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しおりを挟む「旦那様、これは?」
「鹿の干し肉だ」
「旦那様、あの音が出るあれは?」
「竜を象る子供の玩具だ」
「では、あれは?」
「あれは――」
晩秋の澄み渡る青空。
その下で、私ははしゃいでいる。見たことのない物が沢山あり、寒さを忘れるほど胸が高鳴る。
旦那様は私の質問攻めに耐えて、丁寧に一つずつ答えてくれた。
彼に誘われて次の日。「二人も無茶しないこと」とニコルに口酸っぱく言われてから私たちは町に出かける。
今日の城下町はいつもととても違う。
どうやら、秋祭りが開催されるみたい。
秋の収穫を祝い、労働者を労う。冬本番に入る前の、皆が箍を外す一週間である。
仮面などを被り、身分や生まれなど関係なく、只々秋を祝うという行事だ。
現に、私と彼は今フードを纏い、仮面を被っている。彼は言わずもがな、ゼベランでは稀な銀髪と青い瞳を隠すために変装している。
旦那様曰く、この時期の王都はとても賑やかだ。
それを、彼はただ純粋にゼベランに住み始めたばかりの私に見せたい、と。
カレンも休暇中だから、彼が代わりに護衛してくれる、ということだ。
要するに、ただの観光案内。いや、町視察の方が近いかもしれない。
馬車の中でその説明を受けた時は恥ずかしすぎて倒れそうになった。
どんな顔で彼と二人きり城下町を歩き回ればいいのか。道中、そのことばかり考えてた。
考えてたが――。
「旦那様、このパンはすごく美味しいです!」
「そうか」
蓋を開ければ、城下町に着いた瞬間、心が奪われた。
半分に分けられたパンを咀嚼すると、口と鼻の中にスパイスの香りが広がる。
視覚や味覚、五感が未知に刺激される。心が満たされる。
昔は頻繁にファルク様とこうやってお忍びで買い物などしていた。その記憶がよぎり、懐かしい気持ちになった。
彼も新しいものを発見する時は子供のように振る舞う。護衛騎士達が苦笑いするほどに。
「はしゃぐのはいいが、仮面が落ちないように気をつけてくれ」
そう言いながら彼は私の唇の端に触れる。
「ついている」
「ご、ごめんなさい……ありがとうございます……」
急に距離が縮まるのは心臓によくない。現実に引きずり戻された気分になる。
この場を誤魔化すために、目の周りを隠す妖精の羽根を象る仮面をかけ直すふりをする。
昨日といい、今日といい。やっぱり、私はどこかおかしい。
彼の言動に異様に敏感になった。言葉一つで、動き一つで体が反応してしまう。
早くなる鼓動に苦しくなる胸。体がほてり、吐息まで熱くなる。
顔を俯かせると、無言の視線を感じる。
「だ、旦那様! 次はあちらの店を見てみたいです!」
それから逃れるために、彼のフードを引っ張る。抵抗を感じず、そのまま近くの店に近づける。
その露店のテーブルの上は複数の色で彩られる。光沢があり、太陽光が当たるとキラキラと輝きを放つ。
その美しさに、私の目が奪われた。
赤に橙、緑や紫。
並べられたものの中から、一箇所に視線が止まる。
青と黄が隣り合っている。
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