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永遠なる魂
106.双剣の少女
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「覇王!」
リドがハルヴァラを閉じ込めている場所へ向かおうとしている時、彼を呼ぶ兵士がいた。
ギロリと男を睨む。
普段であればそれだけで空気を読み、誰でもすごすごと引き返すのだが、今その兵士は冷や汗を垂らしながらも何か言いたげにそこにいた。
「何の用だ」
「ハッ……その、女剣士がリド様に会わせろと申し……」
「そんなものいちいち取り次ぐな」
再び歩を進めようとした時、兵士が食い下がる様に話を続けた。
「それがとても強い女でして! 現在ロトスから戻られたばかりのユークリア様が対処されていますが……劣勢です」
「なんだと?」
ユークリアが劣勢となる相手などこの世界では限られている。
少し興味が出たリドは兵士に体を向けて、
「魔族か?」
「いえ。少なくとも見た目は人間でした。が、詳しい事は私では」
(人間で? ユークリアに?)
それほどの達人など自分位のもの、と考えていた。
「面白い。観に行こう。案内せよ」
「ハッ」
兵士が連れて行ったのは城門から少し入った辺り、城の建物自体に至るまでの広場だった。
なるほど、確かにその兵士の言う通り、そこでユークリアと見た事がない女が戦っていた。
まだ20歳そこそこと思える少女だった。
2本の剣を巧みに扱い、ユークリアに攻め手をなかなか握らせない。
「ほう? あれはかなりの腕、それに可愛い女だ……が、まだ子供か」
そこではたと気付いた。
「ユークリアめ、魔人化しているではないか」
「そ、そそそそうなのです」
更に興味が出たリドは2人が争う場所まで行くと、声を掛けた。
「そこまで」
「ハッ……これはリド様。お見苦しい所を」
「よい。ロトスの傷が癒えておらぬだろう。下がっていろ」
「いえ、私はまだ……」
「フッフッフ。人間の小娘相手にユークリアともあろうものが魔神化するなど大人気ない。下がれ」
「……ハッ」
まだ何か言いたげであったが、頭を下げ、ユークリアが城内に向かう。
「さて……」
2本の細身の剣を持ち、肩で小さく息をしながらも鋭い目付きでリドを睨む剣士に目を向けた。
背はすらりと高く、深い茶色の短髪と瞳を持つ可愛らしい少女だった。
腕回りは細いが発達している筋肉は、剣士として血の滲むような鍛錬を積んでいるとわかる。
「おい、お前」とリド。
「……」
怪訝げにリドを睨み返していた少女が、数秒してハッとした顔付きとなる。
「お前の様な小娘がこんな所に何をしに来た」
「背が高く黒いジジイ……あんたがリド=マルストなの?」
「そうだ。だがお前も口が悪いな。最近流行っているのか?」
「手合わせ願おう」
「目的は?」
「私が勝ったらあんたは私の配下。あんたが勝ったら私が配下になる。それでどう?」
つまりリドを倒しに来た、という事だ。
普通なら一々リドが付き合うまでもないのだが、先程のユークリアとの闘いを見てその少女に少し興味が湧いていた。
「よかろう。誰かこの女に治癒をかけてやれ」
「あら。意外に正々堂々としているんだね」
「ユークリアの後だから負けたと言われては面倒だからな」
「私に勝つ気なの? ハッ。さすがは覇王様だ」
司祭の1人が少女に治癒を掛けた。
それが合図だった。
少女は踏み出しが見えない程のスピードで一瞬の内に間合いを詰め、リドの頭頂部と大腿部を同時に狙った。
相手が常人なら確実にどちらかにヒットしていた攻撃だ。
だがリドは少女に負けない程の速さで同じ様に前へと数歩踏み込むと、足を狙った剣を持つ腕を蹴りで、頭頂部の振り下ろしを剣で止めて見せた。
「おっとさすがだね」
「女。名は?」
「私に勝てたら教えてあげるよ」
今、リドにこれほどの暴言を放つ者は世界中でノルト達くらいのものだった。
「フン。ハナタレが」
下がる足取りで一旦距離を置いたと見せ掛けた少女はいつの間にか間合いを詰め、テスラの如き、乱れ撃ちを見せる。
しかも双剣である。
単純に手数は二倍だ。
(なるほど。これは今のユークリアでは勝てまい)
受け止め、流し、逸らしながらいつしかリドは自身でも知らぬ間に後退を始め、やがて壁際まで押し込まれた。
しかも少女はそこでリドの顎の下に剣を入れる事に成功する。
「勝った!」
汗まみれの少女がリドを見上げ、快活に笑う。
「どうかな? まだ死んでおらんが」
「そんなの負け惜しみじゃん」
「そう思うなら殺してみよ」
普通、ここで一瞬でも考えるはずだった。
だがその少女の顔つきは一変する。
張り裂けんばかりに目を吊り上がらせると、一切の躊躇無くその喉元を掻き切った!
