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第4章 聖武具
新たな出会い(1)
しおりを挟むモロンハーナ、ラッドヴィグ及び商業ギルド、闇ギルド……3日間で、手は打った。
後はそれぞれの主だった奴らが進めてくれるだろう。
ボルイェを始めとした護衛達をどうしようかという話にもなったが、みんなの戦った内容を聞き、放っておいても仕返しに来るような感じでは無いと判断して放置する事にした。
特にあいつらに恨みがあるわけでもないし、大元のラッドヴィグを社会的に再起不能にした事で一件落着だろう。
そしてアデリナ。
洞窟から出る前に急に騒ぎ出し、どうしてもラッドヴィグの持ち物で欲しいものがある、と言い出した。
―――
アデリナ『フロスト! 私、あれが欲しい!!』
俺『フロスト!? あの、部屋で寝っ転がってたゴーレムか?』
クラウス『そういえば、戦闘中、ずっと可愛い、可愛い、言ってたね……』
アデリナ『いいでしょ?』
俺『いいでしょっつったって……コンスタンティン、どうにかなるものなの?』
コンスタンティン『そうだね……召喚、出来るかもしれないね』
アデリナ『うお―――ッッ! やった!!』
フロスト『ギギ……ヨンダカ?』
全員『うおぅ!!!!』
アデリナ『ごめんね、撃っちゃって。取ってあげるよ』
フロスト『ギギ……タノム』
……スポン……
フロスト『トレタ……アリガトウ』
アデリナ『ねぇ、あんた、ラッドヴィグの家来なの?』
フロスト『ギギギ……オレ、ショウカンサレタ』
アデリナ『ぅおい、コラ、エロデブ! 私に召喚するヤツを寄こせ!』
ラッドヴィグ『うぇぇ! は、はい、これです……』
―――
そんなこんなで、何と『巨人フロスト』が味方として俺達に加わる事になったのだ。
とはいえ、彼は召喚されなければ出てこない。
まあ、それなら旅のいく先々で驚かれる事もないだろう。アデリナが言うだけあって、なかなかいいヤツそうだし。
そして、目まぐるしく働いた3日間が終わり、ようやくゆっくりと、落ち着いてコンスタンティンと話す機会を得た。
ここはニヴラニア島の、とある酒場。
メンバーは俺達のパーティとコンスタンティン、エッカルト。
「かんぱーい!!」
久しぶりの再会。
しかも聞けば、かなりリタとリディアが危ない所だったと言う。
「ほんと、危なかったわ。ありがとう、コンスタンティン」
リタがもう一度、カチン、とビールジョッキをあてて礼を言うと、コンスタンティンが可愛らしい笑顔でそれに応え、ワイングラスを口に運ぶ。
「そもそも……ランディアの王都で別れてから、どうしてたんだ?」
「元々、僕は世界を放浪しているだけで旅の目的はあまり無いからね。君達が北に向かったから南に向かったのさ」
「てことは……ランディアから、修羅大陸に行ったんだな」
「そうだね」
そう言いながら、リュックから地図を出す。
世界地図だ。
「修羅大陸にあるノゥトラスで、エッカルトと一緒に1つダンジョンを攻略したんだ。ちょっと僕1人だと厳しいところがあってね。その時はまだエッカルトも僕と話をしてくれず、むしろ、隙あらば、と僕を狙っていたんだが……」
へへへ、と頭をポリポリとかくエッカルト。
「そういや、お前の舌、治ってるな」
ハンスとエッカルトが睨み合っている中、ヘンリックが横から頰を刺し、舌を抉った事でこいつは魔法が唱えられなくなっていたはずだった。
「ランディアを離れてすぐ、先生に治してもらったよ」
ボソッと言うエッカルト。
「まあ、さすがに君達の前で治すのもどうかと思ってね」
ワインを口にしながらそう言うと、クラウスが口を挟む。
「コンスタンティンさんって、ツィ系統なのでしょうか?」
「え? いや、系統で言えば……全系統、かな」
「ひっ!! 全系統!!」
驚くクラウスに、
「二百年以上生きてたら、覚える時間も腐るほどあるからな。クラウスも長生きしろよ?」
そう言うと、ポカーンと口を開けるクラウス。
「で?」
コンスタンティンに、話の続きを催促する。
「1つ、力を合わせて事を成した事でようやく、ポツリポツリとエッカルトが話すようになった。次にミラー大陸に渡り、アスガルド王国からカルマル王国へと渡ったんだ」
「ノゥトラスから、アスガルド……そんな船便、あったか?」
リタに確認する。彼女は修羅大陸エレケヒ王国の出身だ。だが、首を横に振る。
「知らないわね……そんな長距離の船便は出てないと思うわ」
「フフフ……全く、俗物共め。先生に行けない所など存在しないのだ」
悩むリタに、したり顔で威張るエッカルト。
お前が威張るなってば。もう、言わないけどな。
「あはは。行かない所、はあるけどね。……空だよ。テン系統の応用なんだが、僕は空を歩く事が出来る」
「おお! サイエンがやってたアレか。空中を猛スピードで移動する」
「まあ、超人なら皆、出来るんじゃないかな」
ふーん、とビールを飲みつつ返事したが、きっとヴォルドヴァルドの奴は出来ないんだろうな、と何となく思ってしまった。
「それで?」
