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月花の花
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「危っな・・・・。気、抜いてた」
『ケルピー』のひと睨みに思わず恐縮してしまった。
『ケルピー』は知能が高く、水中の機動力が半端無い。
下手に刺激をしてガブリ、気が付いたら『ケルピー』の口の中、なんて事が無くて良かった。
今になって、嫌な汗が背筋をつたう。
機嫌が良かったのか、それとも、シェナの事に興味が無いのか、真意は分からないが、とりあえず助かった。
ここは水魔獣達の縄張り。
一瞬の気の緩みが命取りになる。
改めて気を引き締め、シェナは岩陰を移動し、なるべく、水魔獣達と遭遇しない様に注意しながら月花の花の花畑へ泳ぐ。
花畑の近くまで来ると、さっきの『ケルピー』の親子が花畑の真ん中で月花の花を仲良く食べている。
仲睦まじく、時々、子供の『ケルピー』が甘えるように戯れ付き、親『ケルピー』が慈しむように我が子を見届けている。
こうして見ると、人肉が好物だと言われる『ケルピー』も陸にいる馬の親子とさして変わらない。
実は、この月花の花はこの湖に住む水魔獣達の主食の1つ。
彼等の好物は概ね肉類になるが、主食は湖に自生する水草や薬草類になる。
特に魔素が高まる満月の夜の月花の花はある意味肉類よりも魅力的なのかもしれない。
そうこうしている内に他の水魔獣達も花畑に集まってきた。
満月の月光を浴びて開花した花は薬効が高い。そして、水魔獣達も率先して開花したばかりの花を食べに行く。
「早く、月花の花採りに行かないと、花が食べ尽くされる」
シェナも花畑の端でまだ水魔獣に食べられていない咲き出した花を採取して行く。
深い深緑色の細く真っ直ぐに伸びた茎の先に小さな白いレースの様な花びらが何層にも重なった小さな花が鈴生りに咲いている、月花の花。
よく見ると花1つ1つに透明で薄い膜が張ってある。
シェナはそっと傷つけない様に腰に装備しているナイフで出来るだけ根元に近い位置を切り取る。
月花の花は澄んだ水と大型の水魔獣が住処にする水底に自生する。
濃い魔素と水底に溜まった水魔獣達の死骸や水中に引きずり込んだ獲物の残骸を養分とした肥えた土に根を張り茎を伸ばし満月の夜に花を咲かせる。
それと同時に、とても繊細な薬草でもある。
乱暴に扱うとすぐに花が落ち花びらを散らしてしまう。また、水中から出して花を覆う膜が割れてしまうと、あっという間に萎れてしまう。
そうなると、薬効も低下してしまい売り物にもならない。
だが、綺麗な状態で採取された月花の花は魔素を多く蓄えた高い薬効の薬草としてハイポーションの原材料になり、高値がつく。
ナイフで切り取った月花の花をターバンに包んで持ってきガラスの瓶を湖の水で満たしその中に花びら散らないように注意しながら淡く光る月花の花を入れていく。
途中、大口開けた魚型の水魔達に背後から食べられそうになると言う妨害を受けながらも、素早く逃げつつ、持って来た3つのガラス瓶に2本づつ月花の花を納めていく。
湖の水で満たした瓶の中で緩やかに揺らめき淡く光が灯った花はまるでランプの灯りのように輝いている。
「綺麗だな。っと、そろそろ上がらないと」
ふと、纏っている結界の酸素が少なくなっている事に気がつく。
すぐに水魔法で作った尾鰭で水を蹴り水面へ向かう。
水面から照らされる月光に向かって上へ泳ぐ。
この感じ、好きだな。
ザパァ!!
「、ぷふぁ」
水面から顔を出すと、身体に纏っていた結界が消えた。
結界の中で呼吸するのとは違い、冷ややかな風と湖の水の匂いが混じった空気が身体を満たしていく。
吐き出した息が白く薄く煙る。
水面から顔を出した状態で湖に入った岩場へ泳ぎ、岩場へ上がる。
「ふぅ、まぁ、上々かな」
岩場へ腰かけ下半身に纏った水魔法を解くと、尾鰭は脚を流れるように滑り落ち湖の水の中へ消えていった。
夜空を見上げるとまだ満月は湖の上で湖を淡く照らしている。
まだ、月花の花を採りにはいける。
だが、もう今夜は採りに止めておこう。
この湖はあくまでも水魔獣達のモノ。
月花の花以外にも高価な素材になる水魔獣や薬草が豊富にある。だが、欲に駆られ、やたら無闇に踏み込むと本当に喰われかねない。
ここはそんな世界だ。
それに何より、
「疲れた」
水魔法と結界魔法で魔力を消費し疲労したシェナは岩場に背もたれ大きな満月をぼんやりと見上げていた。
と、その時、
「ッ、!!」
ふと鼻に届いた微かな匂いに、シェナは緩んでいた気を張り詰めた。
今まで冷たい水の中に居たせいか、敏感になった嗅覚で感じる、血と生き物が焼けた匂い。
魔獣か?人間か?
