名前を忘れた私が思い出す為には、彼らとの繋がりが必要だそうです

藤一

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今だけは・・私だけのオト・・※

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王子の所に泊まりに行く日になった。なってしまった、と言うか。アルケーさんは、散々抱き潰した日以降、キスや軽い触れ合いはして来たが、最後の一線は越えて来なかった。

王子の所に行く二日目の夜。ベッドで微睡んでいると後ろから優しく抱き締められ、そっと胸の膨らみを揉まれた。「ぅん・・」と声を漏らすと、うなじの髪を払われキスを落とされる。お尻の辺りにアルケーさんのものが当たった。しっかり主張していたソレを感じ、てっきり先に進むのかと思ったら、アルケーさんは私の事を抱き締めまま、それ以上触れては来ない。身体の奥が燻り始めているのは私だけじゃない筈なのに・・。自分からこんな事を言い出すのは躊躇われるが、もやもやしたまま眠るのも嫌だ。

「あの、アルケーさん・・」

遠慮がちに背後のアルケーさんに声を掛ける。

「はい、何でしょうか」
「・・う、その、えっと・・自分からは、その、言い辛いんですけど・・」
「・・言い辛いなら、無理しなくても良いですよ」

顔は見えないが、この反応・・絶対に絶対に!!私が言いたい事分かってる!!バレているなら恥ずかしいが、この際はっきり言ってしまおう。

「・・その、どうして最後まで、しないんですか?」
「ふふ、したいに決まってるじゃないですか。私のオト」

アルケーさんはそう言うと、数回うなじにキスをした。舌先でも舐められ、くすぐったさに肩が上がる。

「・・んん、なら、どうして・・」
「理由ですか?・・そうですね、目の前に王子との初夜が迫っているのに、私の痕跡を残しておくのは失礼だと、と私は考えているので」

うなじに唇を押し付け、アルケーさんがそう告げる。
アルケーさんの言葉にハッとさせられる。あーー、私のバカバカバカ!!自分の事ばかり!!自己嫌悪に陥りながら、身体を縮こめた。

「あの、私・・何も考えていませんでした・・。すみません・・」
「私が勝手に決めた事ですから。私の方こそすみません」

アルケーさんが耳元に唇を寄せた。そして、ワンピースの裾から入って来たアルケーさんの手が私の太ももを這う。さ、さっき「痕跡を残しておくのは失礼だ」って言ってたのに。予感なのか期待なのか、ぞくりと肌が粟立つ。

「・・オトも私と同じように、本当は欲しいけれど、我慢してくれてるんですよね?」
「ッ!!」

太ももに触れる感触が艶めかしく、そちらに意識が持って行かれ何も答えられない。私の無言を「是」と受け取ったのか、内ももに手が回り、きわどい場所をゆっくり撫でられる。「ん・・」と我慢出来ず、うわずった声が漏れる。

「ねぇ、今は無理なんですが、オトが帰って来る日には休みを取っているので、オトの中を私で一杯にしてあげられると思いますよ。良い子のオトなら、私の言って欲しい言葉、分かるでしょう?」

アルケーさんは甘えた声でそう言いながら、硬くなったものを、ぐっと押し付けて来た。「はぁ、ん」と切なげな溜息を零してしまう。こうなっては、アルケーさんに抗う事なんて出来ない訳ない。

「・・アルケーさん・・その・・帰って来たら、た、沢山、出して、下さい」
「えぇ、勿論。一滴残らず、オトの中に注いであげますからね」

言い終えると、アルケーさんが耳朶を食んだ。たったそれだけの事なのに「あんッ♡」と喘いでしまう。じとりと下着が濡れているのが分かった。太ももに指を這わせているアルケーさんも、きっと気付いているだろう。

「・・見える場所に私の痕跡は無くても、閨房でのオトの反応を見れば、誰にどれだけ愛でられて来たか、聡明な第5王子なら分かると思います。ふふ、どんな顔をなさるんでしょうね」

うっそりとした笑い声に、何と答えて良いか分からず押し黙る。私の中で揺らめていたものが小さくなるのを感じた。
アルケーさんもそれ以上は何も言わず、太ももを撫でていた手が離れた。ぎゅうと苦しい位に抱き締められ、私は身体に回された腕に自分の手を重ね目を閉じた。


そして、ついに王子の所に行く日、つまりは今日を迎えた。
向こうに全部揃っているから、こちらから持って行く物は無い。前と同じで、王子から送って貰った服を着て、別邸に行くだけ。やる事はほぼ無いが、朝から落ち着かない。
王子は神殿まで迎えに行くとずーーーーっと言っていたらしいが、神殿側のアルケーさんとミスティコさんが断固拒否したらしい。意味も無く鏡を覗き込んだり、セットして貰った髪に触れたりしていると、アルケーさんに声を掛けられた。