ザッと血が迸り、少女の美しい顔に斜めの朱が走る。
目を見開き、声を上げて笑う。
「ハ……ハハッ。やった。リドを、殺してやった!」
リルディアの兵士達がザワザワと騒めく。
そこでふと気付く。
周りを見回すが、誰も少女に近寄らず、何も言ってこない。
リドがそこまで忠誠心を得ていないという事もあるかもしれないが、それでも普通、王がやられたのであればその犯人を絶対に逃すまいと囲んだりするものではないか。
(え? なんで私、放っておかれてるの?)
その理由はすぐにわかった。
「グッ……グボッ。……ふぅ」
ギョッとしてリドを見た。
(うそ……致命の一撃だったはず)
目を見開き、数秒後、若返ったリドの外見の変化に気付く。
「躊躇の無い剣。なかなか出来るものではない。まずまず、配下にする価値はあるか」
首をコリコリと回し、少女を見下ろしニヤリと笑う。
「わ……若返った?」
魔人化したリドを前に一瞬たじろぐものの、すぐに剣を踊らせた。
だがリドは、今度は受けに回らなかった。
初めてふたりの剣がまともに激突する。
当然それを見守るリルディアの面々はリドが負ける筈がないとタカを括っていた。
ところが少女はそこから更に流れる様な剣の動きを見せる。
(こいつ……これは面白い。昔の俺といい勝負の腕をしている)
(そしてこの流派……ククク)
力で勝るリドの剣を全て1本で受け流し、もう1本で間断なく斬り付ける。
「お前が誰に剣を習ったか、わかったぞ」
それには答えず、少女は体すらも回転させながら上段、下段、中段とバリエーション豊かに攻める。
一方のリドの方もテスラ達に使った、手のひらで剣を止める様な力は使わない。
そこから何十合と斬り結ぶ。
やがて少女を上回る剣の回転力を見せたリドは、僅かな角度の差で同時に2本を撃ち払うともう一度、同じ位置に力を入れて撃ち込んだ。
「あ……」
その力は少女の握力を上回り、2本の剣は敢えなくクルクルと宙を舞い、地面に突き刺さった。
リドは少女の首をむんずと掴むと同時に足を掛け、あっという間に押し倒してみせた。
少女は後頭部を地面に痛打し、衝撃音と共に鼻の奥からツーンと血の味が広がるのを感じた。
リドがハルヴァラを閉じ込めている場所へ向かおうとしている時、彼を呼ぶ兵士がいた。
ギロリと男を睨む。
普段であればそれだけで空気を読み、誰でもすごすごと引き返すのだが、今その兵士は冷や汗を垂らしながらも何か言いたげにそこにいた。
「何の用だ」
「ハッ……その、女剣士がリド様に会わせろと申し……」
「そんなものいちいち取り次ぐな」
再び歩を進めようとした時、兵士が食い下がる様に話を続けた。
「それがとても強い女でして! 現在ロトスから戻られたばかりのユークリア様が対処されていますが……劣勢です」
「なんだと?」
ユークリアが劣勢となる相手などこの世界では限られている。
少し興味が出たリドは兵士に体を向けて、
「魔族か?」
「いえ。少なくとも見た目は人間でした。が、詳しい事は私では」
(人間で? ユークリアに?)
それほどの達人など自分位のもの、と考えていた。
「面白い。観に行こう。案内せよ」
「ハッ」
兵士が連れて行ったのは城門から少し入った辺り、城の建物自体に至るまでの広場だった。
なるほど、確かにその兵士の言う通り、そこでユークリアと見た事がない女が戦っていた。
まだ20歳そこそこと思える少女だった。
2本の剣を巧みに扱い、ユークリアに攻め手をなかなか握らせない。
「ほう? あれはかなりの腕、それに可愛い女だ……が、まだ子供か」
そこではたと気付いた。
「ユークリアめ、魔人化しているではないか」
「そ、そそそそうなのです」
更に興味が出たリドは2人が争う場所まで行くと、声を掛けた。
「そこまで」
「ハッ……これはリド様。お見苦しい所を」
「よい。ロトスの傷が癒えておらぬだろう。下がっていろ」
「いえ、私はまだ……」
「フッフッフ。人間の小娘相手にユークリアともあろうものが魔神化するなど大人気ない。下がれ」
「……ハッ」
まだ何か言いたげであったが、頭を下げ、ユークリアが城内に向かう。
「さて……」
2本の細身の剣を持ち、肩で小さく息をしながらも鋭い目付きでリドを睨む剣士に目を向けた。
背はすらりと高く、深い茶色の短髪と瞳を持つ可愛らしい少女だった。
腕回りは細いが発達している筋肉は、剣士として血の滲むような鍛錬を積んでいるとわかる。
「おい、お前」とリド。
「……」
