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最終章 魔王をその身に宿す少年
122.待ち受けるリド(前)
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覇王城の広場の中央でシオンが目を瞑り、座っている。
知らぬ者が見たらまるで瞑想しているような穏やかさである。
彼は今、先ほどの軍議で決まった内容に基づき、城の入口全てに様々な術式を施していた。
その側に立つ長身で体格の良いふたりの男。
マリッゾとユークリアだ。
ロトス王国、フュルトの町でノルト達と戦い、不覚を取った彼らはここで心身共に回復を図っていた。
「じいさん、しっかりセットしてくれよ。やっとマリッゾ様があの野郎をブチ殺せるんだからな」
「マリッゾ。テスラは私がやると言った筈」
マリッゾはユークリアを見て鼻で笑う。
「もたつくようだとやっちまうぜぇ?」
「ふん。今度こそ決着を、つけてやる」
「しっかし昔の女如きで……てめえも意外にネチネチしてんな?」
マリッゾが両手をポケットに入れながら下卑た笑みと共に吐き捨てる様に言う。
瞬間、ユークリアの全身から霊気と殺気が溢れ出し、マリッゾの顎を強く掴んだ。
「如きとはなんだ。テスラより先に貴様を殺すぞ」
マリッゾは特に慌てる様子もなく、自分を掴むユークリアの腕を見、顔を見、数秒して目と歯を剥いた。
「おいおい、誰が誰を殺すだと?」
額に大きな癇筋を畝らせたマリッゾがドス黒い霊気を噴出する。
「調子乗ってんじゃねえぜえ? ブチ殺し……」
一触即発、ふたりが手を出すまで1秒もかからないと思われたその時。
「逸るのはわかるが、抑えろお前ら」
低くよく響く声が後ろから聞こえた。
覇王、リド=マルストだ。
「お前達は兵を率いるのだろうが。遊んでないでさっさと用意して来い」
その言葉でふたりはお互いを睨みながら渋々引き下がっていった。
暫くその後ろ姿を見つめていたが、やがてシオンの横を通り過ぎ、景色を一望出来る正門側の城壁に上る。
マントと髪を風にたなびかせ、姿勢良く立つ。
腕を組み、前方の草原と街道を見詰めた。
数分の間、微動だにせずそうしていたリドだったが、不意に「来たか」とポツリと呟く。
視線の先には城へとやって来るノルト達の姿があった。
「真正面から来るとはな。まあ飛ぼうが忍び込もうが転移しようが、結果は同じだが」
暫くノルト達を見下ろしていたが、
「フン、マッカめ。ひとりも倒せなんだか」
やがて踵を返すと、
「使えぬ奴」
そう吐き捨てて城の中へと戻っていった。
◆◇
一方のノルト達。
彼らも事前に策を練っていた。
まず絶対に離れ離れにはならない。
各個撃破された恨みは全員で晴らす。
そう決めておいて、どうやって城に入るかは意見が分かれた。
だがテスラの、
『ネルソ様の城になんで俺が忍び込まなきゃなんねー。正々堂々と真正面から行く』
という意見が通った。
いずれにしてもリドの感知力は既に彼らを捉えているはずで、今更コソコソしても無駄だろうということだった。
兵士にはサラとドーン、ノルトが範囲魔法で殲滅し、ユークリアなどの魔神格には必ず2人以上で対処する。
万が一逸れた場合は構造を知るテスラと念話で連絡を取ること。
それが出来ないノルトとアンナ、サラはテスラ達の、テスラ達は彼らの位置を常に頭に入れておくこと。
他にもいくつか取り決めておき、
『後はリドを殺すだけだ』
と城へ向かっていた。
「しかし妙じゃな」
「ああ。門が開きっぱなしだな」
ドーンの後にロゼルタが言う。
暫くそのまま歩いていると、
「待って下さい」
不意にサラが言う。
「どうした?」
「どうやら精霊魔法の罠が仕掛けられているようです」
サラは先頭に立つと全身で感じるように一度目を瞑り、そして開けた。
「城壁との境界全体に抵抗不可の速度低下、その次に同じく抵抗不可の睡眠、毒、麻痺の付与があります」
「盛り沢山じゃな」
「転移でもダメですか?」
「ダメですね」
「知らずに入ってたらデバフの嵐か」とロゼルタ。
「はい。解除するしかありません。交感せよ。光の精霊王キジェシス」
サラが罠の解除を始めたその時。
後ろの丘の中腹辺りから大勢の人のものと思われる声が上がり、次いで馬蹄の音が地鳴りのように聞こえて来た。
「ありゃあユークリアじゃねーか」
「こっちはマリッゾだ。城に突っ込むしかねーぞ」
