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第6章 魔獄
救出(1)
しおりを挟む祭壇の洞窟から広場に戻り、改めて最も大きな洞窟に突入、そのまま5日間、道なりに進む。
すると最初の広場ほどでは無いが、また大きな広場に出る。
そしてそこに蠢く、万はいると思われるモンスター達!
「うう……う……」
ナディヤが自分を抱き、嗚咽を漏らす。散々修行でモンスターを見てきた俺でもこの光景は恐ろしい。クラウスとアデリナ、リディアまでもが息を飲む。
だが、オレストとリンリンは全く表情を変えていない。なんて頼もしい奴らだ。
「凄いな。ここって海の底の更に下だろ? こんな広さの世界が広がっているなんてな……」
オレストが感心する。
言われてみればそうだ。ここは海の底の下の世界だ。
それを忘れて天井に穴でも開けてしまったら、俺達は全滅だ。想像すると寒気がする。
「うむ。それを考えるとあまり派手な魔法は使えんのう」
目の前に開けた広場に群れる、数万の大型モンスター、それを眺めながらリンリンが少し悩む素ぶりを見せる。
「う―ん。でも、多少は大丈夫でしょ? 今まで踏破した人達は何人かいたんでしょうから。こんな規模の群れを大人しい魔法だけで通り抜ける事が出来ると思えないわ」
洞察の優れたリタに、
「かも知れないな。ここは多少、いや、かなり頑丈に出来ているらしい」
横の壁をコンコンと叩きながら返す。
「ふむ。じゃあ、間をとって大人し派手目の奴で行こうか」
そんないい感じの召喚魔法があるのか。
召喚って凄い。俺も覚えたい!
「獅子の頭を持つ神よ! 最強の焔を持って全てを焼き尽くせ…… 『獅子頭神』!」
リンリンの体にオレンジ色のオーラが発現し、呼び出しに応えて現れる召喚獣。
リンリンによると獣だろうが、人型だろうが、召喚によって呼び出す対象は全て召喚獣と呼ぶのだそうだ。
今まで見た戦闘用の召喚獣の中では比較的小さい。
体長は4、5メートル、獅子の頭をしているが、人型で、上半身は裸だ。
胸が突き出ている所を見ると性別は女性か。
下半身は真紅の巻きスカートに素足、という色っぽい(顔は獅子だが)格好で両掌を合わせて出現した。
ゆっくりと顔を上げ、何を言っているのかわからない呪文のような何かを呟くと、ヤッと両手を前に押し出す。
ゴォォォォォォォォォォォォォォォッッ!!
その掌から紅蓮の炎が巻き起こり、指向性を持ってモンスター群に襲いかかる!
ウォォォォォ!
ウガァァァァァァ!
ニィェェェ!
まさに阿鼻叫喚、数万の大群が焼かれる様は地獄絵図だ。
これだけの炎を前に、不思議と俺達の方には熱風が届かない。召喚獣の効果の対象は術者が指定しているらしいが……実に不思議だ。
「マッツ! やはり、獅子頭神では殲滅しきれんらしい」
「ああ。皆、ビビるな! 俺達も行くぞ!」
―
30分程、戦い続けると見る間に数が減ってくる。
ヒムニヤの言うことを聞いて、しっかり修行してよかった。とてもじゃないが、あの時の俺達が戦えるレベルの相手、そして数じゃない。
全てはタイミング、と考えると、リンリン、オレスト、そしてディヴィヤ達は、あの半年が無かったら出逢えてなかった可能性が高い。
「あらかた、終わったわね……フゥ……」
さすがのリタも肩で息をしている。
一体一体が途轍も無く強いからな。前衛には辛い。
「後ろも終わったよ!」
アデリナの声だ。
彼女が持つ『ペルセウスの弓』も、リタの2本の聖剣に負けず劣らず、凄まじい性能だ。
弓なのに範囲攻撃が出来る。
威力をコントロール出来るため、こういった多数の敵が相手の場合でも非常に有効だ。
この聖剣と魔弓も、あと半年早く出発していたら手に入らなかった筈だ。
そう考えると本当にヒムニヤ様々だ。
帰りに必ず会いに行こう。
―
唐突に4本の分岐にぶちあたる。
しかも、自然なものではない。
洞窟内だと言うのに、4ルートそれぞれに扉がついており、ご丁寧にラベルが貼ってある。
再び、『探訪者』ヘネ・ルード様のお世話になる事にする。
リンリンが可愛らしい声で朗読を始める。
―――
『魔力の暴風域』への道を進むと4つの扉がある広場に突き当たる。
この奥に鍵のついた門があり、ルートとしてはこれで正しい。だが、門の鍵を開けるためには4ルート全て踏破しなければならない。
これまでに進んで来た洞窟ほど広くはなく、戦闘が発生するため、徒歩での移動を推奨する。2日ほどで通り抜けることが出来る。
それぞれのルートは踏破した後、一定時間が過ぎると閉じてしまうため、おおよそ同時に踏破する必要がある。
従ってパーティを4分割して挑まなければならない。
門は全ルートが踏破されると、しばらくは出入り自由となるが、いずれまた通れなくなる。この期間は半年ほど続くのでは、と思われる。
4つのルートそれぞれに独自の特徴があり、筆者は2度、ここを訪れたが、その内容は全て異なっていた。これもある一定の期間で変わるのであろう。
特徴については、扉の上にあるラベルプレートに、神の文字で内容が書いてある。
手の込んだ事に、人が入るたびにランダムで魔力無効となるルートがある。従って、分割した各チームには、必ず1人、物理攻撃が出来る者を配置する事。
このような複雑な作りの洞窟など、地上には存在しない。
創造神の誰かの趣味ではないか、と思われる。
―――
……
ここを踏破しようとする人間を見て楽しんでいるのか?