「カルマル王国はエッカルトの生まれ故郷でね。エッカルトは行きたくない、と行っていたがよくない噂が多く、久しぶりに少し寄ってみたんだ。ま、正直な所、ひどい国だった」
俺達の旅のルートからすると、これから通らなければならない所だ。皆、真剣に聞き入る。
「とにかく国が荒れていた。役人は私腹を肥やし、そこかしこに賊が出る。治安は悪く、民衆からは怨嗟の声ばかりが聞こえた。百年程前に行った時はまだあそこまでひどくはなかったんだが……ただ、エッカルトが幼い頃、酷い目に遭ったのがその時期だったから、その時の僕が気付かなかっただけなのかもしれない」
ふむ。
そう言えば、王都でコンスタンティンがエッカルトを『読心』した時にそんな事を言っていたな。
こいつが歪んだのは幼い頃の酷い体験のせいだ、と。
「彼が幼い頃に襲われた賊が王都で復活していて一大勢力を作っていた。まず手始めに僕達はこれを潰したんだ。僕は殆ど手を出さなかったけれど。エッカルトが襲われたのは百年近くも前の話だ。無論、当時の首謀者や実行犯はいなかったけれど、エッカルトの中で何か吹っ切れたみたいだね」
エッカルトに目をやると、両目を瞑り、涙を流している。色々、思う事もあるんだろう。触れないでおいてやるか。
「僕達は南進し、道すがら現れる賊を片っ端からやっつけながら、ウェルゴという街に辿り着いた。そこでは賊と自警団達が争っていてね。賊の中にそこそこ魔術の使える奴がいて苦労していたようだった」
ワインを飲み干し、エッカルトの背中をさするコンスタンティン。そして、それに頭を下げるエッカルト。
まさか、こんな光景が見れようとは1年前は思いもしなかったな。
「僕達がその賊をやっつけると、その町の人々に大歓迎されたんだが、翌日、アスガルドから将軍が1人やってきてね」
「アスガルドから?」
他国の領地に一国の将軍がやって来る事などあるのだろうか。
「ああ。名をオレストと言い、僕の見立てでは恐らく、ボルイェよりも強い」
「オレスト! 《聖騎士》オレストか!」
「なんだ、知っているのかマッツ。君はそういう事に無頓着だと思っていたが……」
意外そうに首を傾げるコンスタンティン。
失礼な奴だ。
ま、ヒムニヤからその名前を聞いていなければ、知らなかったんだから当たってはいるが。
「お互い長生きだが、今回初めて出会った僕達は意気投合し、色々話し合った。どうやらカルマルの治安の悪さのお陰で、アスガルドの治安まで悪影響が出たらしく、お忍びで解決しに来たらしい。1人でね。しかし、どこにも聞いていたような賊がいない為、気がついたらここまで来ていた、と」
プッ。なんだそれ……天然なのか?
将軍がそんな長い間、お忍びとかできるものなのか。
「オレストってのは、どんな奴なんだ?」
キーパーソンの特徴は、一応、聞いておかないとな。
顎に手をやり、少し考えて、
「そうだな……背丈や体格はちょうど君と同じ位、性格も正義感が強く人情に厚いところとか、若干、似ているかもしれないが……少し粗暴で口が悪いね」
まあ、悪い奴ではなさそうで良かった。
「彼に1つ、頼まれたんだ。もしこのまま南進して諸島の方に行くなら、リナ諸島の古代迷宮を探索して欲しい、と。そこに彼の祖先、オリオンが持っていた『聖剣リゲル』が眠っているという噂がある。本当だったら持っていて欲しい、と。そしていつか、自分に返してくれないか、と」
コンスタンティンがそこまで言うと、エッカルトがようやく会話に加わる。
「そこで先生と私はこの島の近くにある名もない小さな島に古代迷宮の入口がある事を突き止め、そこから最深部まで踏破したのだ。ニヴラニアの入口は個人によって封鎖されている、と聞いていたからな」
「……え、ひょっとして、この剣……」
不意にリタが口を挟む。
リタはゴトフリート戦でコンスタンティンに剣を貸してもらったそうだが、コンスタンティンがそのまま持っていていい、と言うので今も身につけている。
斬れ味はリタが今まで扱った剣とは、全く比較にならない程だそうだ。
「その通り。それがかつて、青い聖剣と呼ばれていたリゲルだ。リゲルは君を所有者と認めた。だが、本当の所有者はオレストだ。その剣が必要なら、それを持ってオレストの元へ行くといい。旅が終わるまで貸してくれないか、と言えば、無理やり奪い取るような人間ではない、と言っておこう」
すげぇ!!
『青い聖剣リゲル』と言えば、かつてオリオンが使い、物理無効のヴォルドヴァルドの腕を、その鎧ごとぶった切ったって代物だ。
それがリタの手に……
「成る程なぁ。そういう理由であの時、あそこにいたって訳だ。どっちにしても、俺達はアスガルドまで行く必要がある。オレストとやらに会って、そう言っておくよ」
オレストがそれをこいつに頼まなければ、コンスタンティンはあの場におらず、という事は、リタとリディアは相当、危なかったかもしれない。
何か運命的なものを感じずにいられない。
オレストに感謝しないとな……。
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