左右の丘から馬上のユークリアと、とんでもない速さで走るマリッゾがそれぞれ五百程はいると思われる兵を率い、駆け降りて来たのだ。
知らぬ者が見たらまるで瞑想しているような穏やかさである。
彼は今、先ほどの軍議で決まった内容に基づき、城の入口全てに様々な術式を施していた。
その側に立つ長身で体格の良いふたりの男。
マリッゾとユークリアだ。
ロトス王国、フュルトの町でノルト達と戦い、不覚を取った彼らはここで心身共に回復を図っていた。
「じいさん、しっかりセットしてくれよ。やっとマリッゾ様があの野郎をブチ殺せるんだからな」
「マリッゾ。テスラは私がやると言った筈」
マリッゾはユークリアを見て鼻で笑う。
「もたつくようだとやっちまうぜぇ?」
「ふん。今度こそ決着を、つけてやる」
「しっかし昔の女如きで……てめえも意外にネチネチしてんな?」
マリッゾが両手をポケットに入れながら下卑た笑みと共に吐き捨てる様に言う。
瞬間、ユークリアの全身から霊気と殺気が溢れ出し、マリッゾの顎を強く掴んだ。
「如きとはなんだ。テスラより先に貴様を殺すぞ」
マリッゾは特に慌てる様子もなく、自分を掴むユークリアの腕を見、顔を見、数秒して目と歯を剥いた。
「おいおい、誰が誰を殺すだと?」
額に大きな癇筋を畝らせたマリッゾがドス黒い霊気を噴出する。
「調子乗ってんじゃねえぜえ? ブチ殺し……」
一触即発、ふたりが手を出すまで1秒もかからないと思われたその時。
「逸るのはわかるが、抑えろお前ら」
低くよく響く声が後ろから聞こえた。
覇王、リド=マルストだ。
「お前達は兵を率いるのだろうが。遊んでないでさっさと用意して来い」
その言葉でふたりはお互いを睨みながら渋々引き下がっていった。
暫くその後ろ姿を見つめていたが、やがてシオンの横を通り過ぎ、景色を一望出来る正門側の城壁に上る。
マントと髪を風にたなびかせ、姿勢良く立つ。
腕を組み、前方の草原と街道を見詰めた。
数分の間、微動だにせずそうしていたリドだったが、不意に「来たか」とポツリと呟く。
視線の先には城へとやって来るノルト達の姿があった。
「真正面から来るとはな。まあ飛ぼうが忍び込もうが転移しようが、結果は同じだが」
暫くノルト達を見下ろしていたが、
「フン、マッカめ。ひとりも倒せなんだか」
やがて踵を返すと、
「使えぬ奴」
そう吐き捨てて城の中へと戻っていった。
◆◇
一方のノルト達。
彼らも事前に策を練っていた。
まず絶対に離れ離れにはならない。
各個撃破された恨みは全員で晴らす。
そう決めておいて、どうやって城に入るかは意見が分かれた。
だがテスラの、
『ネルソ様の城になんで俺が忍び込まなきゃなんねー。正々堂々と真正面から行く』
という意見が通った。
いずれにしてもリドの感知力は既に彼らを捉えているはずで、今更コソコソしても無駄だろうということだった。
兵士にはサラとドーン、ノルトが範囲魔法で殲滅し、ユークリアなどの魔神格には必ず2人以上で対処する。
万が一逸れた場合は構造を知るテスラと念話で連絡を取ること。
それが出来ないノルトとアンナ、サラはテスラ達の、テスラ達は彼らの位置を常に頭に入れておくこと。
他にもいくつか取り決めておき、
『後はリドを殺すだけだ』
と城へ向かっていた。
「しかし妙じゃな」
「ああ。門が開きっぱなしだな」
ドーンの後にロゼルタが言う。
暫くそのまま歩いていると、
「待って下さい」
不意にサラが言う。
「どうした?」
「どうやら精霊魔法の罠が仕掛けられているようです」
サラは先頭に立つと全身で感じるように一度目を瞑り、そして開けた。
「城壁との境界全体に抵抗不可の速度低下、その次に同じく抵抗不可の睡眠、毒、麻痺の付与があります」
「盛り沢山じゃな」
「転移でもダメですか?」
「ダメですね」
「知らずに入ってたらデバフの嵐か」とロゼルタ。
「はい。解除するしかありません。交感せよ。光の精霊王キジェシス」
サラが罠の解除を始めたその時。
後ろの丘の中腹辺りから大勢の人のものと思われる声が上がり、次いで馬蹄の音が地鳴りのように聞こえて来た。
「ありゃあユークリアじゃねーか」
「こっちはマリッゾだ。城に突っ込むしかねーぞ」
左右の丘から馬上のユークリアと、とんでもない速さで走るマリッゾがそれぞれ五百程はいると思われる兵を率い、駆け降りて来たのだ。
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