名前を忘れた私が思い出す為には、彼らとの繋がりが必要だそうです

藤一

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私から逃げられるとでも?※

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事後特有の気怠い空気の中、少し眠っていたらしい。くすぐったい感覚に、薄っすら目を開けるとアルケーさんが私の髪を指で梳いていた。

「・・ん、アルケーさ・・ん」

部屋の中はまだ暗い。ぼんやりした頭のまま、隣の彼に手を伸ばす。アルケーさんは私の手を取ると手の平にキスをした。

「・・まだ早いですから、寝てて下さい」
「・・ん」

私はアルケーさんにもぞもぞ擦り寄る。肌と肌が触れ、彼の体温が心地良い。額をアルケーさんの鎖骨辺りにぴったりとくっ付けた。彼の香りも相まって良い二度寝が出来そうだ。

「・・王子と二人なら、この髪色、もう少し薄く出来ますね」
「へぇ・・そうなんですか?」
「えぇ、私より王子の方が魔力は強いですから。東の髪色位まで薄く出来るかもしれません」
「ふふ、ミスティコさんとお揃いかぁ・・」

そうかぁ、ミスティコさんのグレーの髪色は素敵だけど、私に似合うかなぁ。そんな事を考えているとアルケーさんが「駄目ですね」と呟いた。

「・・やっぱり、やめときましょう。今のままの方が似合ってます」
「へ」

前言撤回がえらく早い。アルケーさんが「駄目」と言った理由を考えるが、思い当たるのは「ミスティコさんとお揃い」と発言してしまった事位しか思い付か居ない。

「・・そ、そうですね。一応『オオトリ』ですもんね。薄くし過ぎない方が良いですよね」

アルケーさんがぎゅうと私を抱き締め、私もアルケーさんに腕を回して背中を撫でた。そうやって、夜明け前の寝室で二人で体温を分け合っていると、アルケーさんが少しだけ身体を離し、私の顔に掛かる髪を指先で払った。彼の琥珀色の瞳と見詰め合う。

「・・オト、口付けても?」

普段はそんな事聞かないのに。そう思いながら、私が頷くと頬に手を添えられ、そっと唇が触れた。静かに柔らかくお互いの呼吸が溶け合う。角度を変えて何度も粘膜を触れ合わせた。朝の光が差し込み始めたベッドの中、どちらからともなく舌を絡ませる。

「・・ん、はぁ・・ぁ」

我慢出来ずに声が漏れてしまう。

「ねぇ、オト。謝らせて下さい」
「・・へ」
「さっき『寝てて下さい』と言ったんですが、起きてて貰っても良いですか?」
「えっと・・それって」

アルケーさんが言葉で答える代わりに、私の胸の先をきゅっと指先で摘まんだ。「ん゛んッ!」と鼻に掛かった甘ったるい声を上げてしまう。

「・・激しくはしないので安心して下さいね♡」

アルケーさんの瞳が三日月の形になる。

「後ろから、ゆっくりオトの中を起こしてあげますから」

アルケーさんはそう言うと、私を引っくり返しうつ伏せにした。
アルケーさんの髪が背中に触れ、次にうなじ、肩、肩甲骨と唇が落ちて来た。キスに合わせて屹立が蜜口を擦る。指とは違うもので、濡れている蜜口と花芽をぐりぐりと擦られ、腰が浮いてしまう。こんなの「早く挿れて」と強請っているみたいだ。

「・・本当にオトの身体は、心配になる位に、素直ですね」

何時もより低い声でそう言われた瞬間、ぐぐっと屹立を押し込まれた。濡れていたとは言え、しっかりした質量を持ったものに身体の中心を抉られ喉が引きつる。

「あ゛あ゛ぁぁッ!」
「・・ん、はぁ・・オト、少し・・ん、力を、抜いて。はぁ・・馴染ませましょうね」

アルケーさんは屹立を挿れたまま、身体を折り、私の脇から手を入れた。マッサージをするみたいに私の胸を膨らみを揉み始め、時折、アルケーさんの髪が背中に触れる。くすぐったいのと気持ち良いが交互にやって来て、快楽から気を逸らす為にシーツを掴む。アルケーさんはそんな私の手に自分の手を重ね、指を絡ませた。

「・・オト」

耳元で甘く囁かれ、トントン・・とアルケーさんの屹立がゆっくりと動き始める。屹立がお腹の裏側を丁寧に擦り、私の最奥を軽く突く。激しくされたなら、何も考えずに快楽の波に呑まれていたと思う。ゆっくりとされると、理性が少しずつだが確実に侵食されるのが分かった。腰を少し上げ、アルケーさんの動きに合わせて自分も腰を揺する。

