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裏路地での会話

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「いやー、ウチのモミジがごめんねー」
「むーー」

申し訳ないように笑うザンザスの小脇にムクれるモミジが抱えられている。

「いや、大丈夫、だ・・・・」
「だから早めに代わりの人形用意しろって言ったでしょ」
「人形??俺のことか?」
「むーー。新しいお人形!!」

幼子が駄々をこねるみたいに不機嫌なモミジ。
だが、

「何故、俺が人形なんだ?」
「確かに、お世辞にもユージーンは人形と呼べる程、女らしくも細くも華奢でも無い。と言うか寧ろ大人の男で体格もデカい。真逆なのに」

ユージーンとシェナが最もらしい疑問を口に出す。

「・・・・あーー、うん。シェナさん。あれが昨日壊した人形」
「え?」

シェナとユージーンの疑問に苦笑するザンザスが指差した方を見ると、棚があった。
だが、モミジが遊びそうな人形らしきものは見当たらない。
あるとすれば、モミジと同じくらいの大きさの筋肉隆々な男性を形どった木彫りの模型が棚に寄りかかって座っていた。

「アレが、モミジのお気に入りだった人形」

ただし、首と腕と脚が関節から外された状態で接続部分に大きくヒビが入ってあったが。

「モミジ、すぐに関節逆回転させるから、かなり丈夫な人形が必要なんで、調達が大変なんですよ」

あはは、と苦笑で笑うザンザス。

「・・・・・え?ユージーンの末路?」
「・・・・やめくれ」

その模型を見たユージーンは、もし、あのままモミジに遊ばれていたらと想像したユージーンが顔を青くした。
と言うか、誰でもそうなる。

「・・・・・ねぇ、あの人形って木製?」
「え?ああ、硬くて丈夫なギーギーの木材で作った人形だけど」
「うーん、だったら、これくらいなら何とかなるか」

そう言いなが、シェナは関節が外れた人形に近づく。

「んん?どうしたのシェナさん」
「ちょっと試したいことがあるの」
「試したいこと??」
「???」

不思議そうな顔をするザンザスとモミジ。

「時よ」

シェナが人形の壊れた部分に手を翳し魔法をかける。

「リカバリー」

すると、ヒビが入っていた接続部分が光出し、ヒビを埋めて行く。

「フェイス。木よ。結界魔法、コーティング」

シェナは光がヒビを埋め尽くす前に腕を関節部に取り付ける。

「おおお!!流石、シェナさん!!」

ザンザスが大袈裟なくらいに驚く。

魔法を解き、人形の腕を動かすと、腕はちゃんと繋がり動かすことが出来た。

「はい。次、首と脚」

そう言って、シェナは人形の壊れた部分を直していく。
そして、

「お人形!!!」

モミジが直ったばかりの人形に飛び付く。

「いやー!!シェナさん、ありがとうございます!!これでモミジの機嫌も損ねなくてすみます」
「何言ってるの。これはあくまでも応急処置。結界魔法で強化してはいるけど、無茶な使い方をすればまた壊れるわよ」
「分かっていますよ。ホラ、モミジもちゃんとお礼を言いな」
「う!!」

ザンザスに言われてモミジは満面の笑みでシェナにお辞儀をするが、

「待って、モミジ、そのお人形、腰曲がる作りじゃないから無理に曲げないで。流石に腰の部分は直せないから!腰からポッキリとイっちゃうから!」

抱き付く人形の腰に腕を回し力一杯抱き締めるから、人形の体少し反ってる。
ギーギーの木ってめちゃくちゃ硬い木なんだよ?何でそんなに反り曲がるの??

