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第4章 聖武具
喜劇「親子の絆」と魔弓(1)
しおりを挟む2日後の朝、予定通りにマリー島に着く。
船旅の間、ずっと『世界の眼』が見えており、気味悪い事、この上なかったのだが、なるべく気にしないようにして過ごしていた。
結局、声もあの一度だけだったし、本当に聞こえたのかどうなのかも非常に曖昧だった。
「う―――ん! ニヴラニアのように人で賑わう所もいいが、こののどかさも良いのう!!」
両手を上げてリンリンが笑顔で叫んでいる。
ここ、マリー島は、活気溢れるエイブルやニヴラニアと違い、ちらほら店が見えるだけで、ランディアのような田舎っぽさがある。
港から近くに村があるようだが、それより遠くとなると山、山、山……な感じだ。
「ほんとね! 素敵な所だわ! どことなくランディアに似ている気がするもの!」
リディアも気に入ったみたいだ。
そして―――
「ではリンはこのまま、ファンジア行きの船に乗る事にする。何回も飯を奢ってもらってすまなかったの。この礼は必ずしよう。皆、達者でな!!」
「ああ。お前の方こそ、気をつけろよ!? いい大人ばかりじゃないからな!」
「バイバイ、リンちゃん! またね!」
そうしてリンリンはファンジア島行きの便に乗り、行ってしまった。
意外にあっさりした別れだったが……。
俺も含めて、皆、方向が同じという事で、どこかで、また会えると思っているんだろう。
―
「さて……アデリナ。お母さんの家、どこにあるか知ってる?」
首を振るアデリナ。
そりゃそうだろうな。
行った事がないんだから。
「じゃ、ボチボチ探しながら行こうか」
アデリナのお母さん。名をダニエラ・アルムグレンという。アデリナの苗字、ズーハーはお父さんの苗字だな。
アデリナが言うには、自分と同じ金髪、碧眼で、まだまだ若くて美人さんとの事らしい。
会うのが非常に楽しみだ。人妻だけど。
もうラシカ村を出て3年程になるが、時々、手紙が届いていた為、実家に帰る途中で何かに巻き込まれたとかそういった危惧は無いらしい。
道を歩き通りすがる人に名前を出して聞いてみると、すぐに知っている人を見つける。
どうやらダニエラさん、かなり良い所の娘さんらしい。
アルムグレン家というのはマリー島でも指折りの地主さん、いわゆる豪族という事だった。
家はあの山の麓にあるよ、と教えてもらった方角へ行ってみる。
そこに辿り着くまでには、のどかな田舎ながらも綺麗に整備された道があった。
アルムグレン家の財力の為せる技かもしれないな、なんて事を思いながら歩いていると、前から女性が1人、肩を落としながら俯いて歩いてくる。
茶色の肩掛けに白の襟付きシャツ、茶色のロングスカートという出で立ちで、仕事に疲れ切ったというオーラをガンガンに出している。
「お母さん!!!!!」
アデリナが叫んで駆け出す。
えっ?
あの人がお母さん!?
まさかこんなに早く会えるなんて。
探し始めて1時間もたっていない。
そして……なんか、イメージと違うぞ。
勝手な想像だが、アデリナのお母さんなら、元気一杯、はち切れんばかりの笑顔を振りまく女性だろうなぁ~なんて考えていたのだ。
「……!? ア…………アデリナ!!!」
駆け寄るアデリナに驚く女性。
アデリナの名前を知っているという事は、つまりアデリナのお母さん、という事で合っているんだろう。
「うわ――ん!! お母さん! 会いたかったよう!!」
「アデリナ……どうしてこんな所に……私も貴女に会いたかった……」
抱きしめ合い、そのまま二人共、道の真ん中で座り込んでしまう。
ダニエラの方が頭半個分背が高く、アデリナがダニエラの胸に顔を埋める。
アデリナはもう目が真っ赤、号泣だ。
だがダニエラもボロボロ、大粒の涙を流している。
そろそろとアデリナが顔を上げると、ふと首を傾げる。
「お母さん……どうしてこんなに、やつれてるの……」
両手でダニエラの頬を挟み、マジマジと顔を見つめる。
「ごめんね、でも大丈夫なのよ? ……ところで、こちらの方々は?」
俺達を見て不思議そうな顔をする。
「あのね、お母さん。手紙にも書いたけど、私、ランディアの守備隊に入ったんだ」
「ああ、そういえば……書いてたわね。1通は兵士になった、もう1通は何かのタネを探しに行くとか……」
「うん! で、この人は守備隊の偉い人で、マッツ・オーウェンっていうの。私の恋人なのよ!」
「「え!?」」
俺とリディアが綺麗にハモる。
ダニエラはまぁ……と言いながら立ち上がって、頭を下げる。
無論、俺も頭を下げる。
「他の皆も同じ守備隊の人で、私の先輩なの。リタさん、ヘンリック、クラウス……この人はリディア。マッツの1人目の恋人なの!」
「「ええぇ!?」」
またもや、以下同文。
そして同じようにまぁ……と言いながら、リディアにも頭を下げる。
アデリナの意表を突いた発言に、あ、え、どうもリディア・ベルネットです……と中途半端な挨拶をしながら頭を下げる。
「こんなとこじゃ何だし、アデリナ、家に行きましょう」
「え、でも、どこか行く所だったんじゃないですか?」
気になったので口を挟んでみた。
こっちに向かって歩いて来ていたしな。
「ああ、大丈夫ですよ? ちょっと息抜きに海でも見に行こうとしていた所です。特に用事もなかったので。アデリナが来てくれたのなら、おじいちゃんやおばあちゃんも喜ぶわ」
「おお! おじいちゃん、おばあちゃんかぁ! 初めて会うなぁ」
ダニエラは、言葉とは裏腹に少し寂しそうな顔をした気がする。きっとアデリナも気付いているだろう。
聡い子だしな。
「じゃあ、アデリナ。皆でお邪魔しに行くか」
「……うん!」
そう言いながら、アデリナが俺の腕をグッと掴む。
不安なんだろうか。
思っていたような、手放しのハッピーな再会で無かった事は確かだ。
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