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寝床作りと夕飯

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湖から少し離れた場所を拠点にする。
森の木に囲まれているが程よく開けた場所があった。
早速、邪魔な石を退け、大まかに雑草を除去。

「光よ」

光魔法で手のひらに光の玉を出し、辺りを照らす。
約2メートルほどの円形魔法陣を一つ描き、

「『ベース』」

長時間制の結界魔法を張る。
これでシェナの許可なしで人や魔獣類はこの結界に入ることは出来ない。

「よし。次」

結界魔法の中心に立ち意識を集中する。

「土よ」

シェナの周りの土が盛り上がってくる。

「ドーム」

そのまま盛り上がった土はシェナの頭上にまで盛り上がり、シェナは完全に土に覆い被さた。
シェナは覆い被さった土の中で更に意識を集中する。
両手で内部から盛り上がった土をならすように土魔法で撫でるように触れていく。土は段々と滑らかな壁になっていく。
土魔法で土を操り、ちょっとの水魔法で土の粘度を調整する。
三方に壁、頭上には半円の屋根。
ベースの中を半部分を寝床にと土を盛り上げる。
しばらくすると盛り上がった土は半円形の形になり、出口を1つ。中は大きな空洞に出来き『カマクラ』と言われる形になった。
最後にカマクラの外に出て、火の魔法で土固め強度を上げる。
見た目は大きく土が盛り上がった土山が岩になったように見える。簡易だが、シェナが寝泊まりするには十分なスペースだ。焼き上げた事で強度を上げた事でただ地べたに寝るよりもずっと寒さや雨風をある程度しのげる。
今の季節は夜が冷え込む。
最後に空の小瓶に光の玉を込めて簡単なライトを作り明かりを作り、寝床を照らす明かりにする。

「よし!寝床完成」

本当はちゃんとした簡易性魔法テントが売られているが、今の所コレで十分だろ。地味に高いんだよね。魔法テント。
寝床ができたら今度は晩御飯作りだ。

カマクラの外に出て鞄から必要な物を取り出す。
先程狩った『ワイルドボア』の肉と森で自生していた白緑色の大きな野草『ベーベルの葉』と橙色で細長い根野菜『ニンジン』に太い木の根っこのような根菜『ゴボウの根』。少し細身のコル茸と小ぶりで薄黄色のショウガ。
調味料各種と鍋に森で拾った分厚い木の板。そしてナイフ。
そして、

「土よ」

今度は土魔法で簡単な竃を作る。
小山に固められた土山に前と上に穴が空いただけの物だけど、上に鍋を置き下で火を炊くには十分だ。

青いターバンをしっかり頭にまき直し、水魔法で手を綺麗に洗う。
ついでに水魔法と火魔法で作った熱湯で鍋とナイフと木の板を熱湯消毒する。
これも母ルリコの知恵だ。
野外で料理で最も怖いのは生水や生物の食中毒だと母さんはよく言っていた。

熱湯消毒した木の板をまな板がわりにして調理開始だ。
まずは、『ワイルドボア』の肉を薄切りにする。
この部位はバラ肉。赤身の赤と脂身の白がきれいな層になっている。
次に野菜、根菜を水魔法で洗う。
ベーベルの葉をザックリと切り、ニンジンは皮を剥き、斜めに薄切り。ゴボウの根も皮を剥き、木を削るように薄く削り出す、ささがきをする。
ささがきが終わったゴボウの根はアク抜きの為水にさらす。
コル茸は濡れ布巾で汚れを拭き取り、根本、イシヅキを切り落とし縦に割く。ショウガは繊維に沿って細切りにする。

下拵えが済んだら今度は水魔法で鍋に水を入れ竃に置き火魔法で昼間出来た花油が染み込んだ布を着火剤に竃に火入れする。
竃の上で鍋が沸々と沸騰してきたら、持ってきた『ブシ』を細かく削ってたモノとショウガ、酒、ショウユを鍋に入れる。
薄く色付きショウガの香りが漂う鍋に『ワイルドボア』の肉、固くて火が通りにくいニンジンとゴボウの根を投入。

「おーおー、出てきた」

しばらくして鍋の中に薄い灰茶色の泡、アクが浮き出し、せっせとアクをスプーンで取り除く。
アクを取り除きをするのとしないのでは味が大分違うので真剣にアク取りをする。
アクを粗方取り除けたら竃の火を小さく調整し、用意していた調味料、小さな焦げ茶色の粘土のような玉、シェナ特製の『ミソ玉』を投入する。
『ミソ玉』を熱いスープの中でトロトロと溶かしていくと、しばらくして、ブジの香りとふわりと鼻をくすぐる『ミソ玉』の香りが漂ってくる。

「あー、美味しいそう」

立ち上る、料理の香りはシェナの心揺さぶる。

『ミソ玉』は東の大陸から伝わった調味料の一つ『ミソ』から出来たものだ。
この国では家畜の餌でしか無かった穀物と豆を母、ルリコが東の大陸から来た商人と結託して街に普及させたブシ、ショウユ、ソースと並ぶ調味料。
母さんの故郷の味だと言って喜んでいた。
最初は茶色の泥の固まりのような見た目で嫌厭されていたが、母さんの料理の味で今では街で愛される味の一つになった。
『ミソ』を小さく丸め小分けにした『ミソ玉』はシェナの常備調味料の一つだ。

鍋を一煮立ちさせたら、ざく切りしたベーベルの葉とコル茸を鍋に投入。
鍋に蓋をしてしばらく待つ。
吹き零れが無いように様子を見ながら、ナイフとまな板を片付けたり、寝床で採取の準備を終え、食器の準備を済ませる。

もう既に陽は落ち気温は下がり、辺りは暗くなっていた。だが、カマクラの出入り口から漏れる明かりで照らされた鍋から出る白い湯気と立ち上る。
フンワリ香る『ミソ』の香りはシェナにとっては馴染み深く、とても懐かしく、

「・・・・・・・」

そして、無意識のうちに亡き母との思い出を思い出してほんの少し切なくなった。

煮える鍋を竃から下ろし、竃の火で暖が取れる距離でまな板に使っていた木の板の上に置く。
鍋の蓋をとると『ミソ』の香りが一気に広がる。
小振りな鍋の中で森で採れた野草、根菜、キノコ、そしてお肉がクツクツと寄り添い煮えている。

「へへ、『ワイルドボア』のぼたん鍋完成」

寒い夜の温かい料理にシェナの顔が思わず笑みがこぼす。
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