上 下
32 / 154
口の悪い魔人達と俺様ノルト

032.長い一日の終わり

しおりを挟む
 それから暫くして ――

 大部屋ではテスラとノルトに捕らえられたサキュバス2人が人の姿のまま、泣きながらロゼルタと抱き合っていた。

 エイミィとマァムはメルタノの生き残りだった。
 元々はサキュバスクイーン、クリニカの配下だったが、百年前に彼女が国を出奔した為にそれ以降はロゼルタの配下となっていた。

 リドのメルタノ侵略によって女王エキドナとロゼルタが殺される少し前、2人は他の住人や兵士達と共に、メルタノの三賢者のひとり、ハルヴァラによってロトス王国の辺境へと逃がされていた。

 そこから年月をかけてネイザール王国に渡り、大砂漠を越えセントリア王国までやって来た。
 その間に人間軍の襲撃などで仲間とは散り散りになってしまった、と語った。

(ハル……やっぱりあいつも殺されたのかなあ。今頃どうしているやら。あたしらみてーに復活してりゃあいいが)

 そんな事を思いながらふと気付くと、ふたりの泣き顔が目の前にあった。

「ロゼルタ様ぁぁ。よくぞ、お戻りをぉぉ」
「ううう……風の噂で亡くなったと聞いていましたのに……」

 2人の頭を撫でながら優しい笑顔でロゼルタが言う。

「すまねー、心配させたな。2人が生きていてくれて本当に嬉しいぜ」
「あの時、人間共は城の中まで攻め込んでいた筈。一体どうやって逃げ出されたのですか?」
「いや、死んだ」
「へ?」

 ふたりはキョトンとして顔を見合わせる。

「見事に真っ二つにやられたよ。マッカのヤローにな」
「マッカ……あの鬼畜ヤロー……」

 マァムが吐き捨てるように言う。

 リドのパーティのナンバー2といえる戦士、マッカ。

 色気狂いな所もそっくりであるが人間のリドと違い、マッカはハーフオークである。そもそも他種族の女は犯す対象でしかない。

 その力はパーティの中では最もリドに近いと言われ、当時、天下無敵だったリドも彼には一目置いていた。

 目当ての女性がかち合う事もあったが、順を決めてマッカとは反目しないよう、唯一、リドが気を遣っていた男だった。


「そ、それでは……どうして今は、その、生きておられるんです?」

 エイミィが小首を傾げる。

「まあ色々あってな。正確なところはよくわからん。が、あたしだけじゃない。お前をボコったテスラもそうだし、あと2人、ファトランテのドーンとデルピラのマクルルも生き返っている。今は別行動しているがな」

 お前をボコったテスラ、と親指で指され、腕組みして静かに聞いていたテスラがギロッと目をひん剥くとエイミィは小さく「ヒッ」と呻いて震え上がる。

 ロゼルタはその頭をポンポンと軽く叩くと、

こいつテスラは敵には容赦ねーからな。まあテメーが先に手を出したんだし、ちゃんと謝っておけ」
「は、はい。ごめんなさい」
「フン、二度とすんじゃねーぞ」

 テスラがそっぽを向きながら言った。

「マァム。テメーもノルトと……それとアンナにも謝れ」
「はい。その……お二人共、ごめんなさい」
「あ、いや、僕の方こそ……とても酷い事をしてしまって……本当にごめんなさい」
「何であんたが謝るのよ! フンッ。許してあげるけど、もうノルトに手は出しちゃダメよ!」
「はい。それは勿論」