なら、間違いない。
ここを作ったのはミラーさまだな。
ミラーさまの一部であるエルトルドーも、俺達とヘルドゥーソの戦いを楽しんでいるようだった。
しかしまあ、ヘネさんの言う通り、手の込んだ事だ。
「リンリン、確かに扉の上に何か書いてあるよ。読める?」
「まあ、読めるが……マッツも読める筈だぞ?」
リンリンが小首を傾げ、そう言うので、もう一度ちゃんと見てみると……
なるほど。あんな文字は知らないのに……読める。
これも『神視』パワーか。
「本当だ。え……と、左側から1、2、3として、言うぞ」
ルート① 『暗闇』
ルート② 『モンスター』
ルート③ 『平坦→』
ルート④ 『←困難』
そう書いてある。
3と4の意味がよく分からないが……
「じゃあ、そういうことだからパーティを分けようか」
まず前衛4人を分ける。これは問題ない。
「ちなみに、どのルートに行きたいとか、希望ある?」
「……」
まあ、そうだろうな。
「じゃあ、俺が分けるぞ。まず最初のルート『暗闇』だが、多分、真っ暗なんだろ? 取り敢えず『光弾』の霊符を使いながら行くか。これは俺が行こう。後は……」
「暗闇なら私が行くわ」
ラディカが名乗りを上げる。
「わ、私もッ!」
ディヴィヤが急いで後を追って挙手する。手を上げる所が可愛い。
「うん……夜目が効く、この2人だな」
ラディカとディヴィヤをルート①の扉の前に並ばせる。
「次は2つ目のルート、『モンスター』だな。モンスターの巣窟のこの地底で『モンスター』とつける位だ。これは相当な覚悟が必要だな」
「俺が行く」
こういう時、真っ先に立ち向かう男、ヘンリック。
頼もしい奴だ。
「よし。じゃあ、リンリンにも行ってもらおう。頼りになるマメもいるしな」
ヘンリックとリンリンをルート②の扉の前に立たせる。
「後は『平坦』と『困難』か……矢印が気になるが……」
オレストがにやけながら、
「しょうがねぇ。『平坦』は俺が行ってやるよ」
そう言うと、
「ええぇぇ!?」
「本気で言ってるんですか?」
「うわぁ……」
非難轟々、一斉に軽蔑のまなざしが突き刺さる。
「フフ。オレストらしいわね。まあ、別にいいわよ。じゃあ、『困難』は私ね」
さすがは大人の女性、リタだ。こんな所でもめていてもしょうがない。いずれにしても、誰かがどこかに行かないとダメなんだ。
これで前衛の振り分けが終わる。
「オレストの所は1人でも良さそうだが……」
「いや、おい、さすがにそれはないだろう!!」
あわてて俺に突っかかってくる。
「冗談だよ。だが、荷駄のオルトロスはお前がひきとれ。ナディヤもついていってやってくれ」
「わかりました!」
いつの間にか、ナディヤが敬語になってるし……本当に神様扱いか。
そして、まったく……とブツブツ言いながらルート③の扉に向かうオレスト。
「後はクラウス、アデリナ、リディアだな。皆、リタの所でもいいんだが……」
少し考える。
「万が一、リタの所が魔力無効だった場合、2人で2人を守る必要が出てくる。前衛としてはリタだけだし、只でさえ『困難』と宣言されているのにそれはきついかもしれないな……うん。リディアはオレストの所だ」
「わかったわ」
これで振り分けが終わった。
ルート① 俺、ラディカ、ディヴィヤ
ルート② ヘンリック、リンリン、マメ
ルート③ オレスト、リディア、ナディヤ、オルトロス2頭
ルート④ リタ、クラウス、アデリナ
よし。
「入ったらすぐに魔力が効くか確認しろ! 皆、行くぞ!!」
「「「おお―――ッッ!!」」」
少し、ミラーさまのお遊びに付き合ってやるか。
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