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口の悪い魔人達と俺様ノルト

030.カーリアの町にて

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 ノルト達はヒエラルド領東部にある領都から南に4日ほど歩いた所にあるカーリアという町にいた。

 人口は数千人で何かを名産にしているというよりは、ここを通る旅人へのサービス業で成り立っている町だった。

 従ってどこの店も開いてはいるが、人の影はまばらだ。


 最初、領都ヒエラルドに転移しようかと考えていたサラだったが、足がつきやすいか? と考え直し、敢えてカーリアの町に転移先をセットした。

 ドーン、マクルルと別れて5人となった彼らは足早にそこから離れ、どこへともなく歩き出す。

 土地勘のないロゼルタとテスラだったが、幸い半年程前にこの辺りを旅していたサラが先頭となって進む。

「ドーン……ドーン!」

 辺りを気にしながら、交信の指輪に向かってロゼルタは小声で話す。やがてドーンの、

『儂じゃ。お前達、無事か?』

 心配そうな声が返ってきた。ホッとひと息をついたロゼルタは、少し笑みを湛え、

「ああ。テスラがやっちまったがな。まああの後ラドニーまで来たからな……仕方ねー。いやむしろこいつのお陰で皆、無事だ」
「俺よりはサラだな」
「いえいえ。テスラさんの覚悟ありきですよ!」
『クックック。そうかそうか。取り敢えず良かった。ところですぐにネイトナから追われるかと思うたが、来んな?』

 ドーンの危惧はそのままロゼルタ達も同じだった。だからこそ彼らは急いで転移装置ゲートから離れているのだ。
 とにかく姿さえ視認されなければそうそう見つかるものではない。

「あたしもそれは思った。サラ、何か仕掛けが?」

 サラは待ってましたとばかりにニコリとし、

「はい。実は風の精霊シルフィスの力を借りて転移装置ゲートの番兵さんにちょいと暗示をかけています。私達が転移装置ゲートを使えたのもそれのせいですね」
「成る程。さてはあたしらが転移した先を……」
「はい。私達は皆、ミニスロームの中部に転移した、と認識させています。従って彼らから行き先を聞き出した筈のネイトナは今頃、全く違う土地に行って必死に探してると思いますよ」

 自慢げに鼻を膨らませるサラをロゼルタが力一杯抱き締め、その頭を撫で回した。

「大した奴だテメーは。敵でなくてほんと良かったぜ」
『全くじゃ……とはいえ、そこにいないと分かればいずれ捜索の手は広がろう。早めに場所を変えた方が良いな」
「その通りだ。そろそろ交信を切るが、気をつけろよ」
『ああ。お前達もな』


 それから暫く歩いた彼らは、サラの「まずは皆さん、服装を変えましょう」の提案によってハンターや冒険者達が訪れそうな店へと入り、総着替えをした。

 気休めにしかならないが、最低でも遠目で分かる様な事は避けたかったのだ。

 ロゼルタは可愛らしいミニワンピースから、鎧代わりのコルセットと長袖のシャツ、下はホットパンツと膝下のブーツといった姿に変わった。

 テスラは盗賊の様な衣装から、上下、黒の布の長袖長ズボン、革のベルトとブーツとかなり目立たない、冒険者の様な出で立ちとなった。

 ノルトはあまり変わらなかったが、革から軽い布のベストに変え、白のインナーシャツと半ズボンとし、少しお洒落なノームといった格好だ。このコーディネートはアンナだ。

 そのアンナもあまり目立たないものを選び、コルセット以外はほぼロゼルタと同じシャツとホットパンツとしたが、その上から魔道士よろしく、薄い茶色のローブを纏った。

 最後にサラはエルフである事を隠しようが無い為、逆に不自然にならない様、服装は殆ど変えず、短い丈のワンピースにブーツのまま、色だけを緑主体から茶色に近い橙色に変えた。


 それからも歩き続けた彼らはもうかなり町の外れの方にきている。

 道中、研究所でのの話になり、エキドナ、ネルソと話をした事、そしてエキドナが言っていた『今の貴方は4人の魔王と同一人物』という話をする。

 それには真っ先にテスラが目を輝かせた。

「そいつはすげーな。つまり魔王様を発現させる事なく、あの方々の能力が使えるって事だろ!?」
「そうなんですけど、全ての力を使えるまでにはまだまだだとも仰っていました。それにオーグ様とランティエ様もまだ寝ていると」

 ロゼルタもその話には興味津々だ。

「そうかそうか。つまりリドを倒すのにお前の成長が必須だという訳だな」
「え」
「フッフッフ。そりゃあそうだろう。今のあのヤローにはきっとあたしら4人がかりでも敵わねー。そこでお前、そしてアンナだ」
「ふんふん……は? 私!?」

 突然自分に飛び火して慌てる。ロゼルタは軽く笑い、

「お前もあたしらにはない、素晴らしい力を持っている。あのヤローに辿り着くまでにはまだ猶予がある。頑張って強くなってくれよ?」

 アンナは口を結び、むーと黙り込む。

 方やノルトは真剣な表情で少し頬を紅潮させてロゼルタを見上げ、小さく頷いた。人から必要とされるというかつてない経験に戸惑いながら。

 アンナとノルトを両脇に抱え、先程サラにしたのよりももっと派手にロゼルタが2人の頭をくしゃくしゃとかき混ぜる。

 アンナは「や、やめてぇぇ」と言っていたが彼女は容赦しなかった。

 困惑しながらも少しはにかんでロゼルタを見上げるノルトを見て、またも彼女の心の奥底でキュンとくるものがあった。

(うっ、ヤベッ。まただ。一体何なんだ?)

 困った様な、照れている様な、何とも言えない表情をするノルトを見ていると目茶苦茶に抱き締め、思い切りくちづけしたくなる。

 こんな事は齢六百を越えるロゼルタでも初めての事だった。

(チッ……こりゃあ勘違いじゃねー。やっぱあたしはノルトに惚れてしまったか)

(ダメだ。我慢するんだ。人間のノルトには人間のアンナがお似合いだ)

 全く違う方向で理解し、自分に言い聞かせる。

(ドーンがいりゃあ相談出来るんだが……)

 そう思いながらチラッとサラを見る。

「?」

 ロゼルタの視線に気付き、ニコッと笑う。

(こいつはダメだ。仲間としては頼りになるが、としてはどこかネジが飛んでいる)

 そんな酷い事を思われているとは露しらず、

「さて、ここがこの町で一番端っこの宿です。今日はここで一泊しましょう」

 ガイドの様に少し年季の入った建物を手のひらで指した。










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