男装の英雄は用済みだと棺桶に入れられた

翔千

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一時帰宅

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 シュン!!
 ドサ!!

「ッ、う!!」

 短い閃光と共に背中から落ちたレイン。
 だが、落ちた場所がベッドの上だった為、身体へのダメージは少なかった。
 レインはベッドに仰向けで寝た状態で周りを見渡した。
 高い位置になる小さな窓からオレンジ色の夕陽が差し込んでいる。
 見覚えのある部屋に身体の力が抜けた。
 
「・・・・・・・はぁ、成功した。っ、はぁあ」

 身体が痺れた状態で転移魔法を発動させたのは正直賭けだった。
 棺桶内の酸素と魔力が尽きる前に成功して良かった。
 少々埃っぽいが、新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込む。

 しばらくベッドに仰向けで寝ていると身体の痺れがマシになってきた。
 転送魔法で飛んで来たこの場所は、ルヴァンヌ家の離れ、レインの部屋だ。
 ベッドから上半身を起こし改めて部屋を見渡す。
 一年半以上空けていたが、やっぱり自分の部屋は落ち着く。
 ベッドから降りて、近くにあった姿見鏡に自分の姿を写すと、そこには薄くメイクをして白いワンピースを着せられた自分が写っていた。

「なんか、似合わないな」

 ワンピースを着たのなんていつ以来だろう。
 化粧は生まれて初めてかもしれない。
 鏡に映る姿はまるで知らない人のように見えた。

 姿見鏡の他にも何やら棚や机など家具が無造作に置かれている。
 恐らく、私が討伐に行っている間、あの人達が物置にしたんだろう。
 見覚えのある家具や置物。多分また新しい物を新調したのかな。新しい物好きだったからな。あの人達。

 無造作に置かれ、薄く埃を被った家具や置物を見て、

「・・・・・・・・・・ふ、ははは」

 あまりにも虚しくて、逆に笑えて来た。
 この部屋を物置にしていたと言う事は、もう私はこの部屋に戻ってくる事は無い。そう言う事だったんだろう。
 レイン・ルヴァンヌはこのルヴァンヌ侯爵家では要らない人間と言う事か。

 最初から計画通りという事?
 あの時私に向けてくれた元家族のあの笑顔は、心からのモノでは無かったんだろうか?
 ・・・・・・私もジルベールと同じ男に産まれていれば少しは変わったんだろうか?

 そんな自問自答の考えを何度も繰り返した。

 本当は愛されたかった。一番じゃ無くていい。笑ってほしい。話を聞いてほしい。
 ジルベールと一緒に認めて欲しかった。

 私はいつから、家族の輪から外れてしまったんだろう?

 でも、こんな時に涙を流せない私は、私自身も無意識にあの家族から心が離れていたのかもしれない。

「・・・・・はぁ、考えても仕方ない。どれだけ時間が過ぎたのか分からないけど、さっき私を埋葬していたと言う事は、『別れの5日間』の3日目の筈」

『別れの5日間』
 それは、アレニア王国で行われる貴族の伝統葬儀。
 アレニア王国の貴族は親族内に不幸に見舞われた者が出た時、1日目に周りに故人の事を知らせて、2日目で貴族専用の教会に遺体を運ぶ。3日目で教会で葬儀を行い墓に埋葬する。親族は4日、5日の二日間教会に留まり、故人を偲ぶ。
 これが『別れの5日間』。

 世間体を常に気にしていた両親だったから、不本意でも娘の葬儀はきちんと行うはず。
 そうなると、あの人達がこの屋敷に帰ってくるのは早くても明後日という事になる。
 自分の身を憂い哀しむよりも、これからの生き方について頭を切り替えるレイン。

「レイン・ルヴァンヌはもうこの世にいない人間だとしたら、その方が今の私には都合がいい。とりあえず、身の整えてここを出よう。使用人達に見つからないように夜を待って、夜中に本邸で必要な物を調達しよう」

 両親と弟は無関心だったけど、使用人達にはよくしてもらった。
 だから、いきなり死者が目の前に現れたらパニックになりかねないから、なるべく会わないようにしよう。
 強硬手段は奥の手だな。

 とりあえず、これからいる物を頭の中で整理しておく。
 その時、コツ、と小さな音がレインの耳に届いた。

「ッ、」

 音はコツ、コツ、とこちらに向かってくる。
 使用人がこの離れに来たか?
 咄嗟に身を隠そうと動こうとしたが、

「っ、しまっ、!!」


 まだ体に痺れが残っていた為、体
 の反応が遅れてしまい、

 ガダダ!!

 床に置いてあった木彫りの置物を倒してしまった。

「誰か、部屋にいるのですか」
「ッ、」

 部屋の外から声がかけられた。
 そして、

「このお部屋はもう入ってはいけないと言った筈、」

 声と共にドアが開けられらてしまった。
 部屋に入って来たのは、レインのよく知った初老の女性だった。

「・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・え?」

 身を隠す暇がなく、その場に立ち尽くすレインとレインの姿を見て初老の女性は部屋に入ろうとした体勢で固まってしまった。

「お、お嬢様??」
「・・・・・・・・・婆や」

 両親の愛情をもらえなかった私に惜しみ無い愛情と厳しさを教えてくれた、ルヴァンヌ侯爵家メイド長にして、婆や、ソフィだった。

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