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梟屋の晩御飯

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淡い夕焼けの陽が影を作る帰り道を歩きながら、下宿している梟屋へ帰って来たシェナとユージーン。

「ただいま帰りました、」
「戻りました、」

梟屋のドアを開けると、梟屋の中から食欲をそそる美味しそうな香りが2人の鼻腔をくすぐり、微かに包丁で調理をする音が耳に届く。

「あら、シェナちゃん。ユージーンさん、おかえりなさい」
「きゅう!!」

そこにルウを抱き抱えたココロが2人を出迎えてくれた。

「ただいまです。ココロさん」
「戻りました」
「はい。お使いお疲れ様」

ニコニコと優しい笑顔で出迎えるココロ。

「きゅう~」

すると、ココロさんの腕の中にいたルウが私に向かって小さな両手を伸ばす。
ルウの気持ちを分かったのか、ココロが顔を綻ばせる。

「あらあら、はいはい。シェナちゃん、お願い」
「はい。ルウ、おいで」
「んきゅう~」

ココロさんから私の腕の中に移ったルウは嬉しそうに私の頬に擦り寄る。

「ただいま、ルウ」
「きゅう~」

そんなルウが可愛いくて、私もルウの頬に頬すりする。

「うふふ。やっぱり、お母さんの方がいいのね」
「キュイ!」
「・・・・・・・」

ココロさんの言葉に嬉しそうに答えるルウに私は少し気恥ずかしく感じ、顔が熱くなるのを感じて俯いてしまった。

すると、ユージーンがある事に気がつく。

「ん?ココロさんがここに居るという事は、今、料理をしているのは?」
「え?ゼノンよ?」
「え?」
「はい?」

ココロさんの返事に思わず私とユージーンが首を傾げる。

「ゼノンさん、料理出来たんですか?」
「ええ、一緒によくやるのよ」

ゼノン料理上手なのと、にこやかに笑うココロさん。

だが、見た目が威圧感が半端なく、頑固な職人風のゼノンさんが台所に立つ姿はあまり想像できないシェナ。
その時、

「戻ったか」

噂をすればなんとやら、キッチンからシンプルな白いエプロンに白い布を頭に巻いた姿のゼノンが出てきた。

その姿は、ある意味、台所に立つに似合う姿だった。

「なんか、飲み屋の大将みたい」
「ああ」
「ん?」

シェナの呟きに思わず同意してしまうユージーン。

キッチンに入ると、夕飯の支度が進んでいた。

「すみません、ゼノンさん。遅れてしまって」
「いや、私が勝手にやった事だ。と言っても、スープとサラダの用意だけだがな」
「それだけでも、助かります。手伝います」
「ああ」
「シェナちゃん、お料理するなら、コロッケを油で揚げるでしょ?ならルウちゃんまた預かるわ」
「はい、お願いします」
「油がはねたら危ないからね」

そう言いなが、ココロがルウを再び預かる。

「そうだ。ユージーンさん。夕食はお部屋で食べる?それとも食堂で食べる?」

ルウを腕に抱き上げながらキッチン前に立っているユージーンに夕食の事を問いかける。

「あ、食事は、」
「あとは、コロッケ揚げるだけだから、すぐに出来るけど、もし傷に障るなら部屋に持って行くよ?」

エプロンを着けながら、服の袖を捲るシェナがひょっこりキッチンから顔を出す。

「・・・・・・・・」

結局、ユージーンはココロとルウと一緒に食堂で待つ事にした。

本当なら、すぐにでも部屋に戻り情報屋の情報を見たい所だったのだが、あまりにもココロがニコニコ顔で食堂での一緒の夕食を勧められて、同行する事にした。

通された食堂は広い木のテーブルに木の椅子。
だが、不思議と温かな雰囲気が食堂内を包み込んでいる。
斜め前の席にココロがルウをあやしている。
その姿はまるで祖母と孫のようで微笑ましいものだった。
食卓の横に置かれた小さなテーブルの上には、ルウの服作りをひと段落終えた2体のブラウニー達が寛いでいる。
その姿にもう警戒心は見えなかった。

「お待たせー」

しばらくして、大きなお盆に料理を乗せたシェナとゼノンが入ってきた。
ゴハンに汁物、大きな皿に黄金色のコロッケが二個とその脇に千切りした葉野菜であるポルタが添えられている。ガラスの小さな器には本日のデザートが盛り付けられている。
食卓はあっという間に湯気がゆらゆらと立つ料理達が並べられた。
部屋内に温かな料理の香りが広がり、

ぐううう~~~~~~

「ッッ!?!?」

自分の腹が自身の意思と関係無しに空腹を訴えてるように鳴った。
食堂内での自然がユージーンに集まる。

「あい変わらず、お腹の音凄いね、ユージーンは」

顔を赤くして固まるユージーンを見て、クスクスと可笑しそうに笑うシェナだった。

「はい。こっちはブラウニー達の分ね」

そう言いながら、シェナはブラウニー達が座るテーブルの上に小皿に盛り付けされた料理をブラウニー達の前に置く。
そして、もう一枚の平皿に2人が御所望していた、コメとカココで作ったお菓子が乗っている。

クリーム色の薄い生地に透けた薄茶色のカココのクリームが細長く巻かれている。

「御所望のコメとカココのお菓子、『カココクリームの春巻きクレープ』だよ」

目の前の出来立てのワンプレートの料理とお菓子に頬を赤く染め、喜びを表すブラウニー達。

「~~~!!」
「~~~!!」

嬉しそうな小さな金属音のような声が聞こえた。

「どういたしまして」
「うふふ。さあ、食べましょう」

食卓に並ぶ夕飯。

「ルウはこっち。芋粥ね」
「きゅー!!」

目の前に置かれたムム芋で作った芋粥を見て、眼を輝かせるルウ。
牛山羊の乳と一緒に柔らかくなるまで煮られ、細かく刻まれた野菜と肉が見える。

美味しそうな夕飯にルウは目を輝かせる。

皆が、各々の席に着き、手を胸の前で合わせ暫しの沈黙。

「我の糧になる尊き命よ  命を生み出し天と大地よ 天地の恵みに感謝します」
「・・・・・・きゅ!」

食材に対しての感謝の祈りを見たルウが、まるでみんなの真似をするかのように自分の目の前で小さな両手をパチンと叩いた。

「・・・・・、ははは!!」

その行動に、思わずシェナ達は顔を見合わせて笑ってしまった。
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