怪訝げにリドを睨み返していた少女が、数秒してハッとした顔付きとなる。
「お前の様な小娘がこんな所に何をしに来た」
「背が高く黒いジジイ……あんたがリド=マルストなの?」
「そうだ。だがお前も口が悪いな。最近流行っているのか?」
「手合わせ願おう」
「目的は?」
「私が勝ったらあんたは私の配下。あんたが勝ったら私が配下になる。それでどう?」
つまりリドを倒しに来た、という事だ。
普通なら一々リドが付き合うまでもないのだが、先程のユークリアとの闘いを見てその少女に少し興味が湧いていた。
「よかろう。誰かこの女に治癒をかけてやれ」
「あら。意外に正々堂々としているんだね」
「ユークリアの後だから負けたと言われては面倒だからな」
「私に勝つ気なの? ハッ。さすがは覇王様だ」
司祭の1人が少女に治癒を掛けた。
それが合図だった。
少女は踏み出しが見えない程のスピードで一瞬の内に間合いを詰め、リドの頭頂部と大腿部を同時に狙った。
相手が常人なら確実にどちらかにヒットしていた攻撃だ。
だがリドは少女に負けない程の速さで同じ様に前へと数歩踏み込むと、足を狙った剣を持つ腕を蹴りで、頭頂部の振り下ろしを剣で止めて見せた。
「おっとさすがだね」
「女。名は?」
「私に勝てたら教えてあげるよ」
今、リドにこれほどの暴言を放つ者は世界中でノルト達くらいのものだった。
「フン。ハナタレが」
下がる足取りで一旦距離を置いたと見せ掛けた少女はいつの間にか間合いを詰め、テスラの如き、乱れ撃ちを見せる。
しかも双剣である。
単純に手数は二倍だ。
(なるほど。これは今のユークリアでは勝てまい)
受け止め、流し、逸らしながらいつしかリドは自身でも知らぬ間に後退を始め、やがて壁際まで押し込まれた。
しかも少女はそこでリドの顎の下に剣を入れる事に成功する。
「勝った!」
汗まみれの少女がリドを見上げ、快活に笑う。
「どうかな? まだ死んでおらんが」
「そんなの負け惜しみじゃん」
「そう思うなら殺してみよ」
普通、ここで一瞬でも考えるはずだった。
だがその少女の顔つきは一変する。
張り裂けんばかりに目を吊り上がらせると、一切の躊躇無くその喉元を掻き切った!
ザッと血が迸り、少女の美しい顔に斜めの朱が走る。
目を見開き、声を上げて笑う。
「ハ……ハハッ。やった。リドを、殺してやった!」
リルディアの兵士達がザワザワと騒めく。
そこでふと気付く。
周りを見回すが、誰も少女に近寄らず、何も言ってこない。
リドがそこまで忠誠心を得ていないという事もあるかもしれないが、それでも普通、王がやられたのであればその犯人を絶対に逃すまいと囲んだりするものではないか。
(え? なんで私、放っておかれてるの?)
その理由はすぐにわかった。
「グッ……グボッ。……ふぅ」
ギョッとしてリドを見た。
(うそ……致命の一撃だったはず)
目を見開き、数秒後、若返ったリドの外見の変化に気付く。
「躊躇の無い剣。なかなか出来るものではない。まずまず、配下にする価値はあるか」
首をコリコリと回し、少女を見下ろしニヤリと笑う。
「わ……若返った?」
魔人化したリドを前に一瞬たじろぐものの、すぐに剣を踊らせた。
だがリドは、今度は受けに回らなかった。
初めてふたりの剣がまともに激突する。
当然それを見守るリルディアの面々はリドが負ける筈がないとタカを括っていた。
ところが少女はそこから更に流れる様な剣の動きを見せる。
(こいつ……これは面白い。昔の俺といい勝負の腕をしている)
(そしてこの流派……ククク)
力で勝るリドの剣を全て1本で受け流し、もう1本で間断なく斬り付ける。
「お前が誰に剣を習ったか、わかったぞ」
それには答えず、少女は体すらも回転させながら上段、下段、中段とバリエーション豊かに攻める。
一方のリドの方もテスラ達に使った、手のひらで剣を止める様な力は使わない。
そこから何十合と斬り結ぶ。
やがて少女を上回る剣の回転力を見せたリドは、僅かな角度の差で同時に2本を撃ち払うともう一度、同じ位置に力を入れて撃ち込んだ。
「あ……」
その力は少女の握力を上回り、2本の剣は敢えなくクルクルと宙を舞い、地面に突き刺さった。
リドは少女の首をむんずと掴むと同時に足を掛け、あっという間に押し倒してみせた。
少女は後頭部を地面に痛打し、衝撃音と共に鼻の奥からツーンと血の味が広がるのを感じた。
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