男装の英雄は用済みだと棺桶に入れられた

翔千

文字の大きさ
上 下
2 / 18

気がついたら棺桶の中

しおりを挟む
 寝苦しく感じる意識の中、レインは息苦しさとむせ返るような花の匂いに目を覚ました。

 ここは、?

 言葉を出そうとしたが、まだ身体が痺れて口どころか指一本動かせない。
 両手は胸の前で組まされている。
 目の前には壁。四方八方壁。
 人一人入る箱。寝返りは打てそうに無いほど狭い。
 そして箱の中に敷き詰められた真っ白い花。

 箱?いや、箱と言うよりも・・・・・。

 レインはすぐに自分が長方形の棺桶に入れられた事を理解した。

 なんで、私が棺桶に??

 そう、まだよく回らない思考で考えていると、

「レイン!!!なんで、折角ジルベールが英雄になって帰って来たのに!!」

 母上の悲痛な声が聞こえて来た。

「レイン、お前はジルベールに比べれば不出来な子だった。だが、姉としてせめて弟の生還を共に喜ぶ事は出来なかったのか?」

 父上の声も聞こえる。

「姉さん。僕に嫉妬して男の様な真似事をするような人だったけど、せめて、普通の女性として幸せになって欲しかったよ」

 ジルベール。

 何を言っているんだこの人達は。
 今までそんなに気にかけてくれた事も無かったし、なんでずっと侯爵家の別荘で引きこもっていたジルベールが英雄なんだ?
 不出来な子?どんなに頑張っても成果を出しても、まともに見てもくれなかったくせに。男の様な真似事?男装をする様に強要したのは両親なのに、私が悪いの?
 男装して、仮面を付け、魔王軍の討伐して、やっと家族に認められたと思ったのに。

 怒りよりも、どうしようも無い虚しさがレインを襲う。
 身体も口も動かせない。
 腕の一つでも動かせれば、今すぐ目の前の壁を打ち抜いて、文句を言えるだろうが、まだ身体が痺れて動けない。

「ルヴァンヌ卿」
「ああ、頼む」
『ッ!?』

 棺桶がグラリと揺れた。
 感覚的に、下に降ろされていく感覚だ。
 2Mくらいの深さに降ろされた。
 ひんやりとした冷気が壁越しに感じる。

 ドサ、ドサ、ドサ。

 目の前の壁に何かが落とされるような音と振動が棺桶内に響いた。
 これは、土の匂いだ。

 ああ、私、埋められるんだ。
 まさか、息子可愛さに、実の娘にここまでやるとは、怒りを通り越してある意味感心するよ。

 レインはぼんやりそう思った。

 そして、何かが吹っ切れた。

 徐々に圧迫感が増していく。
 しばらくすると、降ってくる土の音が止んだ。
 息苦しさと圧迫感が半端ない。
 棺桶の中に残っている空気は数分も持たないだろう。
 このままでは、どちらにしろ窒息してあの世行きだ。

 もう、いいよね?

 棺桶の中でレインは小さく笑った。

 レインは出来る限り大きく息を吸い込んだ。
 身体中の魔力を右手の人差し指に集中させる。魔力の光を灯す指先。
 痺れる身体を必死に動かし、震える指で目の前の壁に、魔法陣を描く。
 指でなぞった所から光が連なり歪んだ線が生まれ、指を壁から一度も離すことなく歪な魔方陣が出来る。

「ッッ、」

 棺桶内の酸素が薄くなって来たのか、目の前が霞んできた。
 ・・・・・時間がない。

「ッ、ヴォレ!!」

 棺桶内に光が溢れ、レインを包み込み、一瞬でレインの身体が棺桶の中から消えた。


 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

豊穣の巫女から追放されたただの村娘。しかし彼女の正体が予想外のものだったため、村は彼女が知らないうちに崩壊する。

下菊みこと
ファンタジー
豊穣の巫女に追い出された少女のお話。 豊穣の巫女に追い出された村娘、アンナ。彼女は村人達の善意で生かされていた孤児だったため、むしろお礼を言って笑顔で村を離れた。その感謝は本物だった。なにも持たない彼女は、果たしてどこに向かうのか…。 小説家になろう様でも投稿しています。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

姉妹差別の末路

京佳
ファンタジー
粗末に扱われる姉と蝶よ花よと大切に愛される妹。同じ親から産まれたのにまるで真逆の姉妹。見捨てられた姉はひとり静かに家を出た。妹が不治の病?私がドナーに適応?喜んでお断り致します! 妹嫌悪。ゆるゆる設定 ※初期に書いた物を手直し再投稿&その後も追記済

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

処理中です...