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永遠なる魂

089.ロゼルタ無惨(後)

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 リドの薙ぎ払いがロゼルタの両足を狙う。

 しっかりと見えていないリドは距離感の把握がロゼルタほど的確ではないのが幸いだった。

 軽くステップを踏んでそれを後ろに避ける。

(どう攻める? どう攻めればこいつに効くんだ?)

 考える間にもリドの剣が彼女の手足を狙う。
 どうしてでもロゼルタを身動きできない状態にして捕まえたいらしい。

(舌からでは血の回りが遅かったか?)
(一か八か、直接頸動脈に注ぎ込んでやる)
(ヴァンパイアの系譜は強大な力を持った古の魔神ドラクノフ様。その呪いの契約がリド如きに抗える筈はねー)

 攻撃技が殆ど使えない今の彼女に打てる手はそれしか残されていない。

 所々にあるロン=ドゥのと思われる大きな突起などを使い、リドの攻撃をうまく躱していたロゼルタだったが、徐々にリドの攻撃に正確さが増すのを感じ取る。

「さあ間も無くだ。空気の流れで大よそわかって来たぞロゼルタ。まずは足を断ち、動けなくしてから手を切断し、身動き出来なくなった所で犯し尽くしてくれよう」
「寝言はそれくれーにしとけ、ゲロヤロー」

 リドが踏み込む。

 言うだけあってこの暗闇での戦いの間では最も速い動き。
 だがロゼルタの手前にはほんの少し、他よりも深い陥没部分があった。

 リドの動きを予測したロゼルタがそこに誘い込んだのだ。

「……!」

 見えないリドは見事にそこに足を取られ、バランスを崩す。

(かかった!)

 前のめりになったリドに飛び上がって踊り掛かり、爪を伸ばした左手を振り下ろす!

 だが。

 リドの剣が宙を舞う。
 振り上げられた剣は見事にロゼルタの左腕を肩口から綺麗に切り離した。

「あうっ!」
「可愛い声だ。お前が焦るから順番が変わったではないか」

 今度バランスを崩したのはロゼルタだった。リドに寄り掛かるように着地してしまう。

「お前から俺に飛び込んで来るとは。だが先に残る手足を斬らせて貰う」

 得意顔でロゼルタを抱くリドに対して右手を上げ、一言呟いた。

「ブラッドシュート」

 全てはロゼルタの計算通りだった。
 左腕を犠牲にしてもぎ取ったチャンスだった。

 ロゼルタの細かい所作が見えないリドは、たった3発の血の弾丸をまともに目に食らう。

「うがあっ!」
「今度こそ我が眷属になれ、クサレヤロー!」

 仰け反ったリドの体を離れない様に捕まえると犬歯を伸ばし、力一杯その首元に噛み付いた!

「ガフッ!」

 目を見開くリドの手から剣が離れ、サクッという音と共にロン=ドゥに突き刺さる。

 ダラリと力が抜けたようになり、今度はリドがロゼルタに寄り掛かった。

(やった! 捉えた! これでこいつはあたしに抵抗は……)

 ヴァンパイアの体液を入れられると豊穣のダンジョンでのダズがそうだったように、一時的に失神してしまう。

 だがリドの両の手がロゼルタの背中と尻に回った。

「なっ!」

 驚いてリドの顔を見ると半笑いを浮かべているではないか。

 急いで体を離そうとするが遅かった。
 リドの手はがっしりとロゼルタを抱き寄せ、空いている片手で尻を掴み、弄った。

「クックック。眷属になる真似はうまく出来ていたか?」
「テメー、なんで……抗えるはずが……」
「教えてやろう。王とは全ての者の上に立つ者を言うのだ。俺は覇王。吸血鬼の眷属になど、なる訳がなかろう。ア――ハッハ!」
「そんなバカな……」

 呆然とする。

 元々、一か八かの賭けだった。
 だがそれは噛み付けるかどうかの問題であって、噛み付けさえすれば眷属に出来る自信はあった。

「ククク。器が違うのだ。大人しくしろ」

 遂に万策尽きてしまった。

(チッ。仕方ねー。あたしはここで終わりだ)
(だが後にはノルト、アンナ、サラが……テスラもドーンもマクルルもいる)
(あいつらがきっと、仇を取ってくれる)

 そう考えヘッと笑う。

「あたしをどうするつもりだ?」
「言ったろう? 犯し尽くす、と」
「そうかい。ならふたりでロン=ドゥの栄養になるか」
「それもいいが……残念ながらまだ他に抱きたい女もいるのでな」
「ケッ。クソゴミが」

 話しながら魔素の回復を待っていた。

 自爆するのに必要最低限の量。

 少し溜まっていた魔素は先ほどの最後の攻撃に使ってしまった。

 髪を掴まれ、無理矢理口付けをされる。

 ロゼルタは拳を作り、リドの横腹を力一杯殴る。

「グッ……まだ諦めていないのか」
「たりめーだ。誰が黙ってヤラれるか!」

 いつものロゼルタらしく、強気な姿勢を変えない。
 だがおかしい。
 溜まるどころか魔素が抜けていく。

(ま、まさか!)

 ふと体を見ると腰回りにまたあのロープが巻かれていた。

「い、いつの間に!」
「フフ。さっき勝ちを確信したお前が俺を抱いた時に」

 眷属となったをした時にリドが撒いていたのだ。

 もちろんすぐに取ろうとするが、呆気なく右腕も斬り落とされた。

「さて。これでもうロープを外せないな」

 ニヤリとするリドを見てロゼルタの顔に絶望の色が宿る。

 咄嗟にロゼルタは後ろを向き、駆け出した。
 もはや彼女にはそれしか残されていない。

 が、すぐに何かに躓いて転ぶ。

 いや躓いたのではない。
 走り出したと同時に足首から先を斬られていたのだ。

 両手がない為、顔を背ける事しか出来ず、受け身も出来ずに転がった。

「く……そっ……たれが!」
「さ、これでお前は俺を気持ち良くするためだけに存在する、世界一俺好みの良い女だ。安心しろ、殺しはせん。なんなら ――」

 リドはロゼルタの背中に飛び乗る様に跨り、

「リルディアに持ち帰ってハルヴァラと共に交互に抱いてやってもいいぞ? ク……クハハハッ! それも良いな!」

 ロゼルタの額に癇筋が畝る。

 血管が切れそうな程の怒りと無力な自分に対する怒り、絶望が彼女を襲う。

 だが唯一の希望があるとするならば。

 ハルヴァラはまだ生きている、ということだった。

 それが直接リドの口から聞けたのは大きい。

(だが救い出すはずのあたしがこうなっちゃー……)
(すまねー、ハル)

 リドは一度ロゼルタから離れた。

「すぐには動けまい。がそのままではすぐに治癒しそうだからな。足は根本から斬らせて貰う」

 ロゼルタの顔から血の気が引く。

 万策尽きた後の自爆さえ許されず、逃げる事も叶わず捕まった。

(クソッ……タレぇぇ!)

 邪悪な愉悦の表情を浮かべるリドが剣を上段に構えた。








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