甘くて、重い。
これは、"なかったこと"にはできない恋だった――。
借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます
なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。
そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。
「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」
脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……!
高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!?
借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。
冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!?
短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。
隣の番は、俺だけを見ている
雪兎
BL
Ωである高校生の湊(みなと)は、幼いころから体が弱く、友人も少ない。そんな湊の隣に住んでいるのは、幼馴染で幼少期から湊に執着してきたαの律(りつ)。律は湊の護衛のように常にそばにいて、彼に近づく人間を片っ端から遠ざけてしまう。
ある日、湊は学校で軽い発情期の前触れに襲われ、助けてくれたのもやはり律だった。逃れられない幼馴染との関係に戸惑う湊だが、律は静かに囁く。「もう、俺からは逃げられない」――。
執着愛が静かに絡みつく、オメガバース・あまあま系BL。
【キャラクター設定】
■主人公(受け)
名前:湊(みなと)
属性:Ω(オメガ)
年齢:17歳
性格:引っ込み思案でおとなしいが、内面は芯が強い。幼少期から体が弱く、他人に頼ることが多かったため、律に守られるのが当たり前になっている。
特徴:小柄で華奢。淡い茶髪で色白。表情はおだやかだが、感情が表に出やすい。
■相手(攻め)
名前:律(りつ)
属性:α(アルファ)
年齢:18歳
性格:独占欲が非常に強く、湊に対してのみ甘く、他人には冷たい。基本的に無表情だが、湊のこととなると感情的になる。
特徴:長身で整った顔立ち。黒髪でクールな雰囲気。幼少期に湊を助けたことをきっかけに執着心が芽生え、彼を「俺の番」と心に決めている。
「オレの番は、いちばん近くて、いちばん遠いアルファだった」
星井 悠里
BL
大好きだった幼なじみのアルファは、皆の憧れだった。
ベータのオレは、王都に誘ってくれたその手を取れなかった。
番にはなれない未来が、ただ怖かった。隣に立ち続ける自信がなかった。
あれから二年。幼馴染の婚約の噂を聞いて胸が痛むことはあるけれど、
平凡だけどちゃんと働いて、それなりに楽しく生きていた。
そんなオレの体に、ふとした異変が起きはじめた。
――何でいまさら。オメガだった、なんて。
オメガだったら、これからますます頑張ろうとしていた仕事も出来なくなる。
2年前のあの時だったら。あの手を取れたかもしれないのに。
どうして、いまさら。
すれ違った運命に、急展開で振り回される、Ωのお話。
ハピエン確定です。(全10話)
2025年 07月12日 ~2025年 07月21日 なろうさんで完結してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる