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最終章 魔王をその身に宿す少年

123.待ち受けるリド(後)

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 左右の丘から兵士と共に駆け降りて来たのはユークリアとマリッゾだった。

 ロゼルタとテスラが舌打ちをし、サラを見る。

 が、まだ光の霊気オーラを纏い目を閉じていた。
 交感の魔法を唱えている間、サラは完全に無防備な状態となることは今までの経験でわかっている。

「チッ。さすがにこんだけの兵に囲まれるのは面白くねーぜ」

 テスラが剣に手をかける。

「サラさんのこの魔法はすぐに終わる筈です。それまで僕が!」

 ノルトの母、そして彼自身もサラのその魔法で助かっている。

 髪を逆立たせ、黄色の霊気オーラを纏うと、

「這い出る者ども!」

 と叫んだ。

 瞬時に彼らの周囲の土が盛り上がり、その中からグールやゾンビ、レブナントなどの不死性を持つ魔物が数十体現れた。

 続けてドーンが「彷徨う霊ども!」と叫ぶ。

 それに応えるかのようにレイスやゴーストなど、実体を持たない魔物が現れた。

 ノルトとドーンによって生み出された不死の軍勢は、ふたりの魔人を先頭にしたリルディアの兵士達に襲い掛かった。

「こんな不死種アンデッドで私をどうにか出来ると思っているのか。戦え、テスラ!」
「ロトスの借りを返してやるぜぇ」

 霊気オーラを噴き出し魔人化したユークリアとマリッゾは迫る不死の軍を切り裂き、殴り倒す。

悪来二刃デヴィルエッジ

 振り下ろしたテスラの左右の剣から鬼神の姿が現れる。数瞬の後、衝撃波が巻き起こり、それはマリッゾへと襲い掛かった。

 マリッゾの赤い瞳が光り、自慢の拳でそれを粉砕せんと腰に手を当て、一気に撃ち放とうとしたその時。

 それよりも一瞬早くロゼルタが動いていた。

「ブラッドバインド!」

 突如マリッゾの周囲に現れた血の霧は瞬時に鎖へと形を変え、マリッゾを拘束した。

「げっ!」

 直後、テスラの衝撃波が直撃した。

 並の相手なら体が切断されるか、大きく吹き飛ばされる程のそれをマリッゾは両足を踏ん張り、ズズズッと後退しながらも耐え切った。

 一方のユークリア。

「私を無視してマリッゾを攻撃するとは舐められたものだ!」

 テスラの矛先がマリッゾに向かった事にまるで嫉妬したかのように怒り、更に馬の足を早めた。

 が、次の瞬間、ユークリアの体は馬から離れた。

「うぐっ!」

 突然体が浮き上がった感じがし、次いで万力の様な力で首を絞められた。

 首に手をやると太い腕がある。

「き、さま、マ、クル……」

 4人の中では最も力が強く、そして動きも早いマクルルだった。

 マリッゾに意識の向いたユークリアの位置まで一気に駆け寄り、背後から絡み付いた。

 その力は普通の相手なら1秒もかからず失神するほどのものだ。

 だがユークリアの両腕が一気に膨れ上がる。

 不利な体勢であるにも関わらず、そこからマクルルの腕を強引に外しにかかった。

 その時。

「解除できました!」

 サラの声が響く。

 マクルルはユークリアとの力比べに固執せず、首締めを解くと同時に回し蹴りを放つ。

 不意をつく攻撃にユークリアはもろにそれを受け、後方へと吹き飛ぶ。

 空中でうまく姿勢を整え膝を付いて着地し、マクルルの方を睨む。が、もう彼はノルト達の位置まで戻っていた。

「あの巨体で力だけでなく、なんと素早い……あれがデルピラのグレートバーバリアン、マクルルか」

 感心した様に呟くと立ち上がり、首元を摩りながら再び自らの馬に飛び乗った。


 マクルルが戻ったのを見てロゼルタがひとつ息を吐く。

「ふう。後ろからあたしらを追い詰め、城に駆け込んだところでトラップ発動ってわけか」
「俺達を待ち構えてたみてーだな。ウンコヤローにしちゃあ芸が細かいぜ」
「だな……少し気にはなるが、城の中ならあれだけの数の兵士はむしろ動きにくいだろう。罠はサラが解除した。このまま突っ込むぞ」
「行くぜ!」

 ロゼルタとテスラが並んで城へと走り出した。

 次いでノルト達も走る。


 かつてリド達によって魔界は各個撃破された。

 主だったものは殺され、リドやマッカの目に留まった者は犯された。


 魔界は一度、壊されたのだ。


 ロゼルタがギリッと歯軋りをする。

「今度はテメーがタコ殴りになる番だぜ、リ……」

 城門をくぐりながら言ったその言葉は、しかし最後まで言えなかった。

 怪訝に思ったテスラが横を向く。

「あ?」

 彼のすぐ隣を走っていたロゼルタがいない。
 慌てて振り返る。

「な……!?」

 そこには彼と魔族の仲間3人にサラ、ノルトとアンナという強力な力を持つ7人の姿はなく、ただひとり、マクルルがいるのみだった。


 ◆◇

 足を組み、王座にドッカと座るリドの目がパチリと開く。

 これ程楽しい事はないと言わんばかりに口の端を上げて歯を見せた。

「やっと来たか……さあ、始まりだ」

 そう言って立ち上がる。

 口の中からは黒い霊気オーラが漏れ出ている。

 その背後には真っ黒な、まるで『邪悪』という言葉を具現化したような、見るものを凍り付かせる影の様なものがあった。













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