男装の英雄は用済みだと棺桶に入れられた

翔千

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葬られた勇者

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 暗い、暗く狭い空間。
 身体は寝かされ目の前にはすぐに壁があり、左右にも壁がある。
 ただでさえ息苦しいのに、むせ返るような濃い花の匂いに、頭が痛くなる。
 手の足も痺れて余り動かない。

 まさか、実の娘にここまでやるとは、怒りを通り越してある意味感心するよ。

 レインは自分が入れられた棺桶の中でそう思った。


 20年前、アリニア王国侯爵家、ルヴァンヌ侯爵の双子の長女と長男として生を受けたレインとジルベール。
 赤毛の髪に緑色の瞳の双子の姉弟は周りから天使のようだと言われた。

 だが、両親に祝福されたのは、弟のジルベールだけだった。
 双子の弟のジルベールはルヴァンヌ侯爵家の跡取りとして両親の愛情を一身に受けていた。

 今思えば、長男教だった両親はジルベールの双子の姉である私には無関心だったな・・・。
 殴られたり、酷い言葉で怒鳴られたりは、しなかったけど、記憶にある両親の顔は、いつもジルベールに向けた笑顔の横顔だけだった。

 どんな時でも弟が優先され、私はいつも後回しにされた。意見を言えば「姉だから」「ジルベールはルヴァンヌ家の後継」「我儘を言うな」と言われ、相手にされなかった。
 4歳になった年に、私は女の子で居る事を禁止された。

 男の双子が欲しかった両親は私を女児のレインとしてでは無く、男児として育てるように使用人に命じた。
 背中まで伸ばしていた赤い髪を短く切られ、ジルベールの代わりにと魔法術を覚えさせられ、武道、剣術を叩き込まれた。
 少しでも泣き言や弱音を吐けば、教育係からの容赦の無い叱責と折檻が幼い私に飛んできた。

 次第に両親はジルベールを私から遠ざけるようになり、9歳の頃には私は離れに移され、共に食事をする事も無くなった。
 弟は次第に私を見下すようになり、姉とは呼ばなくなり、居候扱いをする様になった。

 洗脳されていたかもしれない。

 それでも、家族に認めてもらいたい。
 一言でもいい、褒めてもらいたい。
 そう心に思い魔法、武術に打ち込んで来た。
 可愛いい人形もキラキラしたドレスも、甘いお菓子にも見向きもせず、ひたすら剣術と魔法の訓練に明け暮れた。

 そんな日常の中、世界中を震撼させた出来事。
 魔王軍の侵攻だ。
 突然の魔族の侵攻に世界中の優れた勇者、魔道士、魔術師、魔女が魔王軍の侵攻を阻止を試みたが、全て防がれてしまった。
 そこで、白羽の矢が立ったのは、アリニア王国侯爵、ルヴァンヌ侯爵家だった。
 ルヴァンヌ侯爵家は元は大義を遂げた勇者が成した家系だと代々伝わる逸話がある貴族だった。
 両親が息子であるジルベールを溺愛するのもこの逸話が原因の一つだった。

 国王陛下から直々の勅命に両親とジルベールは大いに喜んでいたのだが、魔王軍討伐前日、事件が起きた。

 ジルベールが行きたくないと駄々をこね始めたのだった。

 私と違い、両親の英才教育の元育ったジルベールは魔力も武術も人並み以上優れているが、いざ、戦いに出るとなると臆病風に吹かれ、戦いたくないと両親に泣きついたのだった。

 我が弟ながら情けない。

 弟のジルベールが魔王軍討伐前日に討伐に行く事を拒否した。
 だが、魔王軍の討伐は国王の勅命。
 断わる事ができない為、両親は娘のレインをジルベールとして戦場に出すことにした。
 双子で顔が似ており、武術に精通したレインは細身のジルベールと体格も似ていた。
 だが、両親は女とバレないようにレインに女である事を隠し、常に甲冑を身につけて仮面を付ける事を義務付けた。

 両親の洗脳下にあったレインは素直に従った。
 こうして、弟ジルベールの代わりに魔王軍討伐に出たレイン。
 常に仮面を被り、仲間とも極力馴れ合わず、次々に敵を切り捨て討伐する姿を見た者は、まるで命の刈り取るようだといわれ、やがて、『死神の勇者』と味方からも恐れるようになった。

 そして一年半の戦いの果て魔王軍の大将を討ち取る事に成功したレイン。

 家に帰って来たレインを待っていたのは、満面の笑みの両親だった。

「よく頑張った」
「無事に帰って来てうれしいわ」

 その時、生まれて初めて、両親に褒められた。
 その一言が本当に嬉しかった。
 ああ、やっと、認めてもらえた。
 心の底からそう思った。

 父上は私に労いに言葉をかけ、魔王軍の討伐の話をたくさん聞いて来た。父上とこんなに話しをしたのは初めてだった。
 母上は焼き菓子をジルベールは紅茶を直々に振る舞ってくれた。
 今までこんなにもてなされた事なんて無く、初めて尽くしの事に緊張していた。
 お茶と焼き菓子の味が分からなくなるくらいに。

 大方魔王軍の討伐の話を終えた、その時、手が痺れて来た。
 小さな違和感の痺れが、指先から手に腕に広がり、次の瞬間、胸が大きく鼓動をたてた。
 脳が『コレは毒』だと認識した途端に、気管が狭まり息苦しさと胸の痛み、身体に廻る強い痺れに息が出来なかった。
 いきなりの身体の異変に耐えきれず床に倒れ込んで込んでしまった。
 上手く呼吸が出来ず、苦しさにもがく私を満面の笑みで見下す両親とジルベール。

「今までご苦労だったな。お前はもう、用済みだ」

 優しい口調だが、冷たい父上の言葉を薄れいく意識の中、やけに耳に残った。
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