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第3章 英雄
マッツと仲間達(リタ・ケルル )
しおりを挟む――― 5日目 ―――
リタ・ケルル(31) 女性。
ビックリした。
薄紫のタートルネックのニットに、ゆったり目の濃いグレーのカジュアルパンツ、限りなく白に近い薄いベージュのフード付きコートで出てきたリタ。
「……何よ」
思わず、目が釘付けになっている所を、探るような顔つきで突っ込まれる。
「あ、いや……何か……可愛い……ね」
すると一瞬、顔を赤くし、驚いた顔をした後、急に悪そうな顔になる。ニタ~~~と笑い、前屈みになって俺の顔を下から覗き込んでくる。
「あらあら。誰彼、見境なく口説いてどうするつもりかしら?」
リタは元々、かなりの美人さんだ。
赤髪、浅黒い肌につり目、形の良い小鼻と唇、身長は170センチ位あり、筋トレばっかりやっているから凄くマッチョだが……モテる。30を越えてるといっても、まだ31歳だ。
「いや、いつも綺麗だとは思ってるんだぜ? でも、今日は格別、可愛いなぁと。思っただけだ」
すると、ボフッと俺の頭を掌で叩く。
「だーかーら! それが口説いてるっつってんの! 話、するんでしょ!」
そして、リタの希望で、ドラフントの衣服と防具の店をハシゴする。
「あの……昨日は有難う。凄く嬉しかったよ」
「そう、それはよかったわ」
「昨日も改めて思ったんだけどさ、リタはいつも優しい。大丈夫か? 気を回し過ぎて疲れたりしてないか?」
またも驚いた顔でしばらく俺を見つめるリタ。不意に、笑顔になり、アッハハと笑い出す。
「疲れてなんかないわ。皆、いい子だもの。あ、『子』は失礼か。みんな立派な大人だもんね」
この旅の間だけに限らず、『シシ』や『タカ』にいた時、ゴブリンロードに俺がのされてしまった時、いつも、リタは気にかけてくれていたんだ。
それは俺だけに限らず、平等に、みんなに優しい。
「今日はちょっと趣旨を変えよう。日頃のお前の気遣いの感謝祭だ。俺に尽くさせてくれよ」
またもや、何を言い出すの? と言わんばかりの表情を浮かべる。
「なあ、リタ。お前にはみんな、本当に感謝してるんだぜ。そして1番助かっているのは、きっと俺だ。俺の至らない所をしっかりとフォローしてくれるから、 俺が抜けていても上手くいってるんだ」
「…………フフ。それは過大評価だわ」
目を逸らして、楽しそうに笑う。だが、俺は真剣だ。
「いや、そうじゃないさ。特に入って間もないアデリナをよく見てくれている」
「……アデリナは、あれでいてしっかりしているのよ? 抜けてるように見えるけど、凄く賢い。そんなに気遣う必要はないわ」
ふーん。そうなんだな。
まあ、でもそうか。あの子がすっとぼけているのは俺に関しての事だけで、ドラフジャクドの旅の方針アイデアを出したのもアデリナだし、確かに何かと気が回る。
そんな事を話しながら、ある店に入る。
『武器・防具 閉店セール!!』
目に入ったのが、この文句だ。
閉店がホントかどうかは別として……品揃えは豊富にあるようだ。
「お! 美男美女のご新婚さん! 防具をお探しですかい!?」
リタと顔を見合わせる。
お互い、ブ――――――ッと吹いてしまう。しかし、店員はそんな事はお構い無しに続ける。こいつからすれば夫婦かどうかは問題では無いのだろう。
「奥さん、この『鉄の女性下着』とか、如何です? ブレストプレートと併用すれば、ミノタウロスの斧の一撃を弾いた実績がありやすぜ!」
「趣味悪いわねぇ。そんなの着けてたら動けないし、冷たくて風邪ひいちゃうわ」
しかめっ面をするリタ。
「ほうほう。なら……」
「自分達で見るから、放っておいてくれ」
やかましい店員をピシャリと黙らせる。
首をすくめて、他の客の所に移動する。
「そこのイケメンのお兄さん、これなんかどうです?」
ニヤけながら、他の客に売り込む店員。
閉店とか言って、元気のいい事だ。年中、閉店セール的なアレだな。
「マッツ、これなんかヘンリックにいいんじゃない?」
見ると、銀色の籠手だ。月のマークが彫られており、拳でコンコンと叩くと非常にいい音がする。
手に持つと軽く、魔力が感じられる。
これは……掘り出し物かもしれない。
「ホントだ……。なんでこんな適当な店に」
「価値がわからない店主が経営している店に、たまにあるのよ? 掘り出し物」
「へぇ~~~……これは買っておいてやろう。あいつの籠手も入隊時からの支給品で、もうボロボロだからな」
フフ……と笑うリタ。
ホントに周りに目を配ってるんだな。
しかし、1つ、見落としている事があるぜ?