「・・・・・ザンザ、早いところ、新しい人形用意してやって」
「あははは、了解です」

思った以上にあの人形の寿命は短そうだ。


「それでは、ザンザスの『愛のソースの泉』またの御来店をお待ちしております」

モミジのお気に入りの人形を直した後、本来の目的であるソースを買い、底の見えない笑みを浮かべたザンザスに私達を店の外まで見送られた。 

「モミジがごめんね。あの子悪戯好きなんだ」

薄暗い路地裏を歩くシェナがユージーンに謝罪する。
シェナ自身が悪い訳では無いが、顔馴染みの無礼を詫びるシェナ。

「いや、それは大丈夫だが・・・・・・、あの子供は一体何者なんだ」
「ん?」
「油断していたとは言え、あんなに幼い子供がいきなり束縛魔法を使えるものではないぞ」
「ああ、だって、モミジ、子供じゃないもん」
「え?」
「モミジは東の大陸の座敷童子って言われているアヤカシ族だよ」
「は?」

サラッと出たモミジの正体にユージーンは一瞬言葉を失う。

「・・・・アヤカシ族、東の大陸に存在する魔力とは異なる力を持つ種族の事か?」
「そう。モミジ、見た目は4、5歳くらいの子供に見えるけど、実際には200歳超えてるんだって。確か、商家に住み着き繁栄を齎す存在なんだって」
「200歳、・・・・、アヤカシ族は見た目と実年齢が大きく違うと聞いた事があるが、まさか、あそこまで違うとは・・・・」
「この街には、色んな種族がいるよ。獣人、鳥人、半獣人にドワーフや妖精族。少し離れた区域には小人族に巨人族も住んでる。
私みたいに異種族のハーフもいれば、色んな事情を抱えた人も沢山いるよ。
だから、余所者のユージーンも割と受け入れやすいんだよ。・・・・・はい、コレ」
「え?」

歩きながら、シェナが折り畳んだ一枚の紙をユージーンに差し出す。

「ユージーンが知りたかった事」
「ッ、・・・・・・」
「一応言っておくけど、ここで見るのは止めてね」

折り畳んだ紙を開こうとしたユージーンの手が止まる。

「ザンザの情報は安く無いの。変なことで情報漏洩なんてしたら、もう情報売ってくれなくなるから」
「、済まない・・・・」

出来れば、直ぐにでも中身を確認したいユージーンだが、シェナに釘を刺され、紙を服の胸ポケットにしまった。

「すぐに見たい気持ちは分かるけど、梟屋の部屋に着くまで我慢してね」
「ああ・・・・」

シェナの言葉に素直に頷くユージーン。

「何故、」
「ん?」
「何故、君は俺にここまでしてくれるんだ?」
「・・・・・・・」

歩きながらユージーンを見上げると濃いブラウンの眼が私を見下ろしている。

「シェナ、君の役割はあくまでも俺の監視と護衛。俺を助けてくれた事も、正直、君が俺の為にここまでしてくれる意味が分からない」
「・・・・でしょね。私自身だったら何か裏があると思って、警戒してるでしょうね」
「・・・・・・・」
「でも、これはあくまでも、私自身の気まぐれ。いくら、ギルド命令でも面倒事は避けたし、出来るだけ関わりたくないの」

見下ろすユージーンの眼をシェナはじっと見返す。
その時、ふと、シェナの目が細められた。

「だけど、頼まれちゃったから」
「ロベルトさんにか?」
「うんん。お母さんに」
「は?」

シェナの思いもしなかった人物にユージーンは思わず、歩く足が止まった。

「お母さんって、誰の?」
「此処では内緒。後で教えるよ」
「え?だが、」

ユージーンよりも5歩ほど先で立ち止まったシェナが、コチラを振り返る。

「此処は、ちょっと『耳』と『目』が多いだ。だから、あまりお喋りはしない方がいいよ」
「『耳』と『目』?」
「そ、だから、早く帰ろ。ココロさん達にルウ任せっぱなしだし、早く晩御飯も作らないと」

そう言って、さっさと歩き、裏路地から出ていくシェナ。

「あ、ちょっと、待て!!」

そんなシェナの後を慌てて杖をつきながら追いかけ、裏路地を出るユージーン。

その後ろで、淡い夕焼けの陽で濃くなってきた裏路地の影が不自然に揺らめいた。
そして、何かが、影から飛び出し裏路地の奥へと消えて行った。
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