シェナは素早く岩場の陰に身を隠し、直ぐに腰に装備しているナイフの柄を掴み臨戦体勢をとる。
すると、シェナの耳に遠くからカシャン、カシャンと金属音が聞こえて来た。
岩陰に身を隠しながら音のした方向を見ると、シェナのいる岩場から少し離れた所、何かが森から出て来た。
「・・・・・人間?」
遠目から見ても、ボロボロになった甲冑と兜を身につけた多分、人間?が森から出てきた。
『ケルピー』のひと睨みに思わず恐縮してしまった。
『ケルピー』は知能が高く、水中の機動力が半端無い。
下手に刺激をしてガブリ、気が付いたら『ケルピー』の口の中、なんて事が無くて良かった。
今になって、嫌な汗が背筋をつたう。
機嫌が良かったのか、それとも、シェナの事に興味が無いのか、真意は分からないが、とりあえず助かった。
ここは水魔獣達の縄張り。
一瞬の気の緩みが命取りになる。
改めて気を引き締め、シェナは岩陰を移動し、なるべく、水魔獣達と遭遇しない様に注意しながら月花の花の花畑へ泳ぐ。
花畑の近くまで来ると、さっきの『ケルピー』の親子が花畑の真ん中で月花の花を仲良く食べている。
仲睦まじく、時々、子供の『ケルピー』が甘えるように戯れ付き、親『ケルピー』が慈しむように我が子を見届けている。
こうして見ると、人肉が好物だと言われる『ケルピー』も陸にいる馬の親子とさして変わらない。
実は、この月花の花はこの湖に住む水魔獣達の主食の1つ。
彼等の好物は概ね肉類になるが、主食は湖に自生する水草や薬草類になる。
特に魔素が高まる満月の夜の月花の花はある意味肉類よりも魅力的なのかもしれない。
そうこうしている内に他の水魔獣達も花畑に集まってきた。
満月の月光を浴びて開花した花は薬効が高い。そして、水魔獣達も率先して開花したばかりの花を食べに行く。
「早く、月花の花採りに行かないと、花が食べ尽くされる」
シェナも花畑の端でまだ水魔獣に食べられていない咲き出した花を採取して行く。
深い深緑色の細く真っ直ぐに伸びた茎の先に小さな白いレースの様な花びらが何層にも重なった小さな花が鈴生りに咲いている、月花の花。
よく見ると花1つ1つに透明で薄い膜が張ってある。
シェナはそっと傷つけない様に腰に装備しているナイフで出来るだけ根元に近い位置を切り取る。
月花の花は澄んだ水と大型の水魔獣が住処にする水底に自生する。
濃い魔素と水底に溜まった水魔獣達の死骸や水中に引きずり込んだ獲物の残骸を養分とした肥えた土に根を張り茎を伸ばし満月の夜に花を咲かせる。
それと同時に、とても繊細な薬草でもある。
乱暴に扱うとすぐに花が落ち花びらを散らしてしまう。また、水中から出して花を覆う膜が割れてしまうと、あっという間に萎れてしまう。
そうなると、薬効も低下してしまい売り物にもならない。
だが、綺麗な状態で採取された月花の花は魔素を多く蓄えた高い薬効の薬草としてハイポーションの原材料になり、高値がつく。
ナイフで切り取った月花の花をターバンに包んで持ってきガラスの瓶を湖の水で満たしその中に花びら散らないように注意しながら淡く光る月花の花を入れていく。
途中、大口開けた魚型の水魔達に背後から食べられそうになると言う妨害を受けながらも、素早く逃げつつ、持って来た3つのガラス瓶に2本づつ月花の花を納めていく。
湖の水で満たした瓶の中で緩やかに揺らめき淡く光が灯った花はまるでランプの灯りのように輝いている。
「綺麗だな。っと、そろそろ上がらないと」
ふと、纏っている結界の酸素が少なくなっている事に気がつく。
すぐに水魔法で作った尾鰭で水を蹴り水面へ向かう。
水面から照らされる月光に向かって上へ泳ぐ。
この感じ、好きだな。
ザパァ!!
「、ぷふぁ」
水面から顔を出すと、身体に纏っていた結界が消えた。
結界の中で呼吸するのとは違い、冷ややかな風と湖の水の匂いが混じった空気が身体を満たしていく。
吐き出した息が白く薄く煙る。
水面から顔を出した状態で湖に入った岩場へ泳ぎ、岩場へ上がる。
「ふぅ、まぁ、上々かな」
岩場へ腰かけ下半身に纏った水魔法を解くと、尾鰭は脚を流れるように滑り落ち湖の水の中へ消えていった。
夜空を見上げるとまだ満月は湖の上で湖を淡く照らしている。
まだ、月花の花を採りにはいける。
だが、もう今夜は採りに止めておこう。
この湖はあくまでも水魔獣達のモノ。
月花の花以外にも高価な素材になる水魔獣や薬草が豊富にある。だが、欲に駆られ、やたら無闇に踏み込むと本当に喰われかねない。
ここはそんな世界だ。
それに何より、
「疲れた」
水魔法と結界魔法で魔力を消費し疲労したシェナは岩場に背もたれ大きな満月をぼんやりと見上げていた。
と、その時、
「ッ、!!」
ふと鼻に届いた微かな匂いに、シェナは緩んでいた気を張り詰めた。
今まで冷たい水の中に居たせいか、敏感になった嗅覚で感じる、血と生き物が焼けた匂い。
魔獣か?人間か?
シェナは素早く岩場の陰に身を隠し、直ぐに腰に装備しているナイフの柄を掴み臨戦体勢をとる。
すると、シェナの耳に遠くからカシャン、カシャンと金属音が聞こえて来た。
岩陰に身を隠しながら音のした方向を見ると、シェナのいる岩場から少し離れた所、何かが森から出て来た。
「・・・・・人間?」
遠目から見ても、ボロボロになった甲冑と兜を身につけた多分、人間?が森から出てきた。
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