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口の悪い魔人達と俺様ノルト

025.俺様ノルト(6) 世にも珍しい力

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「なんだテメーら。たった2人で俺らとやろうってのか?」

 ずっと黙っていたテスラがニッと笑いながらミランとゼルモアに言う。

 まさに一触即発。だがその状況を作り出した張本人のラドニーが、まあ待てお前達、と手を広げ、取りなす様に口を挟んだ。

「実の所、お前達には死んでほしくない。どうだ、私の仲間にならんか?」
「仲間に? そうだな……」

 ロゼルタが少し考えるフリをする。

「何の為にここで合成魔物キメラなんぞ作っているのか、それを教えてくれたら考えよう」
「本当か! そんなもの、教えてやるとも!」

 あっさりラドニーが乗ってきた為、一瞬拍子抜けしたロゼルタだったが、ミランがラドニーの前に立つ。
 
「絶対にダメです」
「え、何故だ?」

 それに答えたのはミランではなく、ゼルモアだった。

「リド様の怒りを買いますぞ」

 その言葉を聞くとラドニーはブルブルっと震え、

「そうか。そうなるのか。そりゃいかん。残念だが教えられん」

 両手で自分を抱いて首を振る。

 ロゼルタはそのやり取りを睨む様に見ていたが、やがてフッと笑うと、

「そうかい。じゃ、まあここに興味も無くなったし、帰るとするか」
「そうはいかん」

 ゼルモアが一歩前に出る。

「先程ロスのネイトナ将軍からお前達の身柄を拘束しておく様にと連絡があってな。あの方が帰るまでここにいて貰おう。なに、もう間も無く戻ってくる筈だ」

(チッ、ネイトナか。今、奴とやるのは避けたい)

 そう思ったロゼルタだが勿論そんな事はおくびにも出さない。

「嫌だと言ったら?」
「貴様らに選択権は無い」

 刹那、ゼルモアの全身から噴き出す、薄い赤の霊気オーラ

 だがロゼルタは微動だにせず、

「いーや、好きにさせてもらう」

 腕を組んだまま、きっぱりと言い切った。

 ハラハラしながら行方を案ずるノルトは、(もし戦いになったら、絶対にアンナを守ろう)と、以前テスラに言われた様に、、と考えた。

 ゼルモアはフンと鼻先で笑った後、少し屈む。直後、高く飛び上がり、ベッドやテーブルなどを一気に飛び越え、雄叫びを上げながら躊躇無くテスラの顔面を真っ二つにせんと振り下ろした!

 だがそれは微動だにせず睨み返すテスラの顔寸前でピタリと止まる。

 丸みを帯びた大剣が斧の刃に交差し、見事にそれを止めていた。

 マクルルだ。

 自分の重い振り下ろしを軽く受け止めた彼を見てゼルモアはニィィと笑う。

「俺の相手はお前か? ま、全員でも構わないがな」
「……」

 斧を構え直したゼルモアが誘う様にサッと横に移動するとマクルルも同じように動く。

 一気に開けたテスラの視界に迫っていたのはミランの槍の穂先だった。

 それは恐るべきスピードでテスラを襲う!

 テスラの剣が下からそれを薙ぎ払い、弾く。耳をつんざく剣戟音がした次の瞬間、弾いた筈の穂先が空中で消える。

「!」

 気付くと何本ものの穂先が眼前に迫っていた。それはミランの息をも吐かせぬ連続攻撃、その穂先の残像だ。

 テスラの額からツーッと細く赤い筋が両鼻筋へと伝う。だがそれを気にも止めず、彼は少し下がって間合いを取るとニヤリと笑った。


 その2人の後ろでラドニーは、マクルルとテスラが想像以上に強い事に顔を綻ばせた。

「ミラン、ゼルモアとれるとは、益々気に入った。ほんとは研究所ここで暴れてほしくはないが……まあ合成魔物キメラは無事完成したし、また他の場所で研究を続けるとするか」

 ブツブツとそんな独り言を言うと先程メイルゥと呼んだ、筋肉の標本の様な合成魔物キメラの鉄格子を開き、全て解き放つ。

「よし。行けっメイルゥ! 標的はあそこにおる奴ら全員だ。半殺しで捕まえろ」
「キッシャアアアッ!」

 10体の合成魔物キメラが思い思いに吠えた。

 ノルトとアンナがその光景に戦慄する。その合成魔物キメラ達は4本の足を器用に沈ませ、次々にノルト達へと襲い掛かった。

「アンナ!」

 アンナを背に庇い、矢面に立とうとするが相手は10体。一瞬で四方八方から取り囲まれる。

「う、うう……」

 この時アンナは怯えてノルトの背中にしがみ付いてはいたがずっとある事を試していた。

(ダメ……やっぱりこいつらには。でもきっと……何かある筈。私の奇妙な力が……)