「ん♡んん・・♡あ、あぁん♡アル、ケーさん・・き、気持ち、いいよぉ・・♡あ゛ん♡あぁん♡」
「・・ふふ」

アルケーさんは満足げに低く笑うと、私の咥内に指を入れて来た。

「・・アルケーさ、ん。・・ん、好き」

アルケーさんの指に舌を絡ませる。ちゅうと指に吸い付くと、背後からアルケーさんが覆い被さって来た。アルケーさんの香りがより一層強まる。

「・・本当に私のオオトリは、トマリギを煽るのが上手い。・・約束は守れませんよ」

ずるりと指が口から引き抜かれ、背後に感じていた彼の体温が離れる。「あ・・」と思ったら、アルケーさんが私の腰を両手で掴み乱暴に持ち上げた。身体が引っ張られ、シーツに顔を伏せた瞬間、ゴツッと身体の奥から聞こえてはいけない音が聞こえた気がした。

「ッは!!あ゛ーーッ!!」

喉が反る。さっきまでの甘やかすような律動ではなく、子どもを宿す場所を犯すような動き。強過ぎる快感に涙が浮かぶ。思わず腰を引いてしまう。

「や、やぁぁうッ!!やぁッ!!ダメダメッ!!あ゛ぁッ♡あんッ♡ん゛ん゛ーー♡」
「はぁ、ん、ねぇ、オト・・私から逃げられるとでも?」

苦し気な吐息の合間に、背後からそう声を掛けられる。
『逃げられる』?気持ち良さに支配され、言葉の意味を深く考えられない。シーツに顔を押し付けたまま頭を振る。

「・・ん、そう、良い返事ですね。私の雛には、ご褒美を上げないと」

クスッとアルケーさんが笑った声が聞こえたと思ったら、パンッパンっとお互いの肌がぶつかる。ぐしゅぐしゅと卑猥な水音も混ざり、ギシギシとベッドが悲鳴を上げる。アルケーさんが腰を打ち付ける衝撃に合わせて「ん゛ん゛ッ♡♡」と苦しさと気持ち良さがない交ぜになった声で低く喘ぐ。

「ん゛ーーーッ!!ダメダメ♡い、イッちゃう゛♡あぁッ♡あ゛ーーイッちゃう♡」

アルケーさんの手が私の腰を鷲掴みにし、パンッとひと際深く突き挿した。中で屹立がぐっと質量を増す。

「あぁ・・」

快楽に溺れた声は、どちらのものだっただろう。目の前が真っ白になり、アルケーさんの身体が震えたのが分かった。


・・明け方だったよね?激しくしないから安心してって言ったよね?
明るくなった寝室で天井をぼうっと見上げ、夜明け前のアルケーさんの言葉を思い出す。起きると既にお昼前だった。どうやらアルケーさんは仕事に行ったらしい。ベッドサイドに「行って来ます。ゆっくり休んで下さい」とメモが置いて有った。綺麗になったベッドの中で頭を抱える。

「・・明け方にセックスしてお昼に起きるなんて、自堕落過ぎる・・」

ごろんと寝返りを打ち、彼の香りが残るシーツに顔を近付けた。

「・・王子の所に通い始めるのも、もうすぐだし」

アルケーさんも、それが分かっているから回数がより増えているのかもしれない。身体を重ねる事で、アルケーさんが安心するなら、それはそれで良いんだけど。そんな事を考えていると、ふと今朝の交合を思い出してしまい、お腹の奥がじわりと疼く。自分の身体の反応に顔に熱が集まった。
・・絶対にマズい!!アルケーさんにあれこれされた所為で、パブロフの犬じゃないけど、身体が勝手に反応するようになっている!!
アルケーさんという存在が、私の一部を作り変えた?いや、違うな。多分、私の中にずっと眠っていた、もしくは見ない振りをしていた欲を、アルケーさんが引き摺り出した。アルケーさんに触れられる度、私も喜んで拓かれた。
・・少し怖いかも、しれない・・。今の私は、元の世界に居た時と確実に違う。元の世界に戻っても、アルケーさんに抱かれた記憶は忘れないだろう。忘れられる訳がない。

『ねぇ、オト・・私から逃げられるとでも?』

夜明け前の情事の最中の、あの言葉を思い出す。あの時、アルケーさんはどんな顔をしていたんだろう。
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