その店ではそれだけを購入し、外に出る。
少し歩き、前から目を付けていたアクセサリー・小物類の店に入る。
「リタ。俺、お前にピッタリだ、と思ってるアクセサリーがあるんだ」
「アクセサリー?」
目指す物は奥。他の物には目もくれずに進む。
「これだ」
俺の指差すモノに怪訝な顔をするリタ。
「イヤリング?」
「ああ。だが、ただのイヤリングじゃないんだぜ? 手に取ってみろ」
素晴らしく美しい、深紅の色合いを見せるイヤリングを素直に指で摘み、掌に乗せるリタ。
「……魔力が宿ってるわね! しかも相当な……ん? ひょっとしてこれは……」
「気付いたか? 現在、修羅大陸の最南端、ヤレの洞窟でしか取れないと言われている超希少鉱ヤローニャで出来ている。わかる奴が見ないと、安物のミストロ鉱と間違えられちまうが」
極限まで声を落としてリタに囁く。
リタは修羅大陸の生まれだ。赤髪はあの大陸の生まれにしかいない。
「付けてみろよ」
これまた素直に耳につけるリタ。
「リタの髪とピッタリだぞ!」
鏡を見て笑うでもなく、怒るでもなく、複雑な表情をするリタ。
「何故、私に?」
「1つ、日頃の感謝。2つ、美人なのに洒落っ気が足らん。3つ、リタは接近戦が得意だからその時に邪魔になるようなものはダメ、4つ、そのイヤリングに込められている魔法は『魔剣強化』だ」
早口でバババっと説明する俺を、ボーッと見つめてくる。
「俺達のパーティで剣を使うのは俺とお前だけ、俺はイヤリングなんかつけない、だからリタ用だ。俺がお前専用の魔剣をきっと見つけてやる。だから、付けとけ」
ククク……。面食らっているな?
「ふっふっふ。実は初日、アデリナと町中回った時に既に見つけていたのだ。雑多にその他扱いで置いてあるし、お前が持つべき物なら絶対に売れんだろうと思っていたんだ」
「……」
イヤリングを外し、ジィーッと見るリタ。
うーん? 何か反応が思っていたのと違う……。
「有難う、マッツ。念の為に聞くけど……リディアやアデリナには何か買ってあげたの?」
「え? いや、何も」
掌で額を押さえ、はぁ~と大きなため息。
あれ? 何で?
「あんたがそんなだから、私が気を回さないとダメになるんでしょ、全く……これは有り難く受け取るわ。その代わり、今からみんなへのプレゼントを買いに行きましょう。ヘンリックの分はさっき買ったから、残りのみんなの分」
「お、おお。そうか。わかった。リタがそういうならそうするよ」
すると、ニコリとやっと笑ってくれる。
「そうしたまえ」
そうして、皆へのプレゼント、リディアにはカチューシャとネックレス、アデリナにはペンダント、エルナにはスカーフ、クラウスにはトンガリ帽子を購入、全て魔力が込められた掘り出し物だ。
町を回ってクタクタになったリタと俺は、2人で酒場に行き、エネルギー補給をして、宿に帰った。
最後まで、リタには気を遣わせたかな?
また機会があったら、今度こそ、オモテナシしよう。
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