 ロゼルタは太腿から短剣を取り、ノルトとアンナに近付こうとする合成魔物キメラを牽制しながら「おい」とドーンに呼び掛け、目で合図を送る。名前を呼ばないのはラドニー達に知られたくないからであろう。

 旅人らしからぬ服装のドーンは武器を持っていない。襲い掛かる合成魔物キメラをヒラリと舞う様に避け、ノルト達の方へ向かわない様に突き飛ばしたり、足を引っ掛けたりしながら、ロゼルタに頷き返す。

 その時だ。

『大ピンチじゃないか、ノルト』

 それはいつも大ピンチだと言いながら現れる、魔導王ネルソ=ヌ=ヴァロステの声だった。

 今までと違うのは、時の流れがスローになっていないという事だ。そして3度目ともなるとノルトも慣れて来る。
 その声は剽軽ではあるが、その力は頼もしいなどというレベルではない。だが今、かつてのリドの仲間、クリニカの弟子という明確な敵がいる中で彼を顕現させる訳にいかない。

(そ、そうなんですけど今はダメです)

『え? 呼ばないのか? 余を』

(今はちょっと)

『ふーん』

 そんなネルソの少し不満げな返事を最後にノルトがふと我に返ると、ラドニーがまた嬉しそうに叫ぶ。

「頑張るなあ。アッハッハ! さああ、まだまだ行っくよぉぉ」

 壁に何本も垂れ下がる紐を選りながら鼻歌を歌う。これだこれ、と言いながら一本の紐を引いた。

 ギギギ、と音を立てながらノルト達に最も近い牢の鉄格子が独りでに開いていく。

「どう? 何気に凄くないかい? この紐を引くと屋根裏でグールが現れて鉄格子を引っ張るんだよ。名付けてラドニー様特製呪術式自動扉!」

 だがそんな自慢話など聞く者は誰一人いない。

 その牢に閉じ込められていたのは3体のミノタウロス。それと気付いたノルトの背筋が凍る。ラドニーは合成魔物キメラに加え、魔物まで解き放ったのだ。
 彼らは低い唸りを上げ、狭い檻に入れられた鬱憤を晴らすべく斧を振り回し、ノルトに向かう。

「任せてノルトッ!」

 それは頼もしいロゼルタの声、ではなく、なんとつい今の今まで彼の後ろで震えていたアンナだった。

「魔物が出て来るのを待ってたわ! 今度こそ!」

 魔法も使えない筈のアンナが迫り来る猛牛の魔物に手のひらを向けると大声で叫ぶ。

「来ないで!」

 え……? とノルトは思った。突然出て来てアンナは何をしているのだろうか。恐怖でおかしくなったのか? 魔物にお願いをした所で……とゴクリと唾を飲み込む。

 が、突然ミノタウロスは咆哮を止め、斧を肩に担いだまま、アンナを見てどうしていいかわからないといった感じで首を傾げた。その牛の顔には先程までの怒りや戦意は感じられない。

「や、やったわ!」

 狐につままれたような顔をしたのはノルトだけではない。ロゼルタとドーンも怪訝な顔付きをしたが、最も困惑していたのは魔物を解き放った当のラドニーだった。

「なんだ? 一体、どうした?」

 彼女は首を傾げ、「魔法が切れたか?」と言いながら口の中で小さく呪文を唱え、

「『アリオンダッチの大統率』!」

 と一際大きな声でミノタウロスに向かって魔法を発動した。

 ピクリと何かに反応した彼らがウオォォと、聞く者が総毛立つ様な低い咆哮を放つ。再び斧を構え、ノルト達に襲い掛かった!

 が、今度もアンナは怯まない。

「止まりなさい!」

 少し不安げな所もあった先程とは違い、凛とした声で叫ぶ様に言う。
 するとその声でミノタウロスはまたピタリと動きを止める。彼等を睨みながらアンナは更なる命令を下した。

「この合成魔物キメラ達をやっつけなさい!」

 アンナの言葉に一瞬間を置いて小さく吠えると、なんと彼らはクルリと合成魔物キメラの方へと向きを変え、ノルトに飛びかからんとしていた1体を後ろから斧で切り裂いた!









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