「オト、そろそろ時間ですよ。東のが神殿の正門で待ってるんでしょう?」
「あ、はい」

アルケーさんとは数日会えなくなる。此方に来てから、離れた事がほとんど無かったから、何だか不思議な感じだ。昨日の夜、アルケーさんは私に「離れがたくなるので、見送るのは玄関まで」と告げていた。
玄関で靴を履いた私と神官服に身を包んだアルケーさんが向き合う。何時もと位置が逆だ。

「・・えっと・・アルケーさん、行って来ます」
「えぇ、気を付けて」
「その、アルケーさん。お仕事、頑張って下さいね」
「そうですね・・オトが居ないので、頑張れないかもしれません」
「私が帰って来る日は・・あの、お休みを取るんですよね?」
「ふふ、そうでした。その為にはオトが居ない間も頑張らないといけませんね」

アルケーさんは、やれやれと言った感じで肩を竦めた。私は自分から腕を伸ばしアルケーさんの首にしがみ付く。すると、彼の腕が腰の辺りに回された。息をすぅと吸い込む。

「私の初めてのトマリギ、さん・・」
「・・私だけのオト」
「はい」
「愛してますよ」
「アルケーさん、私も・・」

自分から唇を重ねた。触れるだけのキスをして顔を離す。視線を合わせると、目の前の彼の表情がほんの少しだけ歪んだ。卑怯な私は気付かない振りをする。アルケーさんの手が大切な物に触れるみたいに、私の頬を撫でた。

「・・行ってらっしゃい」
「はい」

そうやって、私は家を出た。

丁度、神殿に上がる人が多い時間帯と言う事も有り、同じ居住区の皆さんとすれ違い挨拶する。私は此処では「ミスティコさんの親戚で、アルケーさんの婚約者」と言う事になっている。王子の別邸では、ご近所さんにはどう説明したら良いんだろう。この髪色は誤魔化せないし。そんな事を考えて歩いていると、神殿の石造りの正門に着いた。ミスティコさんが神官服ではなく軽装で待っていた。私は軽く頭を下げる。

「おはようございます。お待たせしました」
「北のが付いて来るかと思っていましたが、アレもようやく諦めがついたんですね。良い事です」

少し嫌味っぽい言い方が引っ掛かり、ミスティコさんの表情をちらりと伺う。ミスティコさんも何か思う所が有ったようで口元に手を遣り、溜息を吐いた。

「・・すみません。言い方が悪かったですね」

どう答えて良いのか分からず戸惑っていると、ミスティコさんがすぐ近くに馬車を待たせているから、と案内してくれた。
正門の所でのやり取りの名残なのか何なのか、馬車の中ではミスティコさんと向かい合って座ったが、向かい合う彼は腕組みをしたまま無言だった。若干、居心地が悪い。何かこう、場の雰囲気を変えるような話題は無いかと、窓の外や自分の手元を見たりして、逡巡する。

「あ、あの、ミスティコさん。帰りはどうすれば良いですか?」
「明後日の午後に、神殿側から迎えを遣りますよ。どうぞご安心を」
「・・明後日の午後・・」

三日間、王子と一緒なのか。改めて考えると、三日間って結構長いな。

「飽きたら途中で切り上げて、神殿に帰って来て貰っても問題無いですよ」
「え、あ、はは・・多分、大丈夫です」

私の顔色で察したのか、ミスティコさんは冗談めかしてそう言うが、冗談に聞こえない。私は愛想笑いで誤魔化す。また、狭い空間に沈黙が澱のように再び溜まり始める。わ、話題・・何か・・そう考えた所で、今朝、考えていた事を思い出す。

「・・あの、ミスティコさん。変な事聞いても良いですか・・?」
「何でしょう」
「ミスティコさんの髪色って珍しいんですよね?親戚の皆さんも同じような髪色なんですか?」
「まさか。今のところ、オウロニスの一族の中でも俺しか居ません」
「え、そうなんですか?オオトリの一族でもミスティコさん一人なんですか?」
「えぇ。先代の当主が俺と似た髪をしていましたが、彼女は・・もう居ませんし」

そう言い、ミスティコさんは少し俯きグレーの髪を耳に掛けた。ちらりと見えた表情に寂しさが滲む。ミスティコさんもそんな顔をするんだ・・。多分、先代当主はミスティコさんにとって大切な人だったんだろう。
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