 パチンと手を叩き、サラが嬉しそうに微笑む。

「はい! これで皆さん仲直り、ですね!」
「だな」
「ロゼルタ様。エキドナ様は?」

 マァムが言う。ロゼルタが生きていた今、最も気になるのはそこであろう。

 ロゼルタは少し考えて言った。

「今は詳しく言えねー。言えねーが……ま、安心しろ」

 マァムとエイミィの顔がパァッと晴れ、顔を見合わせ、泣いて抱き合った。

 その言葉でノルトはロゼルタが、この2人を旅に巻き込むつもりが無いと言う事を理解する。

 やがてエイミィは顔を上げ、目の縁を指で拭きながらロゼルタに言った。

「それで皆さんはこんな田舎町で一体何をされてるんですか?」
「ちょっと事情があってな。まずはネイザールへと向かおうと思っている」

 すると驚いた顔でまたマァムと顔を見合わせ、

「ネイザールへ……どうやって?」
「どうやってって、そりゃあ普通に国境を……」
「今、通れません」
「なに?」

 2人は話し始めた。


 砂漠の国ネイザール。

 国王はネイザール7世で、王子ハミッドと共に国民の信頼が厚く、メルタノが滅びた今、団結力は世界一と言える。

 ネイザール7世は30年前、人間界で唯一、魔界への侵攻にはっきりと反対の立場をとった。

 当時リドがいたラクニールから魔界ファトランテへと向かうにはどうしても途中、ネイザールを通らねばならない。

 ラクニールとロトスの軍勢を引き連れて行く事が出来なかったリドは仕方無くパーティでセントリア王国へと赴き、攻略軍を現地で借りて戦った。

 今はリルディアの国王であるリド=マルストとその一派を危険視しており、この数ヵ月の間に遂に彼の傀儡に近い西のセントリア及び東のロトスと国交を断った。

 ただ、ロトスに関しては古くからの付き合いと個人的な王族同士の仲もあり、僅かに必需品の交易を続けている。

 ロトス王国美貌の王女メイとハミッドは恋仲とも噂されている。


 黙ってその話を聞いていたロゼルタがようやく口を挟む。

「つまり国境の門は通れないと」
「はい」
「サラ。お前はどうやって渡ってきたんだ?」

 聞かれたサラは少し首を傾け、

「いえ、私はもう少し前に来ていましたので。普通に通れましたね」
「ふーむ、そうか」

 再びエイミィに視線を戻す。

「だがそれでは旅人が困るだろう? それにネイトナがセントリアまで来た。何か方法はあるだろう」
「ここからネイザールに行くにはふた通りしかありません。ひとつは飛竜ワイバーンで無理矢理行くこと、もうひとつは国境の門ではなく、山越え、つまり密入国です」
「ま、そうなるか」
「一気にロトスまで行くというなら、かなり遠回りになりますが、海から行くという手もあります。その場合はネイザールとロトスの南に広がるメルタノの大地を大きく迂回する事になりますが」

 メルタノと聞くと懐かしさが込み上げる。だが恐らくは魔界スルークと同じように、そこにもリド達の手が回っている筈だった。

「うーん。それは遠回りし過ぎるな。急いでいる訳じゃねーが出来れば飛竜ワイバーンでひとっ飛びと行きてー所だ。ネイトナがウィンディアに現れた早さからして、ヤローもそうしたはずだ」
「残念ながらこの町に飛竜屋はいません」
「だ――っ! 山越えしかねーか」
「ネイザールにはテイムされた飛竜ワイバーンや砂漠トカゲがいますので、越えてしまえば何とかなりますが、山には魔物だけでなくごろつきも多くてあまりお勧めはしませんね」
「まあごろつきぐれーどうってことはねーんだが……」

 そう言いながらふとノルトとアンナを見ると、2人とも疲れきった顔付きをしている事に気付く。

(ま、そりゃそーだわな)

 朝からウィンディアの研究所で戦い、ネイトナと戦い、夜になってサキュバスの洗礼を受けたのだ。まだ子供と言ってもいい2人が疲れるのも当然だった。

(ネイザールとの境にある山々はどれも標高が高い。山越えとなるとノルトとアンナの負担が大きいな)

 同じ事をサラも考えていたのかもしれない。そのタイミングで口を挟んだ。

「ドーンさん達が向かった王都の南であればかなり大きな飛竜屋がありますよ」

 少し驚いた顔でサラを見るが、性に関する事以外であれば彼女が抜群に気が利くのは既に証明されている。

「ちょっと戻る感じになっちまうがサラの助言通り王都の南へ行こう。そこから一気に国境を越える。それと……ロスを出てからずっと戦いっ放しだ。明日は休みにしよう」

 最後の言葉はノルト、アンナを見て言った。

「そうと決まりゃあ取り敢えず今日は寝ようぜ」

 テスラでさえ眠気に勝てないのか、言うが早いかゴロンと横になった。

 エイミィとマァムの2人はロゼルタに抱き着いて寝ようとしたが暑苦しいと許可が降りなかった。


 朝から暴れっぱなしの長い1日がようやく終わり、皆、すぐに眠りについた。

 眠気に抗い、必死にそれを待っていたのはノルトだった。

 むくりと起きだし、隣のアンナの頰を突つく。

 こちらもそれを待っていたかの様に、目をパチリと開く。布団から顔の半分だけを出して恥ずかしそうにノルトを見上げた。

(みんな寝たよ)
(うん)

 小声でこそこそと囁き合うと見習いの暗殺者の様に音を立てない様にゆっくりと扉へ向かい、時間をかけてそれを開け、注意深く両手で閉めた。

「ふぅぅぅ」
「ノルト……行こ?」
「うん。行こう」

 2人で微笑み合うと屋上へと向かった。

 彼らは気付かなかったが、部屋の中ではロゼルタが片目を開けてその様子を見送っていた。

 が、口の端を少し上げ、

(明日が休みになったから元気が出たか? 夜更かしも程々にな)

 そのままゴロンと横向きになり、やがて寝息を立て始めた。









しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

隣の人妻としているいけないこと

ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。 そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。 しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。 彼女の夫がしかけたものと思われ…

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

私は何人とヤれば解放されるんですか?

ヘロディア
恋愛
初恋の人を探して貴族に仕えることを選んだ主人公。しかし、彼女に与えられた仕事とは、貴族たちの夜中の相手だった…

13歳女子は男友達のためヌードモデルになる

矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。

連続寸止めで、イキたくて泣かされちゃう女の子のお話

まゆら
恋愛
投稿を閲覧いただき、ありがとうございます(*ˊᵕˋ*)   「一日中、イかされちゃうのと、イケないままと、どっちが良い?」 久しぶりの恋人とのお休みに、食事中も映画を見ている時も、ずっと気持ち良くされちゃう女の子のお話です。

先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…

ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。 しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。 気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…

令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました

フルーツパフェ
大衆娯楽
 とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。  曰く、全校生徒はパンツを履くこと。  生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?  史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